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動かない世界の中で変わるもの  作者: 唐草カナタ


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青空魔法教室[2]

 夕食を終え、片づけを済ませるとスタンの天幕に集まるよう言われた。

 こんな寄せ集めでも、今まで戦いの経験がないわけではなく、部隊が編成されている。その各部隊のリーダーを任されている者たちが集められていた。ルドミラやゲルハルトは特にどの部隊に組み込まれてもいなかったが、魔法を武器に戦える者は二人しかいない。当然彼女たちが参入したことで魔法を使った作戦が準備されたはずで、二人も呼ばれたのだった。

 スタンはこの寄せ集め軍隊の長である、というのは今までの言動や様子からも分かったが、かといって野営の際の天幕が特に大きいかというとそういうわけでもない。全部まとめて輸送隊が運び、その中から適当に選ばれる皆と同じ天幕を使用していた。だから主だった者だけを集めたとはいっても全員が天幕に入って話し合いを行うようは広さはなく、少し離れた場所に焚かれた炎を囲むかたちになった。

「さて、明日はヴィオミークを攻めるわけだが、これまでと同じで町の人間にはある程度話は通してある」

 全員が地面に腰を下ろすと、スタンは口を開いた。

 ルドミラは炎を挟んで右斜め向かいに座る二人の男にちらりと視線を向けた。

 一人はくすんだ金色をした短い髪の男。そしてもう一人は、ゲルハルトよりは茶色みのある黒髪を首元で一つに束ねた男。

 二人はこの軍に参加するまでは『エジステンツァ』と名乗る集団としてバルダッサッレの息のかかった商人などを襲って生活していたらしい。要するに、山賊だ。頭目は金髪の男で、名はマウロ。そしてもう一人は頭目の片腕だというアルドで、身が軽く隠密行動が得意なのだそうで、参戦してからは主に諜報の役を担っているのだという。

 マウロ率いる『エジステンツァ』は、全員がバルダッサッレの圧政にまともな暮らしをすることを許されなかった人々の集まりで、頭目が参戦を決めた時も一人も残らず彼についてきたのだそうだ。

「数日潜伏して様子を伺い、現状に強い不満を持ちつつもそれを上手く隠していて、かつ周囲に影響力のありそうな数名に接触した。こちらが攻め入る際の協力は取りつけてある」

 アルドが静かな声で言った。

「……」

 ルドミラは出かかった言葉を飲み込んだ。

 裏切る可能性は、とか、そもそも裏切りですらなく情報をあちら側に漏らすかも知れない。

 だが言ったところで今更どうにもなるわけでなし、大体スタンならば「気にしたってしょうがねえ」だとかそう答えるだけなのではないか、とも思った。

 他の者たちは以前にも経験があるのだろう、特に誰も何も言わないようなのでスタンが話を先に進めようとした、その時だった。

「……あの。本当に、大丈夫なんでしょうか?」

 隣に座っていたゲルハルトが、遠慮がちに切り出した。

「大丈夫、ってのは?」

 スタンが先を促す。

「ええと……、その、何かの間違いで、話が向こう側に流れてしまったりとか、そういうのは……」

 歯切れ悪く、ゲルハルトが答える。

 大方彼のことだからなるべく人を疑いたくないのだとか、アルドの観察眼を否定するような発言になってしまっては相手を傷つけるんじゃないかとか、そんなことを考えているのだろう。それでもルドミラと同じで初めての事だから、心配も大きいのだ。

 スタンは、恐らくゲルハルトの、そしてルドミラの意図を正確に察したようだった。

「ま、そん時はそん時だ。それにどっちが得か、決めるのは向こうの自由だろう。あっちについたほうが得だっていうのが結果としてヴィオミークの総意なら、こっちがどうこうする理由も義理もねえ」

 いかにもスタンらしい、明快な言葉だった。

 そして彼は続ける。

「どっちにしたって、俺たちだってバルダッサッレとの戦いを止めるわけにはいかねえし、ヴィオミークが敵対するってなら、……ま、出方にもよるが、制圧するしか道はなくなるかも知れんな」

「……」

 一瞬にして、場の空気が沈んだ。

 夜の野営地を明るく照らす炎は時折パチパチと軽快な音を立て、微風に小さく揺らめく。その風も柔らかく、決して冷たくはないのに、何かねっとりとした重いものを含んでまとわりつくように感じられる。

 誰も、何も言わない。

 重苦しい表情で黙り込む人の輪の中で、目を向けるとスタンだけが苦笑しているような表情を浮かべていた。

「あっ、あの、ごめんなさい!」

 慌てたように空気を割ったのは、原因となった発言者──ゲルハルト本人だった。半ば泣きそうな顔をして、おろおろと周囲の人々を見回している。

「でも、わたしも似たようなことを考えたし」

 いたたまれなくなって、ルドミラは気がついたら助け船らしきものを出していた。

 ゲルハルトはこちらを見て、どこかほっとしたような、だがかえって今にも泣き出しそうな表情になる。

「まあ、まあ」

 スタンが声を上げた。張りのあるその声は、重く垂れ込めた雰囲気を簡単に切り裂いてしまう。

「一応、そういう可能性もあるってことで考えを述べはしたが、今は町の連中が協力してくれるって方向で話を進めるぞ」

 炎を囲んだ人々は、真剣な面持ちで頷いた。

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