第23話 《白昼夢⑬》月下、開戦の狼煙
23話目です。
「おいサカマキ」
「げ」
「げ、じゃ無いんだよ。手間取らせやがって」
「こうなると思ったから逃げてたんだよ。ま、しゃあない」
「やっと話を聞く気に――」
「あばよ、とっつぁん!」
「させると思うか?」
「な!? 瞬間的に俺の逃走経路を見抜き即座に拘束してきた、だと!?」
「こっちでどれだけお前の我侭に振り回されてきたと思ってる。それくらい分かるわ」
「くっ、確かに俺がお前の事を見くびっていたのは認めよう。ですがクレハさん? 俺を地面に押し付けて捻り上げた左腕に徐々に力を入れて一体何をしてらっしゃるんですかね?」
「当ててんのよ」
「え、何を? ――あ、待って! 確かに今の発言は色々とモラル的に問題があったかもしれないいやあった! しかし、しかしだ! 人の好みは千差万別と言うだろう!? 十人中十人が巨乳好きという事はありえるだろうかいやありえない! そう、この世には貧乳こそを愛する人もいる! そもそもだ! 貧乳を“貧しい乳”と書くのは如何な物かと俺は思うね! 貧乳の女性に些か失礼ではないかと! この字面だけで自身にコンプレックスを抱いている貧乳の女性に俺は言いたい! 気にする必要は無いと! 胸を張って歩けと! 貧乳は希少価値! 貧乳はステータス! そう、つまりはクレハ、そういう事だ!」
「……」
「待って待って待って、無言で力強めるの止めよう? 俺の腕がサクリスタンみたいになってない? そろそろヤバくなストップストップストップ! 人体の関節はそれ以上曲がらなあ゛ッ」
◇◇◇◇◇
「左腕持ってかれたァ……」
「アホな事言ってるからだ」
王都近郊の森林フィールドに二人のプレイヤーが顔を合わせていた。サカマキとクレハだ。
出会い頭の関節技を極められたサカマキは、HPポーションを飲み干しながらクレハに今日まで姿を隠す事になった経緯を吐く。
「……なるほどな? お前が頑なに私と、というか他のプレイヤーとの接触を避けていたのはそれが原因か。“白昼夢 デイドリーム”とやらの情報が漏れれば自分の利益を優先する奴が必ず出てくる。情報を独占し、他のプレイヤーに知られる前に倒してしまおうと、お前はそう考えた訳だ」
「だいたいそんな感じだよ」
クレハを避けていた理由の一部に出会ったら絶対に関節技を極めて来るだろうと予感していたからというのもあるが、クレハ本人には言わない。
(何でか知らんがクレハの関節技って《エスケープ》で逃げらんねぇんだよな……。なんかのスキルだと思うが、訳分からん)
「しかしそれにしたっておかしい。討伐日まで潜伏しておきたいのなら掲示板に来たのは杜撰過ぎやしないか? 動かないストーカーとか言われるかふぇいんにバレたら一瞬で居場所を特定されるって、お前なら分かってただろ?」
「あぁ、それに関しては理由は二つある。俺が王都にいるという情報を不特定多数に拡散しつつクレハと秘密裏に合う事が一つ」
「……今度は何をやらかす気だ」
「今は言えんなぁ? まぁ、首を長くして待ってろよ」
「……はぁ、もういい。お前が何を企んでようと私はお前についていくさ」
「お? 嬉しい事言ってくれるね。それでこそ“黒死の黒猫”だ」
「うるさい“叛逆者”、謀反するぞ。……で? 理由のもう一つは?」
「んー、こっちはもっと簡単でな? 単純にノービスに力を貸してやりたかったんだよ」
「ノービス、……あぁ、あの異常なまでにえげつない作り込みした顔の女か。サカマキが一方的に迷惑を掛けた」
「それについては謝ったからノーカンだ。にしても、えげつない作り込みか。……んー」
クレハには言うべきか言わざるべきか、少しの間逡巡し、サカマキは後者を選ぶ。
「あぁ、力を貸したいってのが『トリスに適した職業一覧』とやらに繋がるのか」
「げ」
