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彼女らの反省と後悔

閑章その四。ここまで閑話に梃子摺るとは思ってもみなかった……。

流石に間が開き過ぎたので更新。一応前編になります。



 ふと、双葉は目を覚ます。先程まで起きていたにも拘らず目覚めの感覚を覚えるのはVR空間から現実へと帰還した事の弊害である。

 視線を動かし窓へと目を向けるが窓はカーテンによって遮られ外は見ることが出来なかった、が、ゲーム内での時間経過から察するに夜も更けてかなり時間が経っている筈だ。

 ふ、と一息吐いた双葉は上体を起こし、


「……あぁー」


 布団に包まれた下半身へとそのままダイブした。


「……何で一回目で全部削り切れなかったんだろう、というかトリスに「私に任せて先に行け」的な事言って油断してモンスター止められなかったとかうっわ今思い返すと凄い恥ずかしいわ何これ。というか本気で戦闘できるのって実質一回きりなのに【白昼夢】の能力初見殺しに特化してるって難易度高すぎないかしら、いや、あそこまであからさまなら複数回戦闘する事も視野に入ってたりしたのかしら……始めてから一ヶ月も経ってない身としては判断しかねるわね」


 ベッドに顔を埋め、ぼそぼそと愚痴と反省を口にして多少なりともすっきりした双葉は漸く己の横で意気消沈しているそれに顔を向けた。

 普通ならこの時間にここにいるべきではないその看護婦は美香と言い、双葉と良好な関係を築いている人物の一人だ。


「どうしたんです? こんな時間に」


「……どうしてああなったんですかー」


「え、何の話」


「……勝手に崇め奉られても困りますってのー」


「……」


 美香が落ち着くのを待つ事暫し。


「それで、どうしたんですか? こんな時間に」


「……あぁ、いえね、以前私もシード・オブ・ユグドラシル始めるって話したじゃないですか」


 そういえば以前そんな事を言っていたと思い出し、しかしそれがどう悩みの種に繋がるのかは分からなかった。


「キャラメイキングの途中で何か変なスキルがあったんで取ってみたんですよ、楽しそうだし私のプレイスタイルと合ってそうな名前だったし」


「確か聖職者でプレイするって言ってましたね、そのスキルの名前は何です?」


「【聖女の烙印】って書いてましたね」


 ……。


「私も似たような感じで変なスキルを手に入れたんだけど、【死の接触】って言うんだけど……」


「あぁ! やっぱりあの山で戦ってた動画の人双葉さんだったんですね! 凄い特徴的な戦い方と現実まんまの姿でもしかしてと思ってたんですよねぇ」


 彼女もサカマキの動画を見ていた様だ。たった三人を返り討ちにしただけの場面から分かる情報は少ないと思っていや待て今何て言った?


「……山?」


「えぇ、教えてもらったんですけどあそこって“天鈴山”って言うんですね、それぞれのフィールドに名前が付いてるんですかね? あぁ! そうそう、あのでっかい狼も、何でしたっけ、ユニークモンスター? らしいじゃないですか! いやぁ、始めて数日なのに凄いですねぇ!」


 ……なるほど、なるほど。確かに彼にはお世話になった。【白昼夢】から逃げる際にトリスと共に担いで貰ったし、トリスの職業を幾つか見繕って貰った。そして【白昼夢】との決戦では彼が助けてくれなければ全員死んでいた未来さえあった。

 確かに彼には恩がある。だが双葉はゲーム内で貴重なアイテム等を渡して恩を返そうと思っていた。だがサカマキは――


「……ふぅ、今後私を狙うPKが増えたりするのかもしれないけれど、その対策は後で、……ギルドマスターにでも頼りましょうか」


 完全に忘れていたが双葉――ノービスは現在シェイカーのギルドに所属している。いざとなれば彼を頼る事も考えておこう。


(今回で二回目、今回は助けてくれた恩を向こうが勝手に清算してくれたのだと考えよう。でも今後もこれが続く様ならその時は――)


