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第九話 復讐と破壊と…そして願い(1)

「」は日本語、〈〉はハル語という設定にしています。

「この子どうしたんですか?急に表情がなくなっちまって……」

 怪訝そうに瑞樹を見つめていた見張りの男は、ゆっくりと目を開けたセルシスに問いかけた。

「やっと成功したらしいな」

 セルシスは苦笑した。

「こんな小娘ごときに手こずってしまった」

「成功した……って?」

 男はゴクリと唾を呑んだ。

「……ところで君、まだ名前を聞いていなかったね。あまり見ない顔だ」

 セルシスは鋭い目線を、瑞樹の傍らにいる体格のいい金髪の男に向けて問いかけた。

「俺はカンナ・ピラミダリスだ。よろしく」

 男は少しぎこちない様子で、セルシスと握手をした。

「カンナ?女の子みたいな名前だな」

「親が女の子を欲しかったらしくて。よく間違われるんですよ」

 男は頭をポリポリと掻いた。

「ふぅん、それはお気の毒に。では、カンナ、この子はもう見張る必要はないよ。もう逃げ出さないし、命令には完璧に服従する」

 セルシスはニヤリと笑った。

「……へぇ、すごいな。どうやったんです?」

 男は一瞬ぎょっとした後、感心した様子で瑞樹の顔の前で手をひらひらさせた。瑞樹は反応しない。

「それは企業秘密だ。少し疲れたから僕はもう行くよ」

 セルシスは軽く手を振ると部屋を出て行った。男はしばらくドアに耳を当ててセルシスの靴音が遠ざかるのを聞いていた。


[……おい、瑞樹、大丈夫なのか?]

 カンナと名乗った男は、放心したようにベッドの脇に立っている瑞樹に声をかけた。瑞樹からは返答も反応もない。

[おい、瑞樹、しっかりしろよ。俺だ、正樹だ]

 金髪とブルーアイに変装していることに気づかない瑞樹が、警戒しているのかと名乗るが、やはり瑞樹は反応しなかった。正樹は息を呑む。

[……なんてことだ。目の前で瑞樹が壊されているのに気づかなかったなんて……]

 正樹は呻いた。



*  *  *



「それ何だ?」

 正樹はカナメに問いかけた。正樹はナンディーでカナメに追いつくことができた。

「分解破壊銃って名前でどう?破壊は付けない方が感じがいいかな?」

「そんなもん振り回すなよ。何を破壊するつもりだ?」

 カナメは後ずさる正樹から銃口をそらした。

「これが分解するのは水分を含まないものだ。人に当たっても何の効果もない。試してみようか?」

「おいぃ、俺に向けるのはやめろよ」

「あまり離れているものは駄目なんだけど、二、三メートルまで近づけば何だって分解できるよ」

 カナメはそう言うと部屋の壁に向かって発射した。壁は光線が当たった場所だけ、溶かされたように穴があいた。壁の厚さは三センチ程あったが、隣の部屋が丸見えだ。

「おい、俺の部屋が見えるようになってしまったじゃないか」

 正樹が憮然とする。

「後でちゃんと塞いでおくよ」

 カナメはにっこり笑って言った。次に、カナメは、テーブルの上に置いてあったゼリーのグラスに照準を合わせた。連続した軽い発射音の後、グラスには切り取られたように丸い穴が開いたが、ゼリーには傷一つついていない。

「硬いグラスは分解するが、水分をたくさん含むゼリーは分解しない。完璧だろう?」

 正樹はグラスを持ち上げてゼリーを確認したが、砕かれて流れ出てくる気配はない。ぷりぷりしたゼリーに溜息をつきながらグラスをテーブルに戻した。

「君にも一丁渡しておくよ。いざという時には使ってくれ」

「相手が普通の銃を向けてきたらどうするんだ?」

「逃げろ、もしくは降参しろ。何度も言うが、これで人は撃てない。大接近して相手の銃を分解するか、降参して掴まってから使うかだろうな」

「水分の少ない人だったらどうなる?乾燥肌とか……」

「水分感知センサーには、ある程度幅を持たせている。いくらひどい乾燥肌だろうと、生物が生きて行くのに必要な水分量というものがあるから大丈夫だ。もっとも髪や爪は分解してしまうかもしれないけどね」

