連れ出す手[5]
「さて、これから俺たちがどうやって動くかだが……、ゲルハルトとルドミラに説明するから、他の奴等ももう一度聞いといてくれ」
スタンが地図を広げた。
オルトローサの書庫にも地図はあり、ルドミラも見たことがある。だが見たところでどうとも思わなかった、つまり興味を持たなかったので、あまりよくは覚えていない。
「バルダッサッレの任されてる地域ってのが、ここら辺り一帯だ」
何度も広げてなぞったのだろう、随分傷んでいる地図の上をスタンの指が滑り、言葉の示す部分を囲った。
「それで、俺たちの味方になってるのが、こう」
スタンの指し示す範囲は、確かに先ほどの地域の半分くらいだった。
「ちなみに今は、ここにいる」
指の先にはかすれた文字が記されており、辛うじてエフルド、と読めた。
「バルダッサッレはここから南西のこの町、グルビナの領主の館にいて……、俺たちは中央突破組になる」
「俺たち?」
聞き咎めてルドミラが繰り返す。
スタンは頷いた。
「ああ。もちろん俺たちもこの集会所にいるのが全員じゃねえが、なるべく油断を誘いたいとは言っても、まさかこんなに少人数でグルビナに攻め上れるとは思っちゃいない。他にも少なくとも三部隊が別々に動いて味方を増やしながらグルビナを目指している」
軍隊みたいだな、とスタンの説明を聞きながらルドミラは思った。というか、軍隊なのか。少なくとも各部隊の長は、スタンのように国で軍属にある者なのだろう。
「この先、大きな湖と草原があって、そこに町がある。そこのバルダッサッレ直属の兵士をどうにかして町を味方につけて……」
「ちょっと待って」
スタンの説明を、ルドミラの声が遮った。
皆が一様にルドミラを見る。
「その味方につけた町や村からの納税ってのはどうなってるのさ? あんたたちに協力して食糧なんかを支給しながら今までと変わらず税を納めるんじゃ、かえって生活が苦しくなるだけでしょう」
あまり詳しくは知らないが、ヴァスラトゥームでは農耕のみで生計を立てている村などの納税は年に一度の収穫時期の後だが、町で店舗を営んでいる商人などは年に四回、分割して税を納めるきまりになっていたはずだ。つまり、こうしてスタンたちが協力者を募ってグルビナを目指し始めてから今までの間に、税を納めねばならない人間は必ずいたはずなのだ。
「もちろん、払ってなんかいねえさ」
スタンが答える。
「それなのに、領主は王都に変わらず税を納めてるっていうのかい」
「さあ、王都のほうの詳しい状況はそこまで分からねえが、バルダッサッレ側でも企みが発覚したらまずいのは間違いないんだ。まあ、バレてるんだがな。だから、まだ支配下にある土地の課税を重くしたか、今までの貯えの中から納めて誤魔化してるか……」
「だから急がなくっちゃいけないんだよ。もし前者なら、他の地方の人たちも早く助けてあげなくちゃいけないし、何より、戦を起こされて後手に回るわけにはいかないんだ。もっと沢山の人たちが苦しむ事になっちゃうから」
メルが口を挟んだ。
スタンはその言葉に頷いて、それから笑った。
「どっちにしろ、魔法使いが二人も味方についてくれてこんなに心強いこともねえ。よろしく頼むぜ」
「はい、頑張ります!!」
笑ったスタンの言葉に元気良く答えたのはもちろんゲルハルトだった。
片やルドミラは、ただ溜め息を吐くだけだった……。