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第1話①宇宙海賊再び!!

「お母さん、海賊のお話して!」

「本当にブルーノは海賊さんが好きね」

「だって、格好いいんだもん!」


ある星に、元気な王子がいました。元気で明るい性格は父親譲り。優しく強い性格は母親譲り。妹思いの良き兄であり、国民の多くが次の王に相応しいと思える素直な男の子でした。

そんな彼は、母が話す海賊の話が大好きです。宇宙を自由に飛び回り、たくさんの仲間、たくさんの敵と出会い活躍する海賊が大好きでした。


「そうね。今日はどのお話がいい?」


そんな彼に、母は海賊の話をまるでその場にいたかのように話してくれます。それがより少年の心を惹き付けていました。


「じゃあね!悪い王様を倒す話!!」

「その話ね。わかったわ……」


母は、いつものように海賊の話を聞かせてくれます。彼が一番好きな話は、定住先を探していた海賊が、悪い王様を見つけて倒し、その星の王様になるという話です。


「ねぇお母さん。僕は海賊さんに退治されない?」

「もちろんよ。あなたは海賊さんみたいに強い男の子ですもの……」


これは、そんな少年が、立派な王様になるお話。


ーーーーーー


地球から遠く遠く離れた場所にある、まだ新しい宇宙に、青い星がありました。

名前は「アクエリアス」。名前の意味である水瓶に相応しく、大気という入れ物に海を8割入れて、大地の蓋をちょこんと置いたようなこの星には、少ない陸地ながらも、地球と同じように人間が住んでいました。

彼等の主な仕事は漁業。星に住む全員が食べるだけを取り、時には養殖をして幸せに暮らしていました。

そんな彼らが住む陸地には、森や街があったのですが、特に目立つのがお城です。人間が文化を持ち始めた時に、みんなで決めた王様が住む家として作られました。

外観は砂浜のような白色、三角屋根の大きな家に塔が3本立ったような見た目をしています。

中もとても広く、住んでいる王様家族でさえ全体を把握できていません。

そんな広いお城の中庭で……。


「待つんだメイ!転けてしまうよ!」

「ブルーノお兄様急いで、蝶が逃げてしまいますわ!」


兄妹が蝶を追いかけていました。正確に言うと、妹の方が蝶を追って、兄は妹を心配そうに追いかけています。

兄の名前はブルーノ。年齢は12歳。肩まで伸びた黒髪を1つにまとめた顔立ちのいい少年です。父親譲りの黒い瞳は何にも染まらない、そんな色に思えました。ですが、彼の性格は気弱で何をするにも一度立ち止まってしまう傾向があります。

一方、妹のメイは10歳。黄金の髪に青い瞳の少女は、兄とは正反対で活発でよく笑う少女です。今もふわりとしたドレスを着ているのですが、裾が地面に擦れようがお構いなしに元気に走っています。

彼らが、現在のアクエリアス王国の王様の子供たちです。


「あら、逃げてしまいましたわ」

「メイが追いかけ回すからだよ……」


蝶が城の外へ飛んでいってしまいました。いつもならそのまま外へと向かうのですが、今日は夜にパーティーがあるので、外へ出ることはできません。


「お兄様。私、疲れましたわ」

「そうかい。じゃあお茶を飲もう」


ベンチに座った二人は、ブルーノが持ってきていた水筒のお茶を飲みました。

今日のパーティーは、父親である王様が即位して丁度15年目の日。すこし中途半端な気もしますが、今年は特に大きな行事もないので、していなかった10周年パーティーも兼ねているのだとか。


「お兄様、どうして私には虫さんや鳥さん達が集まってきてくれないんでしょう?」

「こちらから追いかけてはいけないよ。びっくりしてしまうからね。お馬だってそうだろう?まずは挨拶をしなくちゃね」


ブルーノは昔から好かれやすい少年でした。それが人間であっても生き物であっても。

ただ最近は、近寄ってくれても上手く返事をすることができずにいました。


「挨拶ならしてますわ!」

「ゆっくり、ゆっくりだよ。そうだな……。もしメイの目の前に巨人が現れて、いきなり追いかけられたらどうする?」

「そんなの、ドンと受け止めますわ!」


メイはというと、好奇心が強すぎるせいか、逆に相手を怯ませてしまいます。

そうかい。

そんな妹にブルーノは優しく微笑みました。妹の性格を羨ましく思っているのです。

すると、城の方から二人を呼ぶ声がしました。


「二人とも、そろそろお昼を食べましょう」

「お母さん」「お母様!」


そこにいたのは二人の母であるアンジェリーナ。メイと同じく黄金の髪に青い瞳をもつ美しい女性です。王の妃なので一段と派手なドレスを着ているのかと思いきや、動きやすいパンツスタイルでした。