 ――サカマキを敵に回す覚悟を決めよう。


「双葉さん双葉さん、そのうち一緒SOYで遊びましょう!」


「ソイ?」


「シード・オブ・ユグドラシルの略称ですよ、普通にユグドラシルって言う人もいますけど。私と双葉さんだと生活スタイルが違うので全然時間は取れないとは思いますがそのうち!」


「……そうね、そう言えば美香さんはゲームでの名前って何て言うんですか?」


「私はセフィラにしました。双葉さんはノービスでしたっけ」


 セフィラ、確か生命の樹であるセフィロトの別名だった気がする。タロットでの占いでもセフィラが関係していた様な気がするが生憎とそちらは専門外なのでよく分からない。

 しかし、彼女と共にゲームを楽しめる自信は正直あまり無い。双葉、ノービスの持つスキルが強力すぎる為だ。周囲の反応からかなりのレアスキルであろう事は予想しているがただレアなだけなのかそれとも世界に一つしかない一点ものなのか、それもシェイカーと相談しなければならないだろう。

 だが、とりあえず。


「えぇ、またその内一緒に遊びましょう」


 そう言ってノービスは布団に潜り込み、目を閉じた。

 美香の「そういえば双葉さんのお父様が面会に来てましたよ」という報告を完全に無視しながら。



◇◇◇◇◇



 ……おや、貴女は……昨晩ぶりですね。彼らから聞きましたよ、何でも【白昼夢】を倒されたとか。

 正直今でも信じられませんが騎士団長様が断言したのですからその通りなのでしょう、私の武器を貸した甲斐がありました。昨日トリス君が二振りとも返しに来てくれましたが、見ただけで激戦だったのだと分かりましたよ。

 ……はい? あぁ、はい、当たり前でしょう。今回はただの貸し出しです、国宝級の聖剣を異邦人にポンとあげる様な真似は出来ません。昨日だってバレなかったから良かったものを……。


 それで、貴女はこの先に行くのですか? でしたら例のペンダントを見せてくださいますか?

 えぇ。……あぁ、やっぱり、【流星雨】の一欠けらは貴女を主と定めたようですね。


 以前まで騎士団長様にしか心を許していなかったというのに、それ程の活躍を貴女はなされた様だ。……貴女にも分かると思いますが、後で確かめてみると宜しいでしょう。

 では確かに。ノービス様の通行を許しましょう。


 ……私に聞きたい事が? ……あぁ、なるほど。結局団長様は貴女に何も言わなかったのですね。今なら彼も教えてくれるのでしょうが、……昨日までに聞けなければ私から話すと言いましたからね、場所を変えましょうか。


 少しばかり長くなりますが、よろしいですか?



◇◇◇◇◇



「よぉアルバ、訓練に精が出るな」


 中天に昇る太陽の光が訓練場に存在する人間を余す事無く照りつける。そこでアルバは同僚達によって踏み固められた地面を同じ様に踏みしめ、刃引きした多種多様な武器を振るっていた。

 錘を付けた皮鎧を着用しているせいで絶え間なく汗が噴き出す中アルバに言葉を掛けたヴェンデルは、拳や剣を叩きつけられ続けた為に一箇所のみ皮が剥がれた巨木の陰で皮袋に入れた水を飲んで涼んでいた。

 いかにも休憩中といった体勢だが、ヴェンデルは今日一度もあそこから動いていない事をアルバは知っている。


「当然だろう、お前も少しは鍛錬をしたらどうだ? 今日一度も体を動かしていないだろう」


「当然だろう? 俺は疲れる様な訓練は嫌いなんだ。まぁ気が向いたら自主鍛錬でもするさ」


 そう言ってヴェンデルは先程まで飲んでいた水の入った皮袋に蓋をして、アルバに投げ寄越した。訓練を中断するつもりは無かったのだが喉が渇いていたのは事実なのでありがたく頂く事にする。

 ヴェンデルの言葉は今に始まった事ではない。アルバの所属する第一騎士団はもう慣れたものだが他の騎士が聞けば何を舐め腐った事を、と憤慨する事だろう。だが、ヴェンデルはあれでいて騎士団長であるシルヴィアを除けば王国一の腕を持つ。

 奇怪な戦闘法を得手としながら日々の地道な訓練が実戦で実を結ぶと考えているアルバとしては、何処か人目につかない所で自主鍛錬を行っているのだろうと考えているが実際どうなのかは分からない。


