表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シード・オブ・ユグドラシル~幸運極振り死神さんは、確定必中即死使い~  作者: 砂場の黒兎
白昼夢と流星雨 The Daydream and Stardust
29/40

第27話 《白昼夢⑰》残照、絶望の掃討

ラストスパートだというのになんでこうも無理矢理詰め込もうとするのか。

ともあれ27話目です。



 許容外の痛みから逃げる為に無意識に手放しかけた意識を無理やり手繰り寄せる。憎き“白昼夢”から受けた傷は誰かから貰ったポーションでとうに癒えている。

 だからこの痛みは、別の要因による物だ。


 “白昼夢”を倒す。その一心で今日まで生きてきた。

 その為に、ただ只管に強くあろうとした。武具も、揃えられる限り最高の物を揃えた。そしてこの日を迎え、己のリミッターを外して“白昼夢”に挑んだ。


(――それが、このざまか……)


 持ち得る全ての手札を尽くして尚届かない。何故だ? 何故剣が届かない? 何が足りない? 如何すれば良かったんだ?

 ……何処で、間違えたんだ……?


 己の視界が暗くなっていくのを感じ、ヴェンデルは目を伏せる。


「じーさん、生きてるか?」


 ふと、自分を照らす光がある事に気付く。煌々と大地を照らす日の光ではない。今にも闇にさらわれそうな、薄く淡い光だ。

 顔を上げるのにも億劫になっていたヴェンデルはその誰かと目を合わせる事無く口を開く。


「誰、だ……?」


「それ、今必要か?」


 ヴェンデルの問いに、誰かは疑問を浮かべた。


「私が誰かはどうでも良い。爺さんの事も正直どうでも良い。んだが、まぁ、頼まれたからなぁ……」


 ばっさりと切り捨てた誰かはしかし幾許かの逡巡の末ヴェンデルに語りかける。


「爺さん、あんたはこれから、何がしたい」


「何を言うかと、思えば……」


 わざわざ言われるまでも無い。事ここに至ってもヴェンデルの目的は変わらず唯一つ。即ち“白昼夢 デイドリーム”を――


「いいや違うな、爺さん。あんたはもう打倒固有種を目的としちゃいない」


「……」


「勿論これは根拠の無い推論とも呼べない様な唯の勘だ。物的証拠なんか出せるわけが無いし状況証拠を出せる程この戦いを見ちゃいない、だから今から言うのは邪推レベルの独り言でしかない。んだが、まぁ取り敢えず聞いてくれ」


 本音を言ってしまえば今すぐにでも“白昼夢”を、と思ったが痛みで動けない今、目の前にいる誰かの話を聞かざるを得なかった。


「あるNP――人から聞いたんだが、爺さんがここまであのユニークモンスターに固執する原因となったのは先代騎士団長であり同時に妻だったシルヴィアの死らしい。あぁ別にそこを掘り下げるつもりは無いんだ、私が言いたいのはその時確かにあんたは“白昼夢”への復讐を目的として動いていたんだろうって事だ」


「……」


「で、名実共に王国の要であった騎士団長が死んでしまったら、当然困るのは王国の上層部辺りだろうな。まぁすぐさま戦争って訳にもいかないだろうけど抑止力となり得る存在がいないのは、そりゃ困るわな」


 ここで戦争っていうイベントが起こるのかは知らないが。そう続けた誰かは確かに意図して掘り下げようとは思っていない様で、あっさりと流し話の続きを口にした。


「なら当然王国は新しい騎士団長を探そうとするわな、それも先代騎士団長と同等、またはそれ以上の力量を持った者を。扱いづらい奴はいらんだろうから、まぁ先代が所属していた騎士団の中から第一候補を探したんじゃねぇかね? 更に言えばシルヴィアに近しい者であれば尚良かったかもしれない。が、まぁこれは出来ればであって本来であれば騎士の中で最強を決めたりして騎士団長を選出したんだろう」


「……」


「でもヴェンデルがいた。先代に勝るとも劣らない実力を持ち、夫婦というシルヴィアに最も近しいであろう男が先代の騎士団に所属していた。正しく適任だった。その事に周りが、そしてあんた自身が賛成だったのか反対だったのかは分からないが今ここに騎士団長ヴェンデルがいる以上は無事に騎士団長となる事を選んだんだろうな」


