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動かない世界の中で変わるもの  作者: 唐草カナタ


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33/44

扉を開けて[4]

 砦に戻ったルドミラは、ゲルハルトと共にスタンを探した。隠しておける話でもないし、まだこの先にグルビナが残っている。ついさっきまでの精神状態ではまともに戦えたとも思えないが、それでも逃げ出すつもりではいなかった。ならばゲルハルトが参戦できたほうがいいと考えたのだ。

 どう説明すればいいものか、そう悩むルドミラに任せて、と言ったゲルハルトは、すれ違い、訝しんだり驚いたりする人々に会う度に同じように説明した。

「昨日までこっちにいた僕は、本当の僕じゃないんです。驚かせてごめんなさい。僕は長いこと病気を患っていて、だけどルルーが心配だったから、魔力で作った人形を一緒につけていたんですよ。……よくできてたでしょう? でも人形が壊れてしまったし、僕の体も良くなったところだったから、慌てて飛んで来たんです」

 微苦笑を浮かべていけしゃあしゃあとそんな嘘を言ってのけるゲルハルトが、ルドミラは少しだけ憎くなる。

 過去の、そして死んでしまった自分を「人形」と言ってしまうゲルハルトが。

 でもそれ以上の上手い言い訳など思いつかなくて、ただルドミラの死んだ世界で彼が過ごした四年の時を思って、それを遠くに感じた。


 オルトローサさまも、泣いてたよ。

 私があの子を殺したんだって、そう言って泣いてた。

 だからやっぱり、あなたは生きなくちゃいけないんだ。

 ゲルハルトにそう聞いた。

 そうか、わたしは先生を悲しませたんだ。

 先生に辛い思いをさせたんだ。

 そう考えたら、無性にオルトローサに会いたいと思った。

 魔法を使えば一瞬で帰れるのだろうけれど、そうじゃなくて。

 戦が終わったら、きっと帰ろう、あの人のところへ。

 無事な姿を見せて、「ただいま帰りました」って、ちゃんと言いたい。

 待っていてください、先生。


 いつもなら風呂を使える場合でも人気のない時間帯を待ったり、場合によっては風呂を諦めることすらあるが、霧雨の中にずっといたルドミラの体は冷え切っていて、服も濡れてしまっていたので、スタンに報告した後はすぐに風呂に入らざるを得なかった。

 人目を気にしながらも熱い風呂に入り、ぐちゃぐちゃになった頭の中が少しすっきりすると、ルドミラは配膳をしていたシモーナから食事と飲み物を受け取って、地下牢とは逆側の階段を下りた場所にある、本来は取り調べに使うらしい小部屋に向かった。

 ゲルハルトも入浴を済ませて、食事と飲み物を準備してもう待っている。

 聞きたい事が色々あった。風呂に入ってまた増えた。

 こんな狭い部屋以外は皆が寝泊まりに使っているので、二人で話せる場所はここしかなかったのだ。スタンに話して、しばらくの間ここを使わせてもらえるよう許可を取った。

「どうやって、ここへ来たの?」

 開口一番、ルドミラは問いをぶつけた。

 一番知りたかった事だ。

「うん……、それが、実はよく分からないんだけど」

 パンを飲み込んで、ゲルハルトは口を開く。

 昨日からの食事の内容は全く覚えていないが、砦に蓄えられていた食糧を使っているのか、改めて見ると今夜の食事は品数が普段より多かった。

「僕は、遺品にあなたの髪をもらって、戦いの結末を見ないまま抜けたんだ。それで、どうにかしてあなたを助けられなかっただろうかと考えながら、毎日あなたの髪に触れた」

「……」

 ルドミラは目を逸らす。

 どうなんだろう、それは。想像するとちょっと気持ち悪い気もする。

「……あのね」

 ゲルハルトが身を乗り出した。

「ルルーは、『鍵』と『扉』の話を、知ってる?」

 ルドミラは黙って頷く。

 オルトローサから聞いたことがある。それから、彼女の蔵書の中にもそれについて言及している書物がいくつかあった。

 対の存在。『扉』と呼ばれる存在は膨大な魔力を体の内に秘めているが、普段はその一部しか使えない。その力を解き放つのが『鍵』と呼ばれる存在。『鍵』の魔力を触媒として『扉』はその魔力を放出し、常では使えないような大きな術も使えるようになるという。

 誰もがどちらかを持って生まれてくるわけではない。ごく一握りの存在が、しかも世界のどこにいるか分からない、唯一の相手としか作用しないそれを持っている、という伝承にも近い話だった。

「僕はね、あなたと僕が対の『鍵』と『扉』なんじゃないかと思うんだ」

 ゲルハルトは笑った。

「あなたの髪が『鍵』になって僕の持つ『扉』が開いて、あなたが死ぬ前の世界にやって来られたんじゃないかと考えてるんだ」

 それは、言われてみれば確かにそうなのかも知れない、と思う。

 瞬時に移動する魔法は存在するが、時間を移動する魔法など聞いたことはない。第一できたとして、それこそ膨大な魔力を必要とするだろう。

 でも、ルドミラは生きてはいなかった。

 髪だけで作用するというのならば、何故四年もかかったのか。

「それは……」

 目線だけを上に向け、石の天井を見上げてゲルハルトはしばらくの間沈黙した後、ルドミラに視線を戻す。

「祈りが通じたとか、そういうものかなあ、って……」

「ふぅん」

 ルドミラは呟いた。

 まあ、元々魔法というもの自体がはっきりとは説明できない部分も多い。それをたった一回時間を超えて来ただけのゲルハルトに説明しろと言うほうが難しいだろう。

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