第18話 《白昼夢⑧》チンピラはそっとしておくべき。その一
頑張って書き上げましたが誤字脱字があればご報告をば。
ともあれ18話目です。
ノービス、いや双葉はシード・オブ・ユグドラシルについて幾つか調べていた事があった。
調べる切っ掛けとなったのは第二の街で別れる前にシェイカー達が言っていたユニークモンスターについて。今ではあの発言が今回の引き金となったのではないかと双葉はぼんやり訝しんでいるが、さておき。
インターネットからシード・オブ・ユグドラシルの攻略サイトを探し、ユニーク系統の異常なまでに少ない情報量に閉口した双葉だったが何とか情報をサルベージした結果ある証言に行き着いた。
すなわち、“正規の手順を踏めば、潤沢な資金と良性能の防具と少しのプレイヤースキルさえあれば勝てる”らしい。そりゃそうだろ。
何の確実性も無い上に詳細が何一つ書かれていないのは、ユニークモンスターの多様性によるものだろう。
攻略サイトも「これ以上の正確性が欲しいならまずユニークモンスターの情報を書いてからにしろ」と言うスタンスであった。その文のすぐ後に「正直情報量で言えばゲーム内の攻略スレの方見た方が早いぞ」と書かれているのを見て双葉は再び閉口するが、閑話休題。
この書き込みを見て双葉は一つ疑問に思った事がある。
――そもそも防具必要か?
ノービス自身も素っ頓狂な疑問だと思うが、実際問題防具の必要性を微塵も感じないのだ。
別に攻撃全部回避するから必要ないとか“当たらなければどうと言う事は無い”と言う事を言っているのではない。むしろノービスは逃走劇の時に垣間見た“白昼夢”の力を見て、相手が本気を出せば反撃すら許さずに噛み殺すくらいはやってのける様に思える。
その時に防具があったとして意味があるのだろうか? 半端な防御力であれば防具諸共噛み砕かれるだろうし、“白昼夢”の牙すら防ぐ程の防具を纏うならそもそも重量的にノービスが行動不能となる。
その前に金銭的にもそのレベルの鎧は無理がある。
結果的に確殺に特化してきたノービスだがお陰で殆どダメージを食らう事は無く、未だに初期装備で動けていた。
だから今更防具を改めてもなぁ、と言うのが双葉の所感である。
が、ヴェンデルに「その貧相な防具を新調して来い」と言われている以上何らかの意味はあるのかも知れない。単純に見苦しかった可能性も捨てきれない、と言うかあの時の台詞からしてそっちの方が有り得そうだったが。
と言うわけで場所は変わり、ノービスは王都平民街の一角“工房連合”まで来ていた。
途中まではかなりのプレイヤー達で賑わっていたが、“工房連合”に近づくにつれてプレイヤーは減り、代わりに作業服を着たNPCが徐々に増えていった。
余所者に向ける視線を向けられながらもノービスはアルバに教えて貰った鍛冶師のいる工房の向かっていく。鍛冶師の名はクロガネ、アルバが特に懇意にしている人物らしいが、「工房に入ってから真っ先に私の名を出してください。彼、最近機嫌悪いので」と言う言葉と件の工房に近づく度に増す周囲からの敵意が否応無くノービスの不安を駆り立てる。
暫く歩き、目的地に辿り着いたノービスは眼前の工房を見上げた。
火を扱う職業柄か、工房自体は他の家に比べ木の比重が少なく殆どが石やレンガで構成されており重厚な印象を受ける。屋根から伸びる煙突の上げる煙がクロガネなる鍛冶師の存在を証明していた。
(……ふぅ)
鉄の扉の前で深呼吸を一つ、ノービスは扉を開けた。
「すいませ」
「うるせぇ! とっとと帰りやがれ!」
おっとぉ……?
◇◇◇◇◇
アルバの名前を出す前に帰れと言われてしまった。これはノービスに言っているのか、ノービスでは無い誰かと勘違いして言っているのか、それともプレイヤー全員にこういっているのかは分からないが取り敢えず話は聞いて貰わねばなるまい。
「帰れっつてんのが聞こえねぇのか!」
「待って、アルバって名前に聞き覚えはある? 私はその人の紹介で来たのだけれど、誰かと間違えてない?」
「アルバぁ? ……何で異邦人のお前からあいつの名前が出てくるんだ」
何とか聞く耳持たない状態からは脱した様だ。
ノービスは、何故出会う住人がこちらの事を即座に異邦人と認識するのか疑問に思いながらもクロガネと思しき人物に詳しく事情を説明した。とある人物に装備を新調しろと言われた事、貴族街の門番をしていたアルバに何処で装備を新調するのがいいかと聞いたらここを紹介してくれた事。
ヴェンデルの名前は一先ず出さず、アルバに紹介されたという部分を強調して伝えた。
「……そうか、最近失礼な異邦人が工房連合に出入りしててよ、お前さんをそいつと勘違いしちまった。すまなかった」
「誤解が解けた様で良かったわ。私はノービス、今言った通り防具とちょっとした物を作って貰えないかと思って来たのだけれど」
「俺はお前の言う通りクロガネって言う一介の鍛冶師だ。にしてもアルバがここを勧めるとはなぁ」
クロガネはアルバがここにプレイヤーを案内した事、いや、それ以前にアルバがプレイヤーと交友関係を築いている事に驚いている様だった。
「アルバは昔この王国で騎士団長直属の騎士だったんだがよぉ、変な武器ばっかり依頼しに来たもんでな。まぁ、そん時の経験はまだ残ってるから大抵の要望に沿った物は作れるぜ」
「変な武器って、例えば?」
「鉄爪やら斬馬刀やらジャマダハルやらショーテルやら……」
「……騎士?」
「ついた異名が“千刃”だとよ」
どうやら彼も一般的な騎士とは言えなかったらしい。
(と言うかアルバって騎士だったのね。何で門番なんてしてたのかしら)
「さて、お前は防具が欲しいっつてたな。どんなのがいい?」
「取り敢えずは軽さ重視で急所を重点的に守る感じの部分鎧がいいわね。それ以外は……特に思いつかないわ」
「ぼんやりしてんなぁ。分かった、俺が幾つか質問していくから出来る限り正確に答えていってくれ」
それから幾つかの質問をノービスが答えていた時だった。……クロガネから話を聞いて、この可能性を危惧していなかったと言えば嘘になる。だが、ノービスもまさかこんなタイミング良く遭遇する訳が無いという楽観的な考えを持っていた。
ノービスを――正確にはサカマキに近しい人物を――探していたクレハとは違い、今回はノービス個人をターゲットにしている訳では無いのだし、と。
まぁ、ここまでくればお分かりだろう。
「相変わらずしけてやがんなぁ、ここはよぉ!