「……」


「だがあんたは“白昼夢”への復讐を遂げようと何時死ぬかも分からないこの場に向かい続けた。悪い事とは思っちゃいないし、むしろあんたのその信念は賞賛に値すると思う。だが、それで死なれちゃ困るのがヴェンデルを騎士団長にした連中だ。幸いにもヴェンデルには息子がいたから、最悪の場合に備える事は出来る。が、それでも最悪は最悪だ。あんたを死なせる事はかなりの損害に繋がる筈、だからあんたをここから遠ざけて絶対に死なない様に手を尽くした。……でもその時にはもはやその必要は無かったんじゃないか?」


「……違う」


「どっかで復讐は二の次になってたんじゃないか? 騎士団長になってから命を捨てる様な真似をしたくは無かったんじゃないか?」


「……それは」


 違う、そう口に出そうとしても舌が空回り、吐き出されるのはただの吐息ばかり。これは限界を超えたせいだ。そう自分に言い聞かせる度に呼吸は浅く、多くなっていく。

 これを恐怖と認める訳にはいかない。認めてしまえば今まで何の為に生きてきたのかが分からなくなってしまう。淡々と“独り言”を重ねる誰かの声を聞く度にそんな根拠のない考えが強くなる。


「――別に責めている訳じゃ無い。さっきも言った通り私はあんたの信念に敬意を表してすらいる。誰もがそう思うだろう。それでもあんたを悪し様に罵倒する事が出来る奴はあんたの事が気に食わない奴か、……あんた自身しかいない。もしあんたが私の“声”を聞いて後悔や罪悪感、恐怖といった感情を抱いたなら、それは自分に後ろめたい事があるとおもっているから」


 痛みでこの場から動けないヴェンデルは誰か、いや――目の前の少女の話から逃げる事が出来ない。だが、


「……違う」


 そう、違うのだ。今までヴェンデルは目を背けていた。もうとっくに動ける体を限界を超えた副作用による痛みで動けないと偽って、目の前の少女を誰か等と呼び少女の独り言を聞くに値しないものと偽って、己の“白昼夢”に向ける復讐心すらも偽って。


「あんたが死を恐れる原因となったのは騎士団長の権力を失いたくなかったから?」


「……それは、いや……そうなのかも、知れんな。儂は――」


「違うな。あんたは権力欲で死を恐れる様な爺さんじゃない。それもただの言い訳だろう。……人は死にかけるとポロッと本音を口にしてしまうらしいぞ?」


 一拍。


「あんたが死を恐れ、復讐心を薄れさせた本当の原因は、あんたの息子や孫、あんたの家族だ」


 死にかけると本音を零してしまう。そう言われ、ヴェンデルは先程無意識に口走った言葉を思い出した。『……俺は、もう誰も……失いたく、など』これがヴェンデルの本心だとするならば。


「あんたが今恐怖を覚えているなら、それは自分の家族が己の敵討ちの足枷となっている事を自覚する事への恐怖だろう。自覚してしまえば、本気で仇を取る為に家族を切り捨てなければいけなくなるからだ。……重ねて言うがこれはただの小娘の独り言でしかない、だが、少しでも合っていれば、顔を上げてくれないか?」


 自覚してしまえばなんて事は無い。己の心のなんと単純な事だろうか、そう思いヴェンデルは己の胸中を余す事無く当てた少女を見上げる。動かないと思い込んでいた体は呆気無く動き、ヴェンデルは暗闇の中ランタンを片手に佇む少女をその目に写す。


「……そうか、何よりだ。改めて、私はクレハと言う。ヴェンデル・ファルカトラ、守るべきものを切り捨てるのがあんたにとって苦痛となる、それが怖かったんだろうが……いつまでも家族を守るべきものとして認識する前に、少しだけ目を凝らしてみな」


 クレハがランタンを持った手で己の背後を指し示す。立ち上がったヴェンデルはランタンが照らす先、無限に続くと思われる暗闇に目を向け、そしてヴェンデルは見た。

 己の孫が、“白昼夢”を刺し貫く光景を。



◇◇◇◇◇



(さて、どうしよう)


 サカマキに蹴り飛ばされたノービス。どうしようとは思ったものの空を飛ぶ事など出来ないノービスに訪れる結果は一つしか無い訳で。幸いサカマキも地面を移動するモンスターの群れに向かって蹴り飛ばしてくれた気がするので、インベントリ内の死体を足場にして微調整を繰り返せば恐らくは群れの元へといけるだろう。と思ったが先程死体を全部使い切ったはずなので足場はいつか何かに使えるだろうと取っておいた“天鈴山”の麓に点在していた岩で代用するべきだろう。

 何故先程から確定的な事が言えてないのかといえば。


(やはりというか、真っ暗よね)