どうやらノービスはクレハに書置きを見せていたらしい。どうりで予定より早く見つかった訳だと、サカマキは納得した。
「しかし、お前が他人に手を貸すなんて珍しい事もあるもんだ」
「おいおい、俺だって人助けぐらいするぜ?」
「どうだか……。で? 結局お前はユニーククエストからは中退したのか?」
「まさか。せっかくのユニークなんだぜ? 参加しない手は無いっての」
「だろうな。でもさ、さっきの話を聞く限りXデーは満月の夜だろう? それってさ――」
クレハは天を仰ぎ見る。
塗り潰されたかの様な黒い空に浮かぶ物を確認する為に。
「――今日じゃね?」
――それは確かに満月であった。
「今日だなぁ」
「いや、今日だなぁじゃないだろ」
「まぁ心配すんなよ。俺らの出番は直ぐに来る。それまではノービスの活躍でも見てようぜ」
「この森から“天鈴山”まで移動すんの面倒なんだが……」
「ついて来てくれるんだろ?」
「……だな」
月明かりに照らされた森の中、二人の人影は夜空を駆ける。
◇◇◇◇◇
満月の夜がやってきた。
今日ばかりは、と医者に頼み込み一条双葉がノービスとしてログインする際シード・オブ・ユグドラシル内の時間が夜になるようにログイン時間を調整させて貰った。
ログインしたノービスが最初に向かうのは貴族街へと続く通用門。この一週間ノービスの話し相手となってくれた彼は、やはりそこにいた。
「こんばんは、アルバ」
「おや、やはり貴女でしたか。こんばんは」
「一応挨拶くらいはしておこうって思ってね。行って来るわ」
「貴女も律儀ですね。……騎士団長様は、ヴェンデルは結局今日に至るまで過去の事はお話にならなかった様で」
「えぇ、あれから何度か会ってそれとなく聞いてみたんだけどね。「儂から言う事は何も無い」ですって」
「……やっぱり、か。ノービスさん、貴女に渡したい物があります」
何かを小声で呟いた後、アルバは二本の剣を取り出した。……この世界の住民もストレージを使えるのだろうか。
さておきアルバが取り出した二本の剣、両方ともノービスにとっては比較的身に覚えのある物だった。
「……細剣?」
「はい。こちらは銘を“残照の細剣”と言い、私が全盛期の相棒の内の一振りとして愛用していた物です」
相棒の内の一振り、と。流石は千刃、この時点で戦闘時に多数の武器を使用していた事が伺える。
全長約35センチ程に及ぶそれは普段ノービスが扱う様なレイピアの様な細剣とは違い、両側に刃が付いておらず刺突目的で設計された細剣。所謂スティレットと呼ばれる物だ。
穿鉄の細剣同様本体に華美な装飾は施されてはいない。しかし、刀身には夕暮れの如き光が点り、ってこれ魔法武器では?
しかしノービスにとってそれは些末な事。“残照の細剣”もかなりの業物なのだろうと素人目にも察する事が出来たが、もう片方の細剣はそれを遥かに上回る。
「アルバ、これ……」
「もう片方の細剣の銘は“天聖鈴の細剣”。――かの先代騎士団長の愛剣です」
形状としては、先程の“残照の細剣”とは違いクラシカルレイピアの様に逆に過度な装飾が施されているものの、鍔から曲線を描く様にして伸びる銀飾線が護拳を形作り、この細剣がただの美術品等ではないという事を悟らせる。
先代騎士団長なる人物がどれ程の者なのかは知らないが、この細剣を見る限り相当な細剣の使い手なのだろうと察せられた。
しかし、だ。
「何でまた……、大切な物じゃないの?」
「当たり前でしょう」
ノービスの当然の疑問をアルバはあっさりと切って捨てた。
「“残照の細剣”は私のパートナーですし“天聖鈴の細剣”に至っては国宝級です。大切に決まっているでしょう」
何故アルバがその国宝級の武器を持っているのかと疑問に思うよりも早く、「ですから」とアルバは続ける。
「生きて返して下さい。必ずです」