 既に半分以下にまで減っていた水に溜息を吐き、地面に置いていた多種多様な訓練用の武器を拾い上げてヴェンデルの元へ行く。

 ふとヴェンデルに伝えるべき事を思い出したトリスは「そういえば」とさも他人事の様に口を開いた。


「シルヴィア騎士団長様がお前を呼んでいたぞ? これからの事について、だそうだ」


「……おぅ」


 先程とは一転して複雑そうな表情を浮かべるヴェンデルにアルバは笑みを押さえ切れなかった。まぁ無理もあるまい、常に余裕を崩す事が無いヴェンデルが余裕を無くす瞬間など滅多に見れないのだから。

 ヴェンデルが複雑そうな顔をする理由も分かっているだけに余計に笑いが止まらない。


「くくっ、何時になったら籍を入れるんだ? お前なら誰も文句は言うまいに」


「……るっせ、俺も決めあぐねてんだ。つーか笑うなよ」


「すまんな」


 声には出さずともニヤニヤと気色の悪い笑みを浮かべ続けるアルバに舌打ちしたヴェンデルは勢いよく立ち上がった。


「おいアルバ、一緒に来い」


「一人じゃ寂しいのか?」


「は?」


「冗談だ」


「……ったく」


 そう言ってスタスタと宿舎へと足を運ぶヴェンデルにアルバは笑みを止め、追従する。呼ばれたのはヴェンデル一人だけなのだからアルバがついていく必要は何一つ無いのだがそう言うと首根っこを捕まれて強制的に連行されそうな予感がしたので大人しくついて行くことにしたのだ。

 流石に悩める若者を笑いものにしすぎたという負い目も少なからずあったのだが。


 王都の平民街と貴族街の境界線に位置する騎士宿舎は、当然ながら王国内に存在する騎士団の数だけ存在する。その中でもアルバやヴェンデルが所属する第一騎士団の宿舎は大貴族の邸宅と比べても遜色無い程立派だ。

 同僚の中にもこの最適な住環境を求めて騎士団に志願した者もいる程他者から羨まれる環境の充実っぷりは第一騎士団、より正確に言えば王国最強の騎士団長たるシルヴィアに向けるこの国の期待が如実に現れた結果と言える。


 ヴェンデルを呼んだシルヴィアの自室は他の同僚と同じく二階の個室だが、この時間は一階の執務室で書類仕事を片付けている筈なのでそちらに移動したヴェンデルとアルバは『騎士団長執務室』という札が掛けられた扉――を、開けずに互いにアイコンタクトを取り合っていた。

 呼ばれたのはヴェンデルなのだからここはヴェンデルが開けるべきではないのか。


「……(スッスッ)」


「…………」


 一歩下がりヴェンデルを見ながら扉を開けるジェスチャーをしたアルバに凄く嫌そうな顔をしたヴェンデルは軽く溜息を吐き執務室の扉を開けた。


「……ヴェンデル・ファルカトラ、並びにアルバトロス・グレイシア、参りました。入室許可を頂けますか」


「……む? まぁいい、入りたまえ」


 壁越しでくぐもった声の中に少量の疑念が入っていた事を悟る。やはりシルヴィアはヴェンデルだけを呼んでいたつもりだったらしい。が、許可が下った以上ここでアルバだけが去る訳にもいかない。

 ので、ヴェンデルが既に開け放っていた扉の中に入り先に入っていたヴェンデルの横に並んだ。


「シルヴィア騎士団長殿、私をお呼びと聞きましたが何用でしょうか」


 地味に失礼な口調だがそれを咎める者はここにはいない。シルヴィアが以前「構わない」と明言していた事もあり、アルバも公式の場以外では窘める事もしなくなった。諦めたとも言える。