 “白昼夢”の結界内に進入したノービスの視界が黒く染まり、既に何も認識出来ていない為だ。若干のタイムラグこそあったものの即座に視覚を封じられた為に方向感覚すら僅かに狂い、今のノービスが分かるのは未だ落下中という事だけ。あとは無限に続くのではと錯覚させられる程の黒が広がるばかりだ。

 であるが、幾ら物理的に光を遮断した訳じゃないただの幻だとしても、それは闇には変わりない。なればこそスズが教えてくれた“残照”を今使うべきだろう。


「――残されし陽はここに在り。殿を担う陽光は、炎を灯し、大地を照らす。最期の種火はここに在り。受け継ぐ紅き篝火は、光を宿し、闇を焼く。残照よ、ここに在れ、渦巻く闇を照らし、掃え。【掃討の残照】」


 シード・オブ・ユグドラシルにおいて詠唱とは単なる魔法発動の為のトリガー以上の役割を持っている。己の内に眠る不明瞭なMPを現象として確立させる為に必要な言葉はその現象の名前一言だけで構わない。

 例えば「火の玉を作り出し、相手にぶつけてダメージを与える」魔法であれば一定量のMPと『ファイアーボール』の一言でその通りに魔法は作られる。

 一行で済むこれらの例外として、儀式魔法とマジックアイテムの能力開放が挙げられる。

 今回該当するのはマジックアイテムの能力開放、これは一部を除きマジックアイテム自身が持つMPを使用して能力を行使する為、普通に魔法を使う感覚で単純化された一言を言うだけではそのMPを確立させ切れず現象が崩れてしまう。より長く、より複雑にトリガーを作り発動させなければ不発に終わるのがマジックアイテムの魔法だ。

 とは言えやはりそれらにも例外はあり、影響力は低めで使い捨てだが量産性が高く一瞬で使用出来る物や、持ち主のMPで代用し、その分詠唱が簡略化されるといったマジックアイテムも中にはあり、前者は一般にスクロールという名で呼ばれている。

 

 話を戻し、詠唱の長さや複雑さを鍵で例えるならば、普通の魔法は南京錠、儀式魔法やマジックアイテムの能力開放は金庫の様な物である。複雑であればあるほど詠唱は長くなるが、それに応じて内包する魔法の強さは強大になっていく。

 スズから教えてもらった詠唱を唱え、ノービスはその時の事をぼんやりと思い出す。




 ――……これが詠唱? 何か長い気が……。


『当たり前だっつーの。陽光ってのは闇を問答無用で祓う最高クラスの正の力なんだ、その光が世界から去る間際に紅蓮の陽光で負の力を一掃する“残照”の力をそのまま溶かし込んだのがコイツだ。その現象を丸々引っ張り出す手間としちゃぁ、むしろ短い方だと思うがね』


 ――取り敢えずこっちの太陽が光を出す以上の力がある事は分かったけど……。


『……なぁノービス、何が負なんだと思う?』


 ――……え?


『この世界には正の存在と負の存在がいる。それらは基本的に過度に増え過ぎない様にバランスを保ってそこにいる。光と影がある様に、昼と夜がある様に、男と女がいる様に、太陽と月がある様に。であればプラスとマイナスは、何を意味しているんだろうな?』


 ――……。


『まぁ、分からんわな。変なこと聞いちまったが、頭の片隅にでもしまっといてくれ。さーて、教える事も教えたしお目覚めの時間だ』


 ――え、ちょ、


『また会おうぜ、ノービス』




 あの忠告は一体なんだったのか、どんどんノービスでは消化し切れない事が増えていくが少なくとも今考える事ではないだろう、そう強引に思考を切り上げたノービスは目を閉じる。


 数瞬後、瞼越しに明るい光が眼を刺激する感覚を受け、ノービスは目を開けた。


「――ぁ」


 何処までも続くと思われた見渡す限りの暗闇はとうに消え失せ、“天鈴山”を紅く照らす夕日の如き残照が世界を包んでいた。先程まで星空の見える夜だったのを、時間制限付きとはいえここまで変えてしまうのなら、あぁ、確かにあの程度の詠唱など労力の内にも入らないだろう。

 未だに落下を続けるノービスの眼下には今正に“白昼夢”と相対するトリスの姿があった。そしてそのトリスの元へ向かおうとするモンスターの群れ、ノービスがかなり数を減らせてたのか当初と比べれば半分以下にまでその数が減っているものの、それでも尚数の暴力として機能し得る群れ。