その言葉を聴いてノービスは自身の口元に微笑が浮かぶのを感じた。何てことは無い、アルバはノービスを応援してくれていたのだ。
「死んでも蘇る身体ではあるけれど、生きる理由が出来たわね」
「……使われなくなった武器ほど己の存在意義を見失った物はありません、出来る事なら今夜だけでも武器として使ってあげて下さい」
「えぇ」
アルバの思いを聞き届け、ノービスはヴェンデルとトリスに会う為に貴族街へと足を踏み入れ――
「――ノービス!」
――ようとしたノービスを止める声。貴族街の方向から走ってくるトリスの物だ。声のした方向に体を向けると焦燥を顔に浮かべたトリスと目が合った。
一体どうしたと言うのだろう。
「どうしたのトリス、そんなに慌てて――」
「爺、ヴェンデルがいない!」
ノービスの言葉を遮って告げられたトリスの焦燥の原因。幾つかの可能性が脳裏を過ぎるが、断定には至らない。
「騎士団長だから忙しいんじゃない?」
「その様な事はありません」
ノービスが提示した、一番ありえそうな選択肢を真っ先に否定したのはアルバだった。
「何故?」
「騎士団長はこの時期になるとモンスター討伐という名目で遠征に出されます。これは貴重な戦力をみすみす死なせたくないという上層部の意思であり、実際ヴェンデル様がおらずとも“白昼夢”が満月が昇っている最中は“天鈴山”から動かない事が分かっていたからこそ遠征を命じる事が出来ました。しかし今回ある要因によりヴェンデル様には遠征の命が下る事はありませんでした」
純粋な疑問をぶつけたノービスにアルバは理由をつらつらと並べ、「であるならば」と続ける。
「今も尚“白昼夢”を己の手で葬り去りたいと考えているヴェンデル様が向かう場所はただ一つ」
ノービスは一番当たって欲しくない可能性が的中した事に思わず顔を顰めて言った。
「……私達が行くよりもずっと早く“天鈴山”に?」
「恐らくは」
溜息を吐いたノービスはこれからどうするかトリスと話し合おうと振り返ると顔を青褪めさせたトリスと目が合った。いや、トリスの方はノービスに目を合わせてはいない。茫然自失としながらも焦燥が増した様に思える。
「爺が、危ない……。親父と同じ様に、あいつに――」
その言葉でノービスは自身の認識を改めた。トリスにとって“白昼夢 デイドリーム”とは親の仇である以上に親を目の前で殺されたトラウマそのものなのだ。
今再び“白昼夢”に家族を殺されかけているというのに「これからどうするか」等と悠長な事は言ってられない。
(まぁ、一つしかないわよね。選択肢は)
ここから先の目標を手早く定めたノービスはトリスの両肩を掴み視線を強引に合わせる。
「トリス、貴方の目的は何だったの? “白昼夢 デイドリーム”を倒す事でしょう?」
「……あぁ、でも……」
「思い出しなさい、貴方は何で“白昼夢”を倒そうと思ったの?」
「それは、……親父があいつに殺されたから」
「そう、あなたの父親を殺した“白昼夢”を倒すために貴方は頑張ってきたんでしょう? そして、“白昼夢”は今貴方の祖父であるヴェンデルまで殺そうとしているわ。貴方はこれを見過ごせる?」
「――ッ!?」
「勿論ヴェンデルは強いわ、そう簡単に殺される訳が無い。でも“白昼夢”を倒せるかどうかは分からない」
「……あぁ」
「そうだとしても、私達が“天鈴山”に行けば何かが変わるかもしれない。ただ只管に悪夢から逃げていたあの時とは違う。貴方は“白昼夢”に届き得る力がある」
「あぁ」
「行きましょうトリス、“天鈴山”の頂へ!」
「あぁ!」
士気は上々、準備は万全。向かうは“天鈴山”の山頂。
ノービスとトリスは一週間前とは比べ物にならない速度で王都の城門へと向かっていった。
「……やっぱり、行ったのか」
残されたアルバは通用門に背中を預け、そう呟いた。
アルバの頭に浮かぶのはかつての戦友の姿。半ば予想できていた事とは言え実際に起こってしまうと衝撃が心中を支配した。
