第3話 クエストはしっかりこなすべき。
3話目です。
ノービスが【死の接触】スキルの特異性を実感したのはチュートリアル中の実戦訓練の時だった。
実戦訓練では、HPが高めに設定された的カカシを、数や挙動を設定して配置する事が出来るのだが、ノービスは一体を直立不動で配置してスキルを試していた。
そこで【投擲】の角度60度よりも上に投げると幸運依存になる事、
【幸運上昇】の効果がかなり嬉しい物だった事、
【気運】が幸運上昇のスキルと合わせるといずれとんでもない数値になる事、
【危機察知】のスキルが、不意打ち対策に必須だった事、
そして、【死の接触】のスキルの効果が完全に幸運に依存している物だった事が分かった。
【死の接触】の効果は極めて単純だ。
素手での接触を発動のトリガーとする。
最終的な幸運のステータスを十分の一とした数値、それをスキルの発動確率とし、スキルが完全に発動した場合相手に即死効果を与える。
これだけだ。
例えば、レベル1の時のノービスを例として考えよう。
ノービスの幸運のステータスは300、それを十分のーとした数値が発動確率となるので、30%の確率で接触している相手が死ぬ。
更に【幸運上昇LV.1】の効果で、幸運のステータスにプラス10で合計値が310。
更に更に【気運LV.1】の効果を使用すれば現段階での幸運のステータス一割が加算される為、最終的な幸運のステータスは341となるので、この状態で【死の接触】を使用すれば最終的には34.1%の確率で相手が死ぬ事になる。
勿論、即死攻撃に耐性を持つモンスターもいるかもしれないが、そうでない相手には、理論上幸運のステータスが1000を超えた段階で確実に死ぬ事になる。
なので、とりあえずは草原でひたすらレベルを上げて幸運の合計値を1000にする事を当面の目標とするノービスであった。
「あら? 回復アイテムが無くなっちゃった。一旦街に戻らないと」
合計十三匹の角兎相手に【死の接触】込みでペタペタしたり、たまにシェイカーから貰った“穿鉄の細剣”で武器戦闘をしたりと、経験値を得る為に連続して戦闘を行った結果手持ちの回復アイテム類が底を尽きてしまった様だ。
レベルが上がり、手に入れたステータスポイントを全てLUK(幸運)に割り振ってからノービスは街へと帰った。
因みに現在のノービスのステータスは次の通りである。
◇――◇――◇――◇
PN:ノービス
LV:6
職業:放浪者
HP:25/25←15UP
MP:25/25←15UP
STR:0
CON:0
DEX:0
AGI:0
INT:0
MIN:0
LUK:370←70UP(+30)
スキル:所有数5
【投擲LV.4】
【幸運上昇LV.3】
【気運LV.2】
【危機察知LV.3】
【死の接触LV.2】
アビリティ:【白霧の導き】
武器:穿鉄の細剣
上半身:放浪者のシャツ
下半身:放浪者のズボン
装飾:放浪者の外套
◇――◇――◇――◇
所変わって、始まりの街イワン。
長距離の移動で息も絶え絶えのノービスは少しイワンの正門近くのベンチで休憩していた。
「……体力が、無さすぎて、辛い」
そこまで辛いならCONスタミナにポイント割り振れよと思わなくもないが、ノービス本人はあくまでも幸運極振りを続けて行く様だ。
頑固である。
ノービスがベンチに座りながらイワンの町並みを眺めていると、幾つかプレイヤーの物と思しき露店がちらほら見受けられた。
武器や防具は勿論の事、ポーション等の消耗品、あとは巻物っぽい何かを売っている露店などもある。
「NPCの店が多い中でよくやるわねぇ」
小さく呟いたノービスは座っているベンチの隣りへと顔を向ける。
そこは先程まで空席だった場所。
「……で、あなたは何時からそこに? 私に用事でもあるのかしら」
「前者の問いにはついさっき、後者の問いにはイエスと答えよう」
そこにいたのは少年とも言うべき年齢の男。
一目見ただけではプレイヤーかNPCか分からない少年は灰色のローブを纏いながらニヤニヤと笑う。
「いやぁ、お姉さんなかなか凄いスキル持ってるじゃあないか。俺はびっくりしちゃったよ」
「……あなた何者? 私が戦ってる所をずっと見てたの?」
「その二つの問いにゃあ簡単には答えられんなぁ。あぁだが気にしないでくれ、俺はお姉さんのスキルを公言する気は無い、それは本当だ」
「うさん臭いわね、あなた本当に子供?」
きょとんとした顔から一拍、人目を憚らず笑い始める少年にノービスは奇妙な物を見る目で見る。
ベンチの前を幾人も通り過ぎている筈なのに、誰も笑う少年に見向きもしないのが少年の奇妙さに拍車を掛ける。
「カッカッカ! 子供、子供か! 確かにそう見えるだろうなぁ、だが外見で何もかも判断しちゃあいかんよ? 想定外は常に起こり得る。しかし、まぁ、特別にお姉さんの諸々の疑問の解決法を教えよう」
「解決法?」
頷いた少年が指差した先には先程の巻物っぽい何かを売っている露店だった。
「あそこに露店があるだろう? あれはスキル屋でな、スキルを込めた巻物を開くとスキルが手に入る」
「便利なのね」
「そうだろうそうだろう! でだ、あそこのスキル屋で【鑑定】スキルの巻物を買うと良い。【鑑定】は相手のステータスを読み取るスキルでな、一レベルからでも相手が拒否しない限りステータスを読み取れる。
それを以て答え合わせと行こうか。使えるスキルだから絶対に損はしないよ」
クエスト名初めてのおつかいスタートだ、と冗談めかして言い放つ少年に釈然としないながらもノービスは立ち上がった。
◇◇◇◇◇
「すいませ」
「ふあ!? 寝てませんよ!?」
うつらうつらと眠そうに店番をする女性プレイヤーは突然声を掛けてきた人物に飛び起きる勢いでそう返した。
「あぁ、そう。いえね、スキル屋さんが見えた物だから寄ってみたのだけれど、どんな物があるのかしら」
「あぁ、お客さんでしたか。いらっしゃい、ま……せ」
寝ぼけ眼を擦りながら接客していた店番は目の前の客の姿を視界に入れ、目を見開いた。
(……な、なんて美人なの!?)
