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第9話 ラッキーは大切にするべき。

9話目です。



 第二の街“ニツー”の町並みはイワンと殆ど変わらない。

 変わっている所と言えば、イワンの中央広場には噴水があったがニツーの中央広場には石造りの……おそらく数字の2を意識して作られたとおぼしきモニュメントがあった。

 と、いうか。

 街の名前は数字の日本語読みと英語読みを合わせた物では無かろうか、謎の数字押しである。

 などとどうでもいい事に思考を巡らせていたノービスは後ろを振り返る。


「手伝ってくれてありがとう、シェイカー達のお陰で無事に次の街に行けたわ」


「あぁ~、……僕達いなくても行けたんじゃないかな?」


「そんな事無いわよ、貴方達のお陰で体力切れにならなかったし。ここまで歩いて体力が尽きなかったのは初めてだわ」


「あぁ、いや、……まぁ、お姉さんが良いなら良いんだけどよ」


「……前々から思っていたのだけれど、何でそんな呼び方してるのかしら」


「名前呼びするタイミングを掴み損ねた」


「ノービスでいいわよ、もう……」


 呆れた様に額に手を当てたノービスだったが、気を取り直してシェイカーに近寄る。


「とにかく、手伝ってくれて本当にありがと、って、わ!?」


 石に躓いた。

 ただそれだけの事ではあるが、ノービスはそこから体勢を立て直す事が出来なかった。

 身体的能力値が軒並み0というLUK極振りの弊害が地味な所で出てしまった。

 しかし、LUK極振りにはLUK極振りなりの良い所はある様で。


「危ないよ」


 ぽふっ、と。

 気付けばノービスはシェイカーに受け止められていた。

 声に焦りが無かったから間に合うと分かって動いたのかとか割りと距離離れてたんだけど今瞬間移動しなかったかとか鎧邪魔だなとか色々な思考が浮かんでは消えて行く。


(……ふぁああ!? え、え、えぇ!? 何これ何これ! ちょっといきなりすぎない!? というか幸運に極振りしてるのに何で石に躓くの本当にありがとうございます!)


 割りとキャラが崩壊気味だった。


「ノービス大丈夫だった?」


「ぅえ、えぇ。大丈夫、ありがとう、怪我は無いわ」


 自分でも分かる程に顔が熱い。

 ミタマがニヤニヤしている所を見るに、傍から見ても分かる程顔が赤いのだろう。


「ぁぅ、ご、ごめんなさい」


 そろそろ離れなければ、とノービスが自然に体を放し、何か話題は無いかと考えていると、未だにニヤニヤとこちらを見ている視線が二組。


「ちょっと、いつまでニヤニヤしてるのかしら、って、誰?」


 一人は言うまでも無くミタマ。

 もう一人はミタマの肩に腰掛ける緑色の肌をして身体全体を蔦で巻き付けた体長20cm程の少女。

 ミタマのステータスにこの様なものは、あった。


「もしかしてドリアード?」


「正解」


 やはり【テイム:ドリアード】のスキルによる物と見て間違いない様だ。

 しかし、


「主従から馬鹿にされるのは何か腹立つわね」


「馬鹿にはして無いさ。なぁ、ドライ」


「……(ケラケラ)」


「ねぇミタマ、この子撫でても良いかしら?」


「止めてやれって」


 無言で笑って来るドリアードのドライ相手に【死神の接触】を使用した状態で撫でる事も辞さない構えであったが、ミタマに止められてしまった。


「ノービスもさ、パーティープレイが出来ないならいっそモンスターでもテイムしてみれば良いじゃん」


「……なるほど」


 ノービスも、そろそろ移動用の足が欲しかった所である。

 テイムするとすれば、やはり狼や馬辺りだろうか?