――お前があいつを倒す事を望んでたって言うのにな。
自嘲気味に苦笑したアルバの思考は先程のノービスの言葉に移り変わっていく。
(まるで先代の口上だったな)
かつてアルバが騎士として戦友のヴェンデルと共に戦場を駆け巡っていた頃、先代騎士団長であるシルヴィアから似た様な戦の前口上を聞いた事があった。
(お前達は無力ではない、何も為せないまま終わる等という事はありえない。お前達が持つその力で己の為すべき事を為せ、だったか)
やはり彼女に“天聖鈴の細剣”を貸した選択は、間違いでは無かったのだ。
世界には意思を持ち、使い手を選ぶ剣が存在する。それらの剣は得てして魔力をその身に宿し、性能的には魔道具に分類される。宿した魔力が正の魔力であれば聖剣、負の魔力であれば魔剣と呼ばれるのだが、“天聖鈴の細剣”は名前に聖が入っている事から分かる様に聖剣である。ただの業物程度では国宝級とはなり得ない。
“天聖鈴の細剣”がノービスを主として定めるかどうかは五分五分だったが、あの様子ならばノービスを主として定めたのだろう。彼もノービスの仕草に感じ入る物があったのかも知れない。
(聖剣よ、願わくば共に戦う者達に神聖なる加護を)
もはやノービス達は視界から消え、“天鈴山”へと向かったのだろうノービス達にその祈りが届く事は無い。それでもアルバは願わずにはいられなかった。
◇◇◇◇◇
“天鈴山”の麓まで来たノービスは周囲の光景に違和感を覚えた。
(モンスターが少ない……?)
一週間前から今日に至るまで“天鈴山”を狩場にし続けて来たノービスが気付けた些細な違和感。サンドゴーレムは遠目からの判断が困難なので今は置いておくとしてもスタブボアの数が若干少ない様に思える。
しかし、それならそれで好都合。ノービス達は麓まで来た勢いをそのままに【死神の接触】を最大限使用しながら走っていく。
ノービスのステータスは転職直後から大きく変貌を遂げた。
◇――◇――◇――◇
PN:ノービス
LV:48
職業:星屑細剣士
状態:押し付けがましい神の加護
HP:210/210
MP:210/210
STR:0
CON:0
DEX:0
AGI:0(+20+4)
INT:0
MIN:0
LUK:830(+100+20+100)
スキル:所有数12
【投擲ⅡLV.11】
【幸運上昇LV.10】
【強運LV.10】
【危険感知LV.8】
【死神の接触LV.9】
【死霊術LV.10】
【鑑定LV.10】
【テイム:――LV.1】
【細剣術LV.6】
【健脚LV.10】
【韋駄天Lv2】
【ファルカトラ流細剣術LV.7】
【――――】
【――――】
アビリティ:【白霧の導き】【流星の瞬き】
武器:穿孔鉄の細剣・ディアーホーンスリングショット
上半身:白鉄の鎖帷子・クロード鋼の部分鎧・砂塵核の籠手
下半身:白鉄糸のスカート・クロード鋼の脚甲
装飾:砂塵のスカーフ・迷彩トカゲの外套・刺突の指輪・流星雨のペンダント・黄金色のタリスマン
◇――◇――◇――◇
【強運LV.10】となったお陰で最終的な幸運の値が三倍、数値化すると(830+100+20+100)×3で3150になるというぶっ壊れ性能である。あほなのかと。
【健脚LV.10】で新たに現れたスキル【韋駄天】は悪辣な環境での更なる移動サポートに加え、AGIの割合上昇が付く。これが斥候とかならば重宝されるスキルなのだろうが、そこは残念ながらノービスである。殆ど変わらない。
現在は【健脚】と同じ移動サポートを主に使っているのでAGIの上昇は正直無くても良かったかもしれない。しかし山道を最短距離で全力疾走が出来ているのはこれらのスキルのお陰なので感謝はするべきだ。ちなみにトリスは何のスキルも使わずに山を登っている。
