第1話③
ブルーノが準備を始めた一方。アクエリアスの港には大きな船が四隻泊まっていました。そこからは、パーティーで使うものを乗せた小さなトラックが数珠繋ぎに出てきて、真っ直ぐにお城へと入っていきます。
その数といったら、巨大な船から港、城へ続く道路が全て埋まるほど。
ここで不思議な事がありますね。さて、このトラックはどこから来たのでしょう。船から出て来たのだから、海からでしょうか?アクエリアスは陸地が1つしかないのに?
正解は、宇宙です。トラックを乗せた巨大な船は、実はアクエリアスの周りにある4つの星から来た宇宙船だったのです。
そしてここでもう1つ昔話をしましょう。
今から3000年前のこと。お城が出来てすぐ位でしょうか。いつものように底引き網漁をしていた漁師が、あるものを引き揚げました。太陽のように輝き、ほのかに熱を帯びた石……のようなものでした。
この石。初めは明かりとして使われ始めました。しかも、一度使いだすと光が弱くなることもないのです。そして、人間と技術の進歩していくとともに、エネルギーとしても利用され始めました。いつしかその石は「ノアメタル」と名付けられ、アクエリアスの技術の発展に必要不可欠なものとなっていました。
そんなこんなで暮らしが便利になり。2000年前のことです。順調に人口が増えたアクエリアスですが、1つ困ったことが出てきました。
土地が足らなくなったのです。
ただでさえ土地が狭いアクエリアスで人口が増えてしまうと、当然住むところがなくなってしまいます。そこで当時の人間は考えました。
そうだ、宇宙に行こう!と。
旅行での行くかのような気軽さですが、ノアメタルのお陰で、技術はとうにその領域まで進んでいました。
天体観測の結果から、アクエリアスの近くには4つの異なる性質をもった星があることがわかっていました。さらに喜ばしいことに、4つの星には全て空気があり水もある。住むには最適だったのです。
彼らはすぐに移住計画に取り掛かりました。ノアメタルの更なる開発を進め、ロケットを作り、調査に向かいました。
そして、300年経ったころに移住第一号がそれぞれの星に暮らし始めました。500年にはその倍。1000年経つ頃には、それぞれの星で、新たな文化が生まれました。
それぞれの星の特徴は、今後説明するとして。こうして、それぞれの星で他の星ではできないことを補いつつ、5つの星は発展していきました。
さて、今のお話に戻りましょう。城の中に吸い込まれていくトラックの中の一台が、他とは別の搬入口に到着しました。
「お待ちしておりました」
「うむ。ごくろう」
待っていたのはレオパード。深々と頭を下げる先には小太りの男がいました。金色の髪に眠そうな眼。無駄に豪華な服を着ています。
「シャルル様、長旅でお疲れでしょう。どうぞこちらに!」
「うむ」
どしどしとした足取りの男。レオパードが案内したのは、地下の部屋でした。普段は倉庫として使っている場所ですが、今回は豪華に飾っていました。その中央にはこれまた豪華な椅子。シャルルと呼ばれた男がドスっと座りました。
「準備は?」
「万全です。後は式典の際にシャルル様が宣言を行えば王に返り咲くことができます」
このシャルルという男。実は15年前までアクエリアスの王様でした。ジャックに王位を奪われ、国外へ追放されていたのです。
「ようやく憎きあの侵略者から、余の国を取り戻せるのだな……」
「長うございました……」
険しい顔をするシャルル。涙を浮かべるレオパード。そしてもう一人、ギラついた目をした男が立っていました。
「ジャックは……?」
「ティーチ、貴様はいつもあの男の事ばかりだな……」
ティーチは、この周辺の宇宙にその名を轟かせる大海賊でした。小綺麗な服を身に纏っていましたが、隙間から見える肌には、いくつもの傷が見えていました。特に大きいものは顔の傷。米神から顎まで続く切り傷です。
性格は残忍で冷酷。仲間でさえも簡単に傷付けてしまう男です。
シャルルが王様だった頃から、共にこの国を支配していた海賊は、今はジャックの事しか見えていないようです。
「では、シャルル様はここで準備ができるまでお待ちください。ティーチ殿は、ジャックが挨拶を始めたら、シタッパを連れて会場を制圧してください」
「すぐやっちまっていいんだろ?」
「駄目です。シャルル様が王に戻るためには、その正統性を示さなければなりません」
「チッ!!」
舌打ちをしたティーチは、手に掛けた武器をそっと下ろしました。相当な恨みがあるようです。
「余は至極疲れた。手短に頼むぞ」
「わかってますよ……。おいエドワード」
「はい」
ティーチに呼ばれ、一体のロボットが入り口から入ってきました。
彼はエドワード。白い燕尾服を着たような体に、髪型はフェードカット。右目には眼帯をつけて、まるで白いロバーツのようです。
「俺がジャックを押さえるまで王を守れ」
「了解しました」
エドワードは機械のように頷きました。