「いた――」


 トリスへと向かうモンスターを余さず止める為、ノービスはインベントリから取り出した手頃な岩を足蹴に微調整を繰り返す。が、最初にサカマキが丁度今も移動する群れの行く手を阻む位置に蹴り飛ばしてくれた為に位置調節の回数は4~5回で済んだ。……サカマキはどうやって群れの位置を捕捉したのだろうか? 恐らく視界に直接作用していると思われるあの暗闇ではどれだけ目を凝らしても何かを見つける事など不可能だと思うのだが。


 長い落下もこれで終わり、ノービスは衝撃に備え少しでもダメージを減らせる様に足を伸ばしてバネ代わりにしようとするが、その必要は無かった。片方の手に持った“天聖鈴の細剣”から溢れ出る金の粒子がノービスを纏い、――そのままクレーターが出来んばかりの勢いで地面に激突する。

 大量の砂塵が宙を舞い、夕日が照らす“天鈴山”に吹く風が黄金色の粒子と共に塵を大空へと運ぶ。


「――これ以上先へは行かせない。絶対に――」


 晴れた狂気の暗闇は、群れに正常な思考回路を取り戻させた。そして再び理解する。目の前の敵を殺さねばならないと。優先順位は切り替わり、敵対の対象は群れの敵愾心を勝ち取ったノービスただ一人。


(サカマキもクレハも用事があるようだったから、さっきみたいな助けはもう入らない。けど、えぇ、そうね。やりましょう、最低限じゃなく、最大限の仕事をして、それでトリスが安心して戦える様に――)


「――ここで食い止める!」


 先ほどの様なヘマはもうしない、そう宣言したノービスは己が殲滅すべき敵を睥睨する。一度失敗した事でノービスの決意は固く、強い物となった。

 一拍をおいて押し寄せるモンスターの群れを睨み付け、ノービスは背後で戦っているであろうトリスへと声を掛ける。


「頑張って、私も頑張るから。……幸運を」


 それは調整された幸運を持つ者からの些細なエール。例えこの声が届かなかったとしても、ノービスは構わない。己の幸運の、ほんの少しだけでも分け与えられたなら。


 思考を止め、ノービスはレイピアとスティレットの異なる細剣を構える。共に戦う者の為に。



◇◇◇◇◇



 剣が皮を突き破り、筋繊維を引きちぎる。普通であれば致命傷であるそれを意に介す事無く“白昼夢”は己に剣を突き立てたトリス・ファルカトラに喰らいつく。

 するりと躱され、再び剣によって切り付けられる。


 そうでなくては。


『――■■■』


 “白昼夢”は己が高揚しているのを感じた。トリスも“白昼夢”の感じるものを悟ったのか、攻撃が更に激化する。

 あぁ、あぁ、心地よい。トリスの攻撃はまだ致命傷には至らない。ならば、もっと、この高揚を感じていたい。お前には分かるか? 分からないかもしれないな。私は私が異端であると知っている。だからこそ、こうまでして必死に殺そうとするのだろう?

 シルヴィアもヴェンデルも、そしてトリス、お前もそうなのだろう? 恐怖を退け、何度でも己が体に刃を突き立てる英雄をこそ、私は求めていたのだ。


『■■■■■』


 来い、来るといい。果たしてお前が突き立てる刃は私の命に届くだろうか? 試してみるがいい。


「随分と楽しそうだな」


 トリスの困惑が声を通して手に取る様に分かる。こちらの意思を伝えられない事がこんなにももどかしいとは思わなかった。幻影ではいけない。最早トリスに不安定な幻など届かない。

 尤も、仮に話す事が出来たとしても思考力を削ぐ為のものと受け取られるかもしれない。


「楽しめるぐらい余裕って事かよ」


 いや、それは違う。私は事ここに至ってもまだトリスを侮るつもりは無い。トリスが強くなり、私が弱くなったからこそここまで殺し“合える”のだ。あの時、あの森でならお前を容易く葬れた、……そう私が後悔してしまう程お前は強い。

 私はな、楽しいのだ。この闘争も、この後悔さえも。私が対等に戦えている今を楽しんでいるのだ。


『■■■■■』


 例え言葉が分からなくても、私が感じる感情の昂り、そのほんの少しでも届いてくれたらトリスはこの戦いに高揚を覚えてくれるだろうか。


「……分っかんねぇよ」


 トリスの振るう剣が“白昼夢”の目を正確に狙う。後ろに飛んで躱すが代わりに切り裂かれた黒い体毛が宙を舞う。

 剣を振り切った隙を狙い“白昼夢”が飛び掛るが振り切った勢いに逆らわずやや大げさに、まるで踊る様にトリスが回避する。先程からこの繰り返し、稀にトリスの剣が“白昼夢”の体を捉える事があるが“白昼夢”はそれに何の痛痒も感じてはいない。