 と考え込むノービスにシェイカーが言った。


「――そうそう、このシード・オブ・ユグドラシルの世界には通常のモンスターとは別格のユニークモンスターと呼ばれる40体のモンスターがいるんだ」


「今は36体だぜ、団長殿。で、ユニークモンスターを倒した奴はユニークハンターって言われるんだが、……まぁ、並大抵の実力じゃあ無理だろうな」


「ふーん」


 取りあえず、謎が一つ解けた。

 ミタマと再会した時に言っていたユニークハンターとはこの事だった様だ。

 という事はつまり、少なくともミタマはユニークモンスターを倒した事がある訳で。


「もしかしてシェイカーもユニークハンターって奴なのかしら」


「ん、そうだよ? 僕は“灰燼焔 スカーレット”を倒して、ミタマは“月光蝶 ルナパピヨン”っていうユニークモンスターを皆で倒したんだ。皆で倒した場合は戦闘で一番活躍したプレイヤーに称号が付くんだけど、この辺はまた今度」


「まぁ何が言いたいのかってーと、取り敢えずランダムでエンカウントするユニークモンスターには気を付けろって事さ」


 その日はその話でお開きとなった。

 ログアウトした双葉は先程まで話していたシェイカー――一葉の姿を思い出して、クスリと笑った。


「本当に楽しそうに笑ってたわ。私も一葉と一緒に戦いたいけど……」


 自分に出来るだろうか、と少し不安になる。

 そして思い出す、双葉に可能性を示した今朝の話。

 可能性の話をしているだけだ、と医者は言った。その時まで悩むと良い、とも。

 では、その時が来たのならば双葉は――。


「どうすれば良いのかしらね」


 上体を起こして足を撫でる双葉の脳裏には、夕霧一葉の姿が焼き付いていた。



 翌日。

 いつも通り双葉の病室を訪れた一葉に、双葉はある事を聞いた。


「ねぇ、一葉。聞いて欲しい事があるのだけれど――」


 双葉は、彼に己の苦悩を告げた。



◇◇◇◇◇



 所変わってノービスがいるのはシード・オブ・ユグドラシル内での始まりの街イワン。

 何故昨日訪れたニツーではなくイワンなのか、それはノービスがあるスキルを欲していた為である。

 因みに、昨日シェイカーに聞いた事だが、街の中央広場を介してそれぞれの街に転移出来るらしく、何かしら行動する度に体力切れを起こしそうなノービスからすればありがたいシステムである。


 そんな訳で前回スキルを買ったスキル屋の露店があった場所へ来たノービスが見た物は全く違うプレイヤーが開いている露店だった。

 そのプレイヤーは四十代程の厳つい顔付きをした男性だったが、そんな男性プレイヤーの露店にはぬいぐるみが並べられていた。

 ぬいぐるみが並べられていた。


「……どうした嬢ちゃん、立ち止まったりして。ぬいぐるみ買ってくのか?」


「あ、えっと……」


 ノービスが言い淀むと、ぬいぐるみ売りのプレイヤーはあからさまに不機嫌な顔になる。

 元々の顔が顔なだけに、不機嫌そうな顔をしても微々たる変化しかないが。


「……何だ? おっさんがぬいぐるみ売ってんのがおかしいのか?」


「いえ、そう言う訳では無いわ。ここに以前女性のスキル屋が露店を構えていた筈なのだけれど、彼女が今どこにいるのかご存じかしら?」


「……嬢ちゃんプリムラのガキの客かい。それならあっちの通りを真っ直ぐ行って突き当たりを右、その角に“スキルショップ・プリムラ”っつう看板がある。その看板の店があいつの店だ」


 見掛けによらず親切に道を教えてくれたぬいぐるみ売りに礼を行って早速その店へ行く――前にノービスはぬいぐるみ売りにある事を尋ねる。


「そうそう、幸運を上げるぬいぐるみって売って無いかしら?」


「幸運だぁ? 一応あるにはあるが……、ちょっと待ってろ」


 そう言ってぬいぐるみ売りは半透明のウィンドウを目の前に浮かべ、数秒程操作して一つのぬいぐるみを出す。

 そのぬいぐるみはある一点以外は現実の白兎を模した物だった。

 現実の兎と違う点はその白兎の額に二本の角がある所であり、と言うか、これと同じ物を昨日見た事があった。


「これ、確かペネトレイトラビット、よね?」


「知ってんのか、嬢ちゃん。その通り、こいつは草原のレアモンスター、ペネトレイトラビットのぬいぐるみだ。……効果はLUKとAGIがそれぞれ+20の代わりにCONとMINがそれぞれ-20って微妙効果だが――」


「――それ幾ら?」


 ステータスについてだが、STRやCONなどの能力値は幾らでもプラスになるが、マイナスになる事は無い。

 その為にぬいぐるみのデメリット効果はノービスにとって、あって無い様な物だった。


「……あぁ、1500Gだが」


「買ったわ」


 即断である。

 実際、ノービスの懐にはかなりの余裕があるので1500G程ならば現在の所持金の二十分のーにも満たない。

 ノービスの持つスキル【死神の接触】のお陰で、初心者が倒せる量を軽く超えるモンスター達を屠ってきたノービスの所持金は30000G以上であった。

 二本角兎のぬいぐるみの他にも熊や羊のぬいぐるみを購入したノービスはそれらをストレージに入れて、件のスキル屋へと足を運んだ。



◇◇◇◇◇



 ノービスがストレージの存在を知ったのはPK三人パーティーを返り討ちにした翌日、シェイカー達と一緒に草原の深部を歩いている時であった。


「そういや、ノービスはあのPK三人の遺留品ドロップアイテムはどうしたんだ?」


「あ、それ僕も気になってた。ストレージに何かめぼしいものとかあった?」


「ストレージって何かしら?」


「え?」


「え?」


「え?」


 シェイカーが言うには、ストレージとは四次元ポ○ット的な格納庫の様な物で、空中に展開したホーム画面から移動して開けるある種のプレイヤーの特権らしい。

 古き良きRPGでよくある『お前所持金9,999,999Gも持ってんのに戦闘出来んのか』みたいなアレである。

 ノービスも試しにシェイカーに言われた手順でストレージを開くと、数匹分の兎のドロップアイテムにいつぞやの初心者の細剣、その後夥しい数のモンスターの素材、そして最後にあのPK三人の装備品と思しきアイテムがあった。


「あぁ、あの時の初心者の細剣何処に行ったのかと思ったら、ストレージの中に入ってたのね」


「ストレージ知らんで良く金尽きんかったな」


「そこまでお金使わなかったのよ。ポーションなんて殆ど使わないし、武器も頑丈だし、食べ物無くても何とかなるし――」


「あぁ、もう良いもう良い。まぁ、これからはストレージ使いなや」


 投げやりなミタマの解説は続く。

 プレイヤーが倒した相手(この場合はPK)のドロップアイテムがストレージに入る事が稀にあるらしく、その中でも相手の持つアイテムのレア度によってドロップ率がかなり変わってくるのだが。


「うっわ、ものの見事にレアアイテムだらけじゃねぇか」


「クロード鉱石に朱鼈甲の塊、あとは迷彩トカゲの外套に……、うわ、リザードマンの胆石まである」


 異常なまでにステータスの全てがLUKに偏ったノービスの前では、アイテムのレア度などあって無い様な物だった。


 という訳でストレージの中のアイテムを、シェイカーとミタマと一緒にいる物といらない物に整理していらない物の方を売り払った結果が30000G以上の現在の所持金額である。



 ストレージの事を思い出しながらもぬいぐるみ売りに教えてもらったスキル屋まで辿り着いたノービス。

 店の看板にはスキルショッププリムラの文字があり、ここがぬいぐるみ売りが言っていた店である事が理解出来た。


 ひとまず入店。


「すいませ」


「ふあ!? 寝てませんよ!?」


 デジャヴ。


次回、DAYDREAM。

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