母の姿を見つけたメイが、ベンチから勢いよく立ち上がり、走り出そうとしたその時でした。


ガクン!


突然膝が沈み、倒れてしまいそうになったのです。


「危ないっ!!」


間一髪、ブルーノが体を支えたので転ぶことはありませんでしたが、ブルーノは妹の異変に気がつきました。


「お、お兄様……」


メイの額に汗が浮かんでいるのです。慌てて手を当てると、僅かに熱がありました。


「熱があるじゃないか!ロバーツ!!」

「はい、ここに」


ブルーノの慌てようと言ったら、まるでメイが意識でもなくしたかのようです。

そして、ブルーノの言葉に即座に現れたのは、黒い燕尾服を着たような体をしたロボットでした。

彼の名はロバーツ。国王に仕える四人のロボットのうちの一人で、今はブルーノの執事をしています。フェードカットを固めたような頭をしていて、右目には眼帯をつけています。


「ポーラにも連絡しましたので、すぐに来てくれると思います」

「お兄様、ごめんなさい。遊ぶのが楽しくて……」

「お兄ちゃんがわかるかい!?大丈夫……苦しくないかい?!」


持っていたハンカチで妹の汗を拭きながら必死に介抱するブルーノ。

すぐにタンカーが運ばれてきました。付き添いにはピンクのロボットがいます。


「ポーラ、後は頼む」

「わかったわ」


ポーラはメイの執事をしているロボットで、ロバーツと同じく国王に仕えるロボットの一人。お団子頭で眼鏡をかけた女性型ロボットで、つり上がった目元から、厳しそうな印象を感じました。


「ポーラ、大丈夫だよね!?」

「大丈夫ですよブルーノ様。少しはしゃぎすぎただけです。お部屋まで連れていくので、これで……」


このままでは最後までついてきそうなブルーノをなだめて、ポーラはタンカーを押していきました。


「大丈夫ですブルーノ様」

「……うん」


少し震えていたブルーノに、そっと寄り添うロバーツ。昔のブルーノはこうではなかった。ロバーツは悔しさを感じていました。

その時。


「俺の可愛い家族たちぃー♪お父さんが仕事をサボって遊びにきたよー♪」


中庭に続く一番大きなドアを開けて、男が入ってきました。程よく伸びた黒髪が風に靡き、よく通る歌が、城全体に響きます。

彼こそ、このアクエリアスの王であり、ブルーノの父であるジャックです。


「あなた……」

「どうしたアン?」


すぐに近づいてきた妻の話を聞きながら、ジャックは俯いているブルーノを見つけました。


「そうだったのか……。大丈夫、俺に任せて」


妻の頬にキスをし、父は息子へと近づきます。


「どうしたんだブルーノ?」

「お、お父さん……メイが……!!」

「聞いたよ。今日はパーティーだから、ちょっとはしゃぎすぎたんだろう?」

「でも、僕がもう少しちゃんと見ていれば……」

「ブルーノはよく見ていたとお母さんが言ってたよ?」

「でも、でも……」

「大丈夫だ、心配ない。もう大丈夫だから」


ブルーノの目から自然と流れ出た涙を見て、ジャックは思わず抱き締めました。息子がこうなった理由は自分にもある。忙しかったなんて言い訳にしかならない。ただ、これを克服するためには、ブルーノ自身の頑張りが必要なので、ジャックは今、抱き締めることしかできないのです。


「ブルーノには、父さんより強い勇気がある。今はそこに霧が掛かっているけど、必ず晴れてくれると父さんは信じている。だからゆっくり、大人になっておくれ……」


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