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ある裏方の誤算、そして諦念

閑章その二。今回かなり短いです。



 とある高層ビルの一室。静寂が支配するこの空間で響くのは数人がパソコンのキーボードを叩く音、そして部屋の隅で作動するコーヒーメーカーがコーヒーを淹れる音だけ。だった。


「あぁああああああ! くっそ何かおかしいと思ったらそういう事かよぉおおおおお!」


 会話などは一切無い何処か肌寒さすら覚えるこの空間の静寂を切り裂いたのは、一人の男の怒号だった。

 他の皆が作業の手を止め、何事かと彼に近寄る。


「どうした後藤、そんな狂ったような声出して」


「これが狂わずにいられるかってんだ! ったく、予想外にも程があるぞ? 予定が完全に崩された」


「予定が崩れるなんて日常茶飯事でしょうに。運営やってれば当然の出来事でしょ?」


「鏑木……後ついでにお前らにも報告しておく。……13番が開放された」


 後藤と呼ばれた人物の一言でこの部屋の空気が凍りつく。13番、その数字が示す物の重さを理解できない彼らではないからだ。


「ちょ、ちょっと! 本当に13番なの!? あれは21までの中で最も入手困難ってあなたが言ってたじゃない!」


「こいつのログを見てみたが、間違いない。俺もついさっきまで気付かなかったよ。俺が思ってたより控えめに行動してたみたいだ」


「だから番号持ちが現れた直後にアラームが鳴る設定にしておけとあれほど……」


「黙ってろ加賀」


 加賀と呼ばれた男性がしょんぼりしているのを総スルーしながら彼らは後藤に問いかける。


「気付いたのは何が原因なの?」


「あぁ、聞いて驚け、【白昼夢 デイドリーム】が討伐された」


 先程よりも大きなざわめきが部屋全体を支配する。「あの【白昼夢】を?」「つーかキーNPCに遭遇するのかなり低確率だったような」「ってか【白昼夢】って倒せんの?」などなど。

 そんな中、鏑木が後藤に問う。


「討伐人数は?」


「直接関わったのは5人。内2人はNPCだから実質3人だな」


「そんな少数で!? 13の話が出るって事は【白昼夢】戦の内一人がそれだったのよね? 【白昼夢】って即死攻撃に耐性持たせてた筈だけど、何かしら抜け道でも……」


「おいおい、何か勘違いしてねぇか? こいつらは至って正攻法で討伐したぜ?」


「……まさか、キーNPCを戦力にしたの? だとしても戦力には足りないわよ? ……そうだ、後の二人は?」


 最前線で戦えるプレイヤーが二人でもいれば即座に戦線崩壊には至らない筈だ。そう考えた鏑木をからかうかのように後藤は告げる。


「一人は頭痛の種である11番、もう一人は20番だ」


 頭痛の種の11番。その言葉が指し示すプレイヤーは一人しかいない。誰もが憧れる様な力を持ちながら全く関係の無い事に使用する天邪鬼だ。


「……あいつは【蒼薔薇】を倒してたな。なら、まぁ、行けなくも無い、か?」


 蒼薔薇の性能は一部だけをみれば【白昼夢】を容易く凌駕する。戦い方に気をつければたった5人でもやって出来ない事は無いだろう。まして使い手が11の所持者ならば尚更である。