武器のディアーホーンスリングショットだが、これはノービスが工房連合に頼み込んで作って貰った物だ。STRが0でも扱える様に調整して貰ったのだが、その際に以前のオークディアーの樹液をゴムとして使えないかと提案してみた。
現実ではまず不可能だがここは剣と魔法のファンタジーな世界である。《抽出士》と《練成士》と《細工士》が合同開発を行い何とか実践に耐えうる物が完成した。
……開発途中で「他の樹液も試してみたい」と言われたが発端はノービスなので大人しくホワイトバーチディアーとアカシアディアーを狩りに行ったという事もあったが割愛。
“天鈴山”の中腹部からは麓のモンスター三種に加えて高速移動でインファイトしてくる“ナックルラビット”、岩の甲羅を持った“ロックタートル”の二種が存在するが生物である以上ノービスの脅威となるのは依然としてサンドゴーレムやグラヴァルゴーレムのみである。
スタミナ回復用にポーションを飲みながらノービスはトリスに尋ねる。
「んく……、けふ。……ねぇトリス、新しい戦い方は慣れた?」
「ん、あぁ。この一週間で慣らしたよ」
「さすがね」
「これが俺の武器だからな。是が非でも扱える様にはするさ」
流石、本当に流石だ。
肉親を失い、復讐に燃え、挫折を味わい、力を身につけた。まるで主人公の様ではないか。
騎士団長の孫で剣の天才、おまけにユニーククエストの重要人物。少々彼に世界の焦点が向き過ぎている。
もし主人公であればご都合主義の一つでも発揮して貰いたい所ではあるが、そう簡単には行くまい。
中腹部から頂上まで続く道からはうっすらと頂上の様子が窺い知る事が出来る。
天に立ち上る光の奔流、七色の光の波濤が入り混じる頂上。
そしてそれを覆い隠すかの如く、陽炎の様に歪んで見える空間。
――急いだ方が良さそうだ。
◇◇◇◇◇
狼は高揚していた、久々の闘争に。
狼にとって人間とは取るに足らない雑魚の様なものだった。
それも当たり前だろう。狼の爪を一度振るえばただの肉片に変わってしまう。
――つまらない。
それが、狼が常に感じているものだった。
それが何時からか期待に変わっていったのは、数年ぐらい前に出会ったある女が原因だ。
「――お前が“白昼夢”か?」
狼が住処とする山に訪れた有象無象の群れ。人間に呼ばれた恐らく自身の物であろう名前を呼ばれても尚興味など微塵も湧かなかった。
いつも通り、羽虫を払う様に殺してそれで終了。――その、筈だった。
爪を振るう。――回避され前足を切り付けられる。牙で喰らう。――潜られ喉を貫かれる。尾で払う。――尾を半ばから切り飛ばされた。
こちらの全ての攻撃は躱されて、あちらの全ての攻撃は当たってしまう。
着々とダメージが蓄積していく感覚に狼は焦り、苛立ち、昂ぶっていた。
――人とはこんなにも――
「穿てッ!」
リーダーの女の掛け声で有象無象、いや、人間達は狼に総攻撃を仕掛ける。
女はなおも先陣を駆け続ける。
――美しいものだったのか。
不意に理解する。
己を討つ事が出来るのは英雄足り得る人間だけだ。ならば私は英雄を定めよう、あの女が言った名を使って。
英雄足り得る者は再戦に来るように逃がし、ただの人間は喰らい己の力とする。
真に英雄と言える人間が私を殺しに来たその時は、全力で相手になろう。
それが礼儀であると、今はもう己の血肉と化した英雄から狼、“白昼夢 デイドリーム”は学んだ。
だから、あの日以降何度も自身に挑み、幾多もの敗北を積み重ね、ワタシを倒すに至った男に私は敬意を表そう。
しかし、喰らうのはまだ早い。少し待てば後二人の人間が来る。
彼らは英雄となっているだろうか? それとも私との戦いの中で英雄となるのだろうか?
どちらでも構わない。私に闘争をさせてくれるなら――
――受けて立とう。
《ユニーククエスト“流星の如く煌めいて”アクト4“月下、開戦の狼煙”スタート》
次回、戦闘開始。