 カナメの言葉に、自分を試し打ちしないでくれて本当に良かったと正樹は胸を撫で下ろした。

「水分をたくさん含んだ囲いだったら、これでは瑞樹を助け出せないってことだな?」

 正樹がおどけたように言った。その問いにカナメは考え込む。

「水分をたくさん含んだ囲いか……それは考えていなかった」

「ゼリーとか寒天とかの(おり)だったらアウトだろ?」

 正樹が冗談めかして言う。

「本当だ。そんなものでできていたら助け出せない」

 真顔で言うカナメに、正樹が呆れた顔をする。

「水分感知センサーの調節が簡単にできるつまみのようなものをつけた方がいいだろうか……でもその場合は体温感知センサーもつけないと、檻の向こう側にいる瑞樹に気づかずに発射してしまう可能性があるかもしれない……」

 ぶつぶつ呟くカナメに、正樹は処置なしという顔で肩を竦めた。本当にこの男は瑞樹を助けることだけしか考えていないのだと思いあたる。しょうがねぇなと正樹は一人苦笑する。

「なぁ、本気でゼリーとか寒天とかでできた檻を壊す方法を考えてるか?」

 正樹の呆れたような声にカナメは怪訝そうに振り返った。

「そんなものを壊す時は、手で十分だろ」

 虚を突かれたようにカナメは一瞬呆けた後、

「君が助けられないと言ったんだろ」

ときまり悪そうに言い返した。

「そうだよ。それでは助けられないって言ったさ」

 正樹はクスクス笑った。カナメもつられて笑う。

「これからガイアシティに向かうのか?」

「ああ。だが、まずアグニシティに向かわなければならない。今回はアグニシティの協力が必要だ。先に話をつけておかなければならない。そこで融通のきく君に、先にガイアシティに潜入してもらいたいんだ」

「了解だ。その為に変装してきたんだからな」

 正樹は髪を金色に染め、ブルーアイのコンタクトレンズを入れていた。その他諸々の支度をしてから大急ぎでナンディーまでカナメを追いかけて来たのだ。

「その姿の君を初めて見た時、イブキが来てくれたのかと思ったよ」

 カナメは苦笑する。

「イブキはこんな感じだった?」

 正樹は破顔する。

「いや、最後に見たイブキはキャメル色の髪に薄い茶色の瞳だった。でも、もう一回分解再生すれば、そんな色になっていたかもしれないって思えるくらい薄くなっていた」

「で?俺はどうすればいい?」

「ガイアシティに潜入して、できるだけ瑞樹の傍にいてくれ。我々が乗り込んだ時に彼女を守ってもらいたいんだ」

「わかった」


「君に偽名を用意した。カンナ・ピラミダリス、森の民で、脱出前に死んでいて、再生される条件をクリアしていない人だ」

「カンナ?なんだか女の子みたいな名前だな」

「そのとおりだよ」

「おい……」

「彼女はイブキの妹だ。六歳で森の民の力を発症した。発症したのが五歳以下であれば、アール・ダーで生き延びられたはずだった。結局、彼女はフォボスで死んだ。彼女ならば森の民として登録されている。森の民ならば、やつらもそれほど警戒しないだろう。全く架空の人物よりもばれにくい。彼女を利用させてもらおう」

「……」

 正樹は痛々しい気持ちで眉間に皺を寄せた。六歳と言えば、小学校に上がる年だ。いつもは生意気な妹の皐月が、買ってもらったばかりの赤いランドセルを背負って無邪気に家の中をうろついていたのを思い出す。あんな幼い子がフォボスで……。フォボスで死ぬと言う事は、政府に利用されて、森の民の力を使い果たさせられて、死ぬ事なのだと……正樹はハルに来てから集めた情報で知っていた。正樹は拳を握り締めた。


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