表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/24

生きてくれ!

後を任されたとはいえ、何か仕事が出来るわけでもなく、特にすることがなかったので、沙恵はこの建物を探索してみようと事務所を出た。

まさか3階まで所有していたとは…

沙恵が3階横の階段を上がり、扉を開くとそこは屋上だった。

「え? てことは、ビル丸ごとー!?」

頬をなでる風に気づき、見上げると、星がちらほら輝き始めていた。

「もう、こんな時間か…」


近くのフェンスにもたれかかるように座ると、改めて空を見上げた。

もうどれ位ぶりだろう。 空を見たのは…

森の中は暗くて、夜になると木々の間からたまに月が覗いた。 わずかな月明かりに照らされ、小さな泉で体に付いた血を流していたのを思い出した。


「私は一体…どれだけの血を流したんだろう…」


急におう吐感に襲われ、嗚咽と共に涙が溢れた。

取り返しの付かない事をしてしまった。

何の罪も無い人を、この手に掛けた。

転がり、増えていく遺体を弔うこともせず、ただひたすらに森に入る人にナイフを突き立てた。

沙恵の体が震えた。

「何でこんな所に…」

今頃になって、自分を責めた。

のうのうと生きている自分を悔いた。

震える身体を抱きしめ、沙恵は動けないで居た。


猛流は、こんなことを望んでいたわけじゃない!


どれだけの時間が経ったのだろうか…。

悠馬が帰ってきた。

事務所にも部屋にも沙恵の姿が見えず、もしかしてと屋上へ上がった。

そして片隅にうずくまる沙恵を見つけると、その普通ではない状態を察し、急いで駆け寄った。

「どうしたんだ、沙恵!?」

肩を抱き起こすと、沙恵は涙を流しながら震えていた。

固くなった身体は、悠馬を拒絶するようだった。

「沙恵!!」

フッと悠馬に気づいた沙恵は、大きく目を開いた。

「私、なんて事をしてしまったんだろう…なんて事を…」

「落ち着け! 一体、何があったんだ?」

沙恵は震えながら、ゆっくりと話した。

自分がしてしまったことへの後悔。

話を聞くうち、悠馬も状況が理解できた。

そして、沙恵の体を抱きしめた。

「沙恵、自分を責めるな! 頼むから!!」

悠馬の腕の中で、沙恵はいつまでも震えていた。



沙恵が落ち着き、部屋でやっと眠りに付いた頃、悠馬は自分の部屋で眠れずにいた。

『沙恵、お前が背負っているものも分かる。 俺も、猛流に対して何度自分を責めた事か… いつか帰ってくると思って、待つことしか出来なかった。 やっと願いが叶ったと言えば、アイツと片付けられなかった仕事の終了と、アイツの墓参りか…』

苦笑いをして、悠馬はベッドに沈んだ。



翌日、事務所に現れた沙恵は、ソファに座り込んだ。

悠馬は、うつむいたままの彼女の前にコーヒーを差し出した。

「少しは落ち着いたか?」

「…どうしたらいい?」

「…」

悠馬は黙っていた。

「私、どうしたら、償える? やっぱり、死…」

「沙恵。」

悠馬は言葉を遮った。

「沙恵、君は森の中で、本当に取り返しの付かない事をした。 確かに許されない行為だ。 でも、他にどうすることも出来なかった君の気持ちも分かる。俺には人を裁く権利は無いから、君をどうこうすることはしない。ただ…」

悠馬はまだうつむいたままの沙恵を見つめた。


「生きてくれ。」


沙恵は顔を上げた。

「君が奪った命の分までその罪を背負って生きるのが、君がしなきゃいけない事だと思う。」

沙恵の瞳には涙が溢れそうになっていた。

「君がそんなに泣く子だとは思わなかったよ。」

悠馬は彼女の横に座って優しく涙を拭いてやると、続けた。

「それに、猛流は最後に君を選んだんだろ? なら、君はアイツの分まで生きなきゃ。」

優しく見つめるその笑顔に、沙恵の心は温まるようだった。

「…ありがとう。 あなたが居なかったら、私、今頃…」

「君と同じように、俺も罪を背負って生きるさ。」


沙恵の心が、少しだけだが軽くなった。

1日休みをもらうと、翌日から調子を取り戻した。

悠馬の助手として、働くことになった。

とはいえ、たいして覚えることは無かったが、奔放な悠馬の行動に振り回される事もしばしばだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