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第二話 常夏の島ハル共和国の光と闇(3)

[あなたは森の民の力を持っているのでしたね]

 トウキが突然話題を変えた。

[森の民の力を持ってるって言っていいのかどうか……]

 瑞樹は戸惑う。森の民の力は植物を操る力だ。ナンディーでは使えていた力が地球に帰ってからはさっぱり働かなかった。

 ナンディーで起こった事を周囲の人たちに話す度に森の民の話もした。そうすると、じゃあ、やってみろと植物とか種とか持ってこられるのだけれど、どんなに一生懸命集中して力を使おうとしても何も起こらなかった。最終的には実はやっぱりあれは夢か何かで、私にはそんな力はないんじゃないだろうかと思い始めていたところだ。

[今、森の民の立場は微妙です。行けばわかりますが……]

[微妙?]

[森の民自身がその存在理由を見失いつつあるのです]

[存在理由……ですか?]

 トウキは真面目な顔で頷いた。

 惑星ハルでの森の民の存在理由は、植物を操って光合成能力の高い有用な植物を生み出すことだった。それは地下都市や脱出船の中の酸素濃度を保つ為であったはずで……いくら環境悪化が叫ばれているとはいえ今現在の地球上では、それほど酸素濃度を気にする必要はないのだ。

 もし、本当に瑞樹が森の民の力を持っているのなら、地球の植物にはその力が及ばないという現実があるのかもしれない。そもそも地球の植物は力など必要としていない。植物たちは太陽と地球に養われている、森の民の力など必要がないのだ。


 存在理由……それが見つからなかったら、人はどんな行動にでるのだろうか。人は物じゃない。道具ならば、使わなくなったら納屋の隅に置いておくだけでいい。でも人は違う。もういらなくなったと言われて置き去りに、もしくは放り出されたら、人は、人の心はどんな風に変化するのだろうか。私だったらどうするだろうか……きっと自分を救うために(わら)をも(すが)る気持ちになって……この先は考えると憂鬱になりそうだった。

 ここまで考えたとき、トウキの少し困ったような声が聞こえた。

[瑞樹……ここで黙っておくのはどうかと思うので言っておきますが、考えていることはすっかり見えているのですよ……]

[へ?あ、忘れてた]

 その先を考えなくて良かったと胸を撫で下ろす。

[心をのぞかれていると分かっているのに、よくそれだけ色々と考えられますね]

 トウキが呆れたように瑞樹を見つめた。

[呆れてる?アンドロイドでも呆れたり驚いたりするの?]

 呆れた表情のトウキを興味深げに瑞樹は見つめた。

[それらしい似た電気信号を感じることができるのです。全く同じとは言えないでしょうが。そして、それに合った表情を作る事がプログラムされています]

[ふぅん]

 瑞樹は感心する。

[表情を消すこともできますよ。そうしましょうか?]

 トウキがにこやかに提案する。

[いや、いいです]

 無表情で同じセリフを言われたらちょっと傷つきそうだ。

[そう言えば、正樹さんには私がアンドロイドだと言いましたか?]

[うん、正樹ちゃんだけには言ってるけど……いけなかった?]

 ハル共和国に行くことを正樹が決めた後、思いとどまらせる為にハルのことを色々と話したのだ。両親に話そうとすると心理的な負荷がかかって話せなかったのに、正樹には話す事ができた。正樹がハルに行くと決めた時点でラークスパーが正樹に対する心理負荷を解除したに違いなかった。

[いえ、私の前では何も考えないようにしているのがよく分かったので……訓練も受けずに独自にシールドを張れるようになるなんてすごいですね。あの人は唯者じゃ無さそうだ]

 トウキは薄く笑った。

 どうせ私の考えは、だだ漏れですよ、すいませんねぇと考えたところで、トウキの笑みが深くなった。

[ある意味あなたも唯者じゃありませんね]

 厭味いやみだ。これは絶対、厭味いやみだ。

[厭味じゃありませんよ。心を覗かれても動じないで普通にしていられるのはすごいことなんですよ]

 トウキはにっこり笑って言った。


 瑞樹はもう何も考えまいと心に決めて、溜息をつくと自分の席に戻った。


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