共に在れる世界[4]
領主の館の庭園や、門を開け放ちその前の広場も使って、夕方からは祝賀の宴が催された。
といっても、ここに至るまでに残った食糧や飲み物を放出するだけで、大した献立ではない。
ただグルビナでもバルダッサッレに懐疑的だった住民はいて、そういった者たちからの心ばかりの差し入れはあった。その住民の中には、今後の便宜を取り計らってほしい商人たちも含まれているのかも知れない。
フィクティラス砦で亡くなるまで、ゲルハルトはメルと年が近いこともあって仲が良かった。今のゲルハルトはメルと会わなくなってから四年の歳月を過ごしていたし、メルも「人形のゲルハルトを通してしか知らない、本当の」ゲルハルトとはどう接したら良いのか戸惑っていた節はあったが、お互いにまた最初から友達をやり直すことにしたらしい。とはいえ、ゲルハルトが大分年上になってしまったので、やっぱり前のままとはいかないが。
グルビナの住民の厚意の果実水を飲みながら、干し肉と固いパンを口にする。旅には慣れてきたとはいっても、基本肉体労働をしないルドミラは制圧後から集合がかかるまでの市街の片づけで疲れ果てていた。
ゲルハルトとメルがお喋りしているのを、聞くともなしに聞いている。普段はそんなに食べるほうでもないが、作業からの空腹もあって、黙々と食事をしていた。
「ドナ姉様……あっ、女王陛下はね、ぼくの父上が亡くなった時も、本当は王位を継ぐつもりはなかったみたいなんだ。でも、ぼくは今でも子供だけど、三年前はたった十歳だったから。ぼくが大きくなるまで、一時的にって話で即位してくださったんだ」
今まで素性を隠していた分を取り戻したいのか、メルは戦の話がひと段落すると自分の事を話し始めた。
スタンとメルの身分が判明すれば、互いの物言いも理解できた。
「姉様……あっ」
「正式な場じゃないんだし、あんまり気にしなくてもいいと思うけど」
女王の呼称を何度も言い直すメルに、ゲルハルトが苦笑しながら助け舟を出す。
「そうかな……じゃあ、ドナ姉様で。姉様は元々、王位を継ぐ事になるなんて考えもしてなかったみたいだから、ぼくよりもう少し大人になってから、城を出て旅をしてたことがあったんだって」
とんだお転婆王女だ。スタンの妻だけのことはある。
「でも、その経験があるから、自分が治める土地や、民の生活は身近で、だから自分が女王でいる間はいい国にしたいって。内乱とはいっても戦だから安全じゃないけど、ぼくにもそうやって国を見てきてほしいって。それで、スタンと一緒に来たんだ」
メルは笑った。
「怖くなかったわけじゃないよ。でも、ただ漠然とそのうち王様になるんだなあって思ってた、お城にいた頃と比べたら、ぼくはもっともっと色んな事を勉強して、いい王様になりたいって思うんだ」
「立派だよ! 僕にできる事があったら手伝うよ、何でも言ってほしいな」
メルの言葉に、ゲルハルトが感動したように何度も頷いている。
スタンと初めて会った時に、「そんな悪い人は許せないと思う」などと言って、勝手に参戦を決められたのを、ルドミラは思い出した。結局のところ、根っこのところは同じなのだろう。まあ、同じ人間なのだから当たり前か。
でも、「ずっと一緒に生きていこう」なんて約束したくせ、メルにも協力するとなると──一介の魔法使いが王太子のために何ができるのか分からないが──また勝手に王都に出ようとか言い出すのだろうか。……相談ぐらいしてから決めてほしい。
こっそり吐息を漏らしながら、でもゲルハルトと一緒なら、そんな生活も満更でもないのかも知れない──とも、ルドミラは考えていた。