自らを一般人、下手すれば芋女と認識する店番の女性は目の前の美女に圧倒的敗北感を抱いた。何て言うか、もう、纏っているオーラからして違っていた。
「……? えっと、早速で悪いのだけれど、【鑑定】スキルの巻物はあるのかしら」
「……あ、はぃ、こちらになりますぅ」
美人オーラに当てられた店番の女性は呆然とした状態のまま【鑑定】スキルの巻物があるであろう場所の巻物を手渡した。
巻物の金額は2400G。
「2400Gね、はいこれ」
「ありがとうございましたー……」
(……あれ、【鑑定】スキルの巻物ってあんな高かったっけ? ん、2000G台の巻物って確か、って!)
見れば、美人の客は支払いを済ませた巻物を開こうとしている所だった。
「ちょ、お客さん! それ違っ!」
「――え?」
しかし、最早時既に遅く、巻物は完全に開かれて美人の客は巻物のスキルを入手してしまっていた。
確かあの巻物のスキルは――
「……え、【死霊術】?」
店番の女性が試しに作ってみたスキルの巻物の中で一際異彩を放つ物だった。
◇◇◇◇◇
あの後、怒濤の勢いで「すいませんすいませんすいません!」と店番の女性プレイヤーに平謝りされ、タダで【鑑定】スキルの巻物を貰ったノービスは申し訳ない気持ちで一杯だった。
(何も威圧的な事はしていないのに何であそこまで怯えられるの、やっぱりタダで貰うのは断っておくべきだったかしら? でも、あそこで断わったらストレスで死にそうだったし……)
そんな事を考え込むノービスが先程のベンチに戻ると、大爆笑する少年の姿。
「カッカッカ! 手違いで予期せぬスキル獲得とか、最高だなぁ!」
「うるさいわよ、結果的に得したんだから別に良いじゃない。ねぇ、“ミタマ”?」
「おや、もう使ってみたのか。その通り、俺の名はミタマ。ギルド【ヴァルハラ】の副団長“静寂”のミタマだ。これが俺は何者かと言う問いの答えだな。
で、おれがお前の戦いをずっと見ていたか、ついでに何故俺が通行人に注目されないかは……もう分かっているんだろう?」
「……そうね」
ノービスが取得したばかりの【鑑定】を使って見た少年――ミタマのステータスが次の物だ。
◇――◇――◇――◇
PN:ミタマ
LV:82
職業:静守の陰者
HP:2480/2480
MP:3560/3560
STR:270
CON:360
DEX:620
AGI:740
INT:590
MIN:660
LUK:210
スキル:所持数15
【隠蔽LV.30】
【隠密LV.30】
【気配断絶LV.30】
【光学迷彩LV.30】
【静寂世界LV.30】
【暗殺者の一撃LV.14】
【テイム:ドリアードLV.30】
【森鏡の標LV.24】
【狂乱LV.4】
【逆鱗LV.12】
【最後の凶撃LV.6】
【ハルバード使いLV.22】
【針使いLV.25】
【植物魔法LV.18】
【光合成LV.3】
EXスキル【静寂を往く者】
アビリティ:【静けさの羽ばたき】【精霊の寵愛】【樹海の加護】
武器:ヘルフィライトハルバード・木漏れ日の針×20
上半身:月光のコート・月光のシャツ・ドリアードの首飾り
下半身:月光のズボン・月光の靴
装飾:隔絶のローブ
※このステータスは偽装されている恐れがあります。
◇――◇――◇――◇
自身のそれとは比べ物にならない程膨大な情報量に目眩がしそうになるノービスだが、その中でも一際目を引くミタマのスキル構成はとんでもない物だった。
異常なまでにスキル構成が隠密に偏っているからこそ私の戦いをずっと見る事が出来ていたのだろう。
通行人に注目されないのもこれが原因なのだろう。
「普通に高レベルプレイヤーじゃない……、っていうかそうだ、結局何しに来たのよ」
「カッカッカ、そういえば俺が何しに来たかは言ってなかったな。何、難しい事じゃあないさ。団長殿の恋人がどんな奴なのかなぁと見に来ただけさ」
しばし考え、すぐに答えに辿り着く。
「まさか、シェイカーの言ってたギルドって【ヴァルハラ】の事だったの?」
「正解だ。にしても恋人っつったらすぐ答えに辿り着いたな」
ニヤリと笑ったミタマはよいしょ、とベンチから立ち上がった。
「団長殿の恋人も間近で見られて、話も出来た。満足したから帰るわ」
じゃあなぁ、と手をヒラヒラと振り、ミタマは街の雑踏の最中へと消えて行った。
ノービスの想定外の会合はこうして終わりを迎えた。
次回、現実世界側のお話。