「ん、なぁ後藤、俺はそっちに関わってないから全然把握出来てないんだが、それって今どれくらい開放されてるんだ?」


 【白昼夢】討伐と13の開放でざわついていた一人が疑問の声を上げる。


「あー、柴崎はイベント担当だったな。丁度いい、今から洗い出してみる」


 そう言って後藤はパソコンに張り付き作業を始めた。結果が出るまで五分は掛かるだろう。

 その間、コーヒーを飲んでいた加賀は鏑木にある事を聞いた。


「そういえば鏑木さん、13番の解放条件って何だったんですか?」


「あなたも担当でしょうに……、13番の開放条件は“死を知る事”よ。残念だけど私が知ってるのはこれだけ。細かい事は多分後藤しかしらないわ」


「“死を知る事”ですか。一回死ねって事なのかそれとも死と同レベルの恐怖を体験すればいいのか……いずれにせよ永遠に開放されない可能性もあった番号なんすね」


「そうだったんだがなぁ……」


 加賀、鏑木、柴崎の三人が話しているとピピッという電子音が響く。


「おい、お前ら、終わったぞ。こっち来て見てみろ」


「随分早かったじゃない」


「さすが有能」


「うるせぇ加賀」


 再びしょんぼりする加賀にガン無視を決め込み、後藤の言葉に耳を傾ける。


「開放されてる番号は11個と+1つ。0番、1番、6番、7番、8番、10番、11番、13番、17番、19番、20番。あと9番が開放されてるが……正直9番は別枠だな」


「あ、結構開放されてるんだ。22個中12個ってかなり早いペースだよね?」


「まぁな。だがまぁ、正直こいつらはどうでもいい。傍から見ればこいつらはゲームバランスが崩壊してる様に見えるだろうがそれだけの努力を積み重ねてきた結果だ。俺らが対応する様な事にはならんよ」


「そうかしら? 8と19は飛び抜けてパワーバランスが崩壊してると思うけど……」


「あー、“最強”と“灰燼”な。あれは何と言うか、ユニークモンスターの討伐報酬と番号持ちの特殊効果と職業がガッチリ組み合わさった結果だから……俺らは関係ねーな、うん」


「雑だなぁ」


「は?」


「いや、ごめん」


 うっかり本音が漏れた加賀を射殺さんばかりに睨み付ける後藤。漂う殺気は決して徹夜継続中が原因ではないだろう。

 基本的に誰に対しても刺々しい態度を取っている後藤だが加賀に対しては通常の三倍は厳しい。原因は分からないがそれだけの事があったのだろうと周囲は自分を納得させている。


「しかし10番が開放されているのは少し問題かもしれないわね」


「そりゃまた何でよ鏑木さん」


「確かワールドクエストの発生条件の一つが10番持ちと21番持ちが現れる事だった気がするのだけれど、まだこっちも準備は終わってないわよ?」


「あぁ、その事に関しては心配はいらねぇよ鏑木。当分、まぁ柴崎の仕事が終わるまでは21番は開放されない」


「え、俺?」


「そうだ。だからイベントは気兼ねなくやってくれ」


「あ、うっす」


「……そう、なら心配要らないわね。私は仕事に戻るわ」


 慎重に進めてきた計画が突然前倒しにならないと分かった鏑木は安堵の息を漏らしながら自分の持ち場へと戻っていった。


 鏑木の後を追いかける加賀と柴崎は小さく会話を交わす。


「後藤さん本当に対応しなくていいって思ってるんですかねぇ?」


「まぁ、あいつはそういった雑務はお偉方の仕事で自分みたいな木っ端はゲームを管理するのが仕事、とは思ってそうだが」


「木っ端ですか……」


 柴崎はそう呟き、背後の後藤に目を向ける。先程の喧騒など無かったかのように通常の業務をこなす彼はこの場の誰よりも堂に入っていた。


「後藤が木っ端なら俺達は何なんすかね……」


「金魚の糞じゃないか?」


 加賀の皮肉に柴崎は思わず失笑を零す。


「違いないっすねー」



◇◇◇◇◇



「……聞こえてるっつーの」


 キーボードを叩く指は止めず、後藤は愚痴る。

 手際がいい自覚はあるが実際はそこまで優秀という訳でもないのだが。


「……おん?」


 画面に少々の違和感。それを手繰り寄せる為にコンピューターを操作し、発見する。


「……はぁ、何で次から次へと……」


 そこには先程の喧騒の原因である番号持ちの2番――女教皇が解放された旨が記されていた。



突如出てきた謎の伏線!どうやらノービスは13番なるものを獲得していたらしい!“灰燼”と呼ばれているシェイカーも19番と呼ばれるものを所持しているようだ!0~21からなる謎の数字の正体とは一体何なのかッ!(バレバレ)

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