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動かない世界の中で変わるもの  作者: 唐草カナタ


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共に在れる世界[5]

 そういえば、機会を逸してしまった。

 スタンの身分に関しても相当気になっていたことは確かなのだが、ルドミラが一番気になっていたのはスタンの魔法のことだった。

 ふと、魔法を教わりたがったメルが、スタンに伺いを立てたことを思い出す。あの時は単純に良家の子息が国に残る伝承を気にしていると思ったのだが、彼等の身分を知ることでようやく思い至った。

 王族であれば、伝承はより色濃く残っていることだろう。魔法による被害の記憶も一番強く、決して魔法を使ってはならない、使えるようになってはならない、と何度も言い聞かされて育ったのかも知れない。

 でもスタンは元々王族ではなかったようだし、そんな事を気にする性格でもなさそうだった。

 魔法を使える対象としてスタンが挙げた「ドナ」、あれは女王のことだった。聞いた話では女王は王位を継ぐつもりはなかったらしい。憶測に過ぎないが、魔法を使えるようになる事ことスタンを選び、王族を抜けるつもりだったのかも知れない。

 女王も魔法を使え、王配であるスタンに至っては相当に魔法に慣れているようだ。であれば、次期国王である自分はどうだろうか、そう思ってスタンに尋ねたのかも知れない。

 まあ、スタンがそれで止めることもないような気がするが。

 疲れているはずなのに一度目が覚めたら眠れなくなってしまって、とりとめもなくそんな事を考えながらグルビナの町の裏手を散策していると、名前を呼ばれた。

「ルドミラ」

 振り返ると、当のスタンがそこにいた。

 ルドミラは表に割り当てられた天幕で今日も休むことになっていたが、スタンは領主の館で色々と事後処理があるので部下達と館に残ったはずだった。

 明日にはもう、ほとんどの人間は故郷へ向けて出発する。

 帰る場所のない者達だけが、今後を相談することになっていた。でもルドミラには、優しいあの人が待っている、帰る場所がある。

「師匠によろしく伝えてくれ」

「師匠?」

 半ば分かっていながら、ルドミラは聞き返す。

 スタンは頷いた。

「俺は昔、あの人に魔法を習った。使わないようにしていたのは……そうだな、結局のところ、俺が何でもかんでもどうにかできると思われたくなかったからだ」

 依存は油断を生み、その油断が寄せ集めの軍には大きな隙になる。

 スタンは首を左右に傾け、小さく音を鳴らした。

「まあ……、でも。俺が使うべき状況が来たら、迷わず使うつもりではあった。いつもは頼んでたお前さん達の手が離せなかったから、俺が使った。あの状況で、あんな場所で、弓兵ごときに道を塞がれるわけにはいかなかったろう」

「それなら、どうして」

 皆にどうにかしてくれるんじゃないかと思わせるような、魔法使いの自分達を誘ったのか。

「お前達は、ズィールの民だったからだ」

 いつかと同じように、皆まで聞かずとも問いの意図を正確に察したらしい、スタンが答える。

 ルドミラは普通の領民ではなかったし、ゲルハルトはこの国の人間ですらなかったが、それでも。

 周りと同じ、一個人だった、と。

「ついでに、師匠にお前さんのことを頼まれたから、だな」

「外の世界を見せてやってほしい、って?」

「ああ」

 頷いたスタンは、手を伸ばしてルドミラの帽子に手を置いた。

「実はお前さんの素性も知ってたんだ。師匠の所に来た事情なんかは知らんがな」

 大きな手が、くしゃくしゃと帽子を撫でる。

「やめて」

 ルドミラは思わず抗議の声を上げたが、はね退けるような鋭い口調ではなかった。

 もしかしたら、わたしが死んだ世界で、スタンも苦しんだんだろうか。

 俺がついていながら、師匠に頼まれてたのに、って。

 ふとルドミラは思ったが、それはこの先もずっと、分からないことなのだろう。

「辛い思いもさせたし、手も汚させた。悪かったと、思わないわけじゃねえ。まあ、戦に関しての礼は、メルが言ったからな。だから、兄弟子からの、お前個人への言葉だ。……世界は、開けただろう? やっぱり、あの館に閉じ籠もっていたほうが良かったか?」

 諭すような口調、穏やかな眼差しでスタンは問うた。

 ルドミラは少しだけ考える。

 でも、考えるまでもなかった。

 開けたその世界では自分より年上になってしまったゲルハルトが隣で笑っていて、少し視線を動かせばリータや、みんながいる。

 ゲルハルト以外の相手に自分の素性を明かす勇気はまだないけれど、それでも死の間際に母が言ったように、多分、分かり合える人達と出会った。

 人間も、捨てたもんじゃない。

 だから、黙って首を横に振った。

 素直にそれだけを肯定できなかったのは、いくら大義名分のある戦だったとしても、沢山の人を殺めてしまった事実がそこにあるからだ。命の重さを知った。一緒に歩いてきて斃れた人達も、敵対して命を落とした人達も、その重みは同じだという事に、気がついた。

 これからそれを背負っていくのは、スタン達だけではないのだろう。自分も、ゲルハルトも、そして後方で控えて戦場には出なかったリータやシモーナ達だって、それは同じなのだろう。

 全てを良かったことだとは思えない、でも。

「悪くなかった」

 ルドミラはそう答えて、笑った。

スタン氏の設定が山盛りですが、大昔にざっくり書いた小話の主人公だったので、実はこれ以上にてんこ盛りな設定の持ち主だったりします。若い頃のドナとの話とか、そのうちちゃんと書きたい。

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