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動かない世界の中で変わるもの  作者: 唐草カナタ


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共に在れる世界[2]

 半年にもわたる長い行軍の末に辿り着いたバルダッサッレの根城、グルビナ。

 合流した全ての味方たちと包囲したその都市は、しんと静まり返っているように感じた。

 息を潜めてこちらの出方を窺っているというよりは、疲弊し切って身動きするのも厭っているような、そんな静けさだ。

 多分、今もバルダッサッレに心底から従っているような人間なんてほとんどいないんだろう、とスタンが言う。

 従っているのはきっと、そうすることで利を得る役人連中だろう、そうマウロも思う。

「できれば町の連中にも力を借りたいところだが、そうも言ってられん。時間がない。バルダッサッレの野郎が逃げ出す前に、何としてでも館に突入し……捕らえる」

 スタンが宣言した。

 先遣隊はかなり以前からグルビナに潜伏しており、領主が未だ館に残り、抗戦の指示を出しているという報告は受けていると言う。

 町の包囲は一重だけ残し、全軍で突撃する。ただし、領主の館には恐らく緊急時の避難に使うための隠し通路があると思われるから、先遣隊が調べて判明している限りの地下通路や水路周辺は、包囲とは別に戦える見張りを各所に配置してあるのだそうだ。

 今まで、なるべくバルダッサッレに従いたくない、苦渋を舐めさせられていた住民たちに裏から話を通し、直属の兵だけと戦うことで被害を抑えてきた。

 突撃すれば、グルビナを蹂躙するんだと思い込んだ住民たちだって抗戦するかも知れない。館や役所を守る兵士たちの反撃だって激しくなるだろう。

 だが、ここまで来ては、説得や交渉に時間を割くよりも、総力で攻め入ったほうが被害が少ないはずだ。スタンはそう判断した。スタンの部下らしき者たちの意見も大方そうであるようだった。ならば、戦術に明るくない素人の自分たちが口を出す事ではないとマウロは思う。もはやただ、スタンに従うのみだ。

 彼の判断は、確かにアルドやジョットを死なせた。でも、女王の命を受けているとはいえ、ここズィールの平穏を願い、そのために戦ってくれているのは間違いのない事実だ。強欲な領主をその座から引きずり下ろし、また隣国との戦争を回避するために。

 黙って次の言葉を待つ面々の前で、スタンは苦笑を浮かべて呟いた。

「やっと、着いたな」

 隣でメルやバルナバたちが頷く。

「……ゲルハルト、ルドミラ」

 スタンに名前を呼ばれ、前列に控えていた魔法使いの男女が進み出た。

 明るく人懐っこくはあるけれど、妙に大人びて達観したところのある「本当の」ゲルハルトと、マウロが時間を超えた時に必ず側にいた、薄紅の少女に印象の重なるルドミラ。

「正面から突っ込む。援護を頼む」

 スタンが告げた。

 元より話は聞いていたのだろう、ゲルハルトは少しだけ笑って頷き、ルドミラも表情を変えずに頷いた。

「何度も言うが、時間がねえ。包囲はある程度残すが、総力で行く。絶対にバルダッサッレの野郎を逃がすわけにはいかん」

 確認するように告げた後、スタンは片手を上げた。

「門をぶち破れ!」

 よく通る声で下された号令と共に、ゲルハルトも右手に持った杖を振る。

 手に手に槌を持った味方が門に殺到し、グルビナの正門に総攻撃を仕掛け始めた。

 音を聞いて外壁の上からこちらを窺っていた守備兵たちが、やはり戦うのだとばかりに大量の矢を射かけてくるが、それは空中で速度を失い、折れ曲がり、地に落ちる。ゲルハルトの魔法の力が、矢の雨から味方を守っているのだろう。

 轟音と共にグルビナの門が口を開けた。

「死にたくない奴は、退けっ!!」

 スタンが吼える。

 それを合図に、二人の魔法使いは頷き合い、動く。

「行くよ」

 ルドミラが宣言する。

「うん」

 ゲルハルトが頷きを返す。

 見た事のある光景だ、とマウロは思った。

 ルドミラの右の掌とゲルハルトの左の掌が合わさる。

 ……ああ、そうか。これが。

 物凄い突風が吹き荒れ、正門から町の奥へと続く大きな道を走っていく。

 そしてその後を、恐ろしい勢いで炎が駆けた。

 炎は二つに分かれ、住民の関与を防ぐ防壁となる。

 それは『点』でもなく、『面』でもない、対の『鍵』が『扉』を開き、初めて顕すことのできる力だった。しかしマウロはもちろんそんな事は知らず、ただ、見事なもんだ、と思う。

「マウロ」

 エウフェーミアが、呼んだ。

 周りに『エジステンツァ』として、一緒に歩いてきた仲間たちもいた。

 フィクティラス砦を守り、生き残った兵士たちも。

 到底消せないわだかまりと一緒に、同じ目的を持つ仲間同士として、そこにいる。

「ああ」

 左の腰に細身の剣を提げ、右手に槍を構えたマウロは、少しの笑みを浮かべると駆け出す大勢の味方の後を追い、白銀の髪をなびかせるエウフェーミアと共に町の中心へ向かって走り出した。

 消えない炎の壁からは強い熱を感じるのに、それが周辺の建物を燃やすことはない。

 それでも壁の向こうからは恐慌を来たした住人の悲鳴、兵士の怒声が聞こえてくる。

 作られた一本の道の向こうから、兵士が押し寄せた。この中に、未だにバルダッサッレに従っている者がどれほどいるのだろう?

 手にした武器は相手を傷つけ、そしてこちらも傷ついた。

 バルダッサッレの館に近づくと、テラスから幾本もの矢が降り注いできた。

 いつもならばルドミラかゲルハルトが風を起こし、矢の軌道を変え、勢いを殺す。だが今、二人は大きな魔法を発動しているためにそれができない。

 目の前にも敵が大勢いて、矢の雨だけに意識を集中するわけにはいかない、でもあの矢を何とかしなければ。

 魔法を保ちながら後方に控え、ついて来ていたゲルハルトが表情を歪ませる。

 先頭で大きな剣を振りながら、スタンは叫んだ。

「術を崩すな!」

 そして右手だけで持った剣を過たず振り払い、左手をテラスへと向ける。

 巨大な火球が現れ、それは火の粉をまき散らしながらテラスへと降り注いだ。

「──は!?」

 マウロは一時、ぽかんと口を開けてその様を眺めてしまった。

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