禁を破る
「……」
少女は何かに気づいたように、書棚に収められた本の一冊に伸ばしていた指の動きをぴたりと止めた。
彼女が振り返ると、肩の辺りで切り揃えられた亜麻色の髪が軽く揺れる。その頭の上には髪と同じ色をした獣の耳のような物がぴょこんと顔を出していた。
少し離れたテーブルでお茶を飲んでいた黒髪の青年は、少女の視線を受けてカップから口を離すと、少しだけ困ったように笑った。
「あれほどきつく言っておいたのに……」
少女は眉間に皺を寄せる。
「僕も何も教えてないんだけどなぁ……」
青年も呆れたような口調で呟くと、少女は強く息を吐いた。
「止めさせなくちゃ」
そう言って寝室へと続く扉を開け、薄紅のローブを手に戻ってくる。共布で作られた薄地のフードが付いたものだ。
「僕も行こうか?」
青年がそう言うと、少女はローブを羽織ってフードもかぶり、左手に白金色の金属と黄金色の宝石で飾られた指のない手袋をはめながら首を振った。
「いいよ。『扉』だけ開いてくれる? 君が一緒じゃ、あの子たちを叱らないでしょ」
「まあ、否定はしないけど」
青年の言葉に、少女はまたも溜め息を吐いた。
青年は少しだけ考える素振りを見せる。
「やっぱり僕も行くよ。行き違いになったら困るでしょう? あなたも僕も、一人じゃ『扉』は開けないんだし」
少しだけ笑って、青年は続けた。
「僕は叱らないだろうけど、別にあなたが叱るのを邪魔するつもりはないから遠くで見てるよ」
それならいいでしょ? と青年は少女を見た。
「だったら別に断る理由もないから、いいけど」
答えた後、少女は溜め息交じりの呟きを漏らす。
「……今更だけどさ、どうしてあの子達たち二人が、対の『鍵』と『扉』なんだろう」
青年も吐息を漏らし、苦笑を浮かべる。
「僕もそれは、思ってたんだけどね」