 傍目から見れば両者決め手に欠けると思われるだろうが、今この瞬間もトリスの肉体的ステータスは上昇し続けている。一時的とはいえトリスのステータスが“白昼夢”のそれを上回るのは時間の問題である。


「何でそこまで」


 本来なら絶対に勝つことが出来ない存在である固有種。その一柱と対等に戦えているという現状にほんの少しだけ、ピンと張った緊張のが緩むのをトリスは感じた。

 だからだろう、言葉が通じないと分かっている筈なのに、こんな事を口走ったのは。


「自分の生に無頓着でいられるんだ」


 口に出して直ぐに、馬鹿な事を聞いたと言わんばかりに顔を歪め、苛烈な攻撃を再開した。

 そんなトリスの姿に“白昼夢”は一瞬呆然とし、前足に走る痛みによって正気を取り戻す。


 なぜ急に? 意識を逸らす為? いや、そのような小細工を仕掛ける様な人間ではない。であれば……本心から?

 不思議な事を言うものだ。私はただ楽しみたいだけ、己の命を簡単に捨てる様な馬鹿では無い。


『……』


 いや、そういう事を言いたい訳では無いのだろうな。いずれにせよ私の言う事はトリスには通じない。口を動かすだけ無駄だろう。


「あぁ、そうかよ……ッ」


 トリスの剣速は加速度的に上昇していき、“白昼夢”が回避できない攻撃も多くなっていった。

 次第に“白昼夢”の体には大小様々な傷が付き、トリスは徐々に鈍くなっていく“白昼夢”の攻撃を完全に避ける事が出来た。このまま行けばトリスの勝利は確定的であった。


 だが、これで終わる様なモンスターであれば固有種などと呼ばれたりはしない。


 この戦いを終わらせる為にトリスは“白昼夢”の懐へと飛び込み――


『■■■■■■■――――――!!!!!』


 ――至近距離から“白昼夢”の咆哮を余す事無く喰らってしまった。


「ぁ――」


 爆発にも似た固有種の咆哮は物理的衝撃を伴いトリスに襲い掛かる。枯れ枝のように吹き飛ばされたトリスは空中で体勢を立て直し両の足で地面を踏みしめる。

 空中で体勢を立て直せた事でトリスは己の三半規管が無事である事を悟る。念の為右耳に触れてみるが出血等は無く、鼓膜も破れてはいないようだった。


 安堵の吐息を殺し、トリスは“白昼夢”の姿を確認した。

 先程まで漆黒の体毛を持ち、蒼い眼をしていた巨狼の姿だった“白昼夢”、その姿は大きく変わり、黒の体毛の先から細やかな純白の毛が伸び、大きな爪牙に覆いかぶさる様にして剣にも見える無機質な刃が重なる。

 尾はたなびく白毛により“白昼夢”の体躯とほぼ同等まで伸び、その双眸は紅と蒼によって彩られトリスを見詰めていた。


 ぞくり。


 己の背筋に怖気が這い寄るのを感じながら、トリスは右手に持った剣を握り締める。

 ふと、口角が吊り上がっているのを感じた。笑っていたのだろうか、この状況で?


(は、楽しいってか? これは“白昼夢”に上から物言える立場じゃねぇなぁ)


 いいだろう。お前が本気を出すと言うのなら俺はその全てを超えてやる。

 さぁ、最終局面だ。



◇◇◇◇◇



 老いた英傑は立ち上がる。まだ、出来る事があると。


 一度心を打ち砕かれ、それでも尚砕かれずにいた己の相棒を握り締め、立ち上がる。



◇◇◇◇◇

《ざっくり分かるかもしれない詠唱の種類》

・「金属から金属製の球を作り出す」が魔法がもたらす現象として、使用する道具を詠唱、作った際の疲労をMP消費とする。

・通常魔法は「自分でやすりなどを使い普通に球を完成させる」疲労は作った球の大きさに比例する。

・マジックアイテムは「機械などを使用して全自動で作らせる」本人の疲労は一切無いが作成時に専用のプログラムを組み込む必要がある。

・儀式魔法は「大人数で通常よりも遥かに大きい球を作る」複雑な道具などは必要とせず、疲労も等分となるが足並みを揃えるのが一番大変。

・大体こんな感じ。ますます分からなくなってたらごめんなさい。

◇◇◇◇◇

急激な路線変更により次回予告が当てにならなくなって来ました。予告できてないじゃん……。

でもやる。

次回、決着。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