「いや、その事なんだがな? ……なぁヴェンデル、そろそろ結婚しないか?」


「……あぁー、いや、それは……」


「団長殿、何故今なのでしょうか」


 しどろもどろになり煮え切らない態度を取るヴェンデルを見て、差し出がましいとは分かっていたがアルバは騎士団長に問い掛ける。別に今でなくとも機会は十分にある筈だ。


「うむ、先日知り合いの魔術師に診て貰ったのだがな?」


 一拍。


「ヴェンデルの子供が出来た」


 愕然とした表情を浮かべるヴェンデルに少し噴き出してしまったアルバは、またヴェンデルが同僚から弄られる事になるだろうなと他人事の様に思うのだった。



◇◇◇◇◇



 そこからは早いもので、アルバが同僚にチクり、その同僚が別の仲間にチクり、あっという間に広まってしまった。他がどう言うかは分からないので第一騎士団の身内だけに話は留めているが、このまま結婚すると言うなら周囲にも喧伝しなければならない。

 シルヴィア・グランソート、王国が持つ一切の誇張無き最大戦力であるが、今まで浮ついた話など一切無かった。少なくとも表面上は。

 だがそれで困るのが王を代表する国の上層部である。万一の事がありシルヴィアを失ってしまっては国の精神的支柱が無くなり、国が内部から崩壊などという普通なら鼻で笑われてしまう様な事が起こり得る可能性がある。

 人同士の争いの他にモンスターという脅威がある世界では尚更だ。だからこそシルヴィアに子を産ませればその子が次の騎士団長となるかもしれない。かもしれないだろうとせざるを得ない程の問題であり、実際に見合いの場を何回か設けられたのだがシルヴィアはその見合いを全てキャンセルしていた。


「そんな団長殿が遂に身を落ち着ける。朗報じゃないか、なぁ?」


「お前一晩で全員に言いふらしやがって……」


 ヴェンデルに半目を向けられたアルバは微笑を浮かべる。

 確かにからかいもあるが、ヴェンデルがシルヴィアと結婚した事を純粋に誇らしく思っているのだ。一人の親友として、これほど喜ばしい事は無い。


「結婚は確定事項だろうが、式はどうする?」


「確定……いや、まぁ俺はひっそりと身内でやりたいと思ってるけど……」


「シルヴィアの方の家が許してはくれんだろうな、というか秘匿しても直ぐにバレるだろうし秘匿する意味が無い。寧ろそんな重要事項を何故秘匿するのかと責められる可能性すらあるぞ」


 ヴェンデル・ファルカトラとシルヴィア・グランソート、爵位こそ違うもののどちらも名家の生まれと言って差し支えない身分であり、それぞれの家が彼らの結婚を見逃す筈が無い。ヴェンデルが身内だけで式を挙げたいと思う気持ちも分からなくも無いが、こればかりはヴェンデルやシルヴィアでもどうしようもない。


「お前のその意思はなるべく尊重したいとは思ってるが、今回は厳しいだろう。もういっその事開き直って周囲に喧伝してしまえばいいだろう、既成事実という逃げられない証拠もあるんだ。そっちの方が案外楽に終われるかもしれないな?」


 まぁ仕事は増えるだろうが、という懸念を声に出さず心に留めておく。

 純粋にヴェンデルを祝福しようとは思っているが同時に騎士団長と結婚出来るのだから苦労すれば良いとも思っているのでわざわざ言うつもりは無い。というか事後承諾という事は今まで誰からも隠れて関係を持っていたという事に……


(……やめよう)


 下手を踏めば騎士団が崩壊する可能性すらあった事にアルバは目を逸らした。



◇◇◇◇◇



 大体こんな所でしょうかね、トリス君の祖父と祖母に当たるヴェンデルとシルヴィアの馴れ初めは。この頃はヴェンデルも楽しそうだった……。

 事が起きたのはそれから二ヵ月後辺り、シルヴィアが無事に出産を終え、以前の様に王国最強の力を取り戻した辺りから雲行きが怪しくなってきました。


 ……今更ですが、彼らに用事があったのでは? ……えぇ、そうですか、あくまで私の話を聞きたいと。

 更に時間を頂く事になりますがそれでもいいのなら、貴女に伝えましょう。貴女には知る権利がある。


 では、続けましょう。



まぁ梃子摺ってる原因はこの期に及んで舞台裏の細かい設定を練り切れてないからなんですが。どうすっかなー!(ごめんなさい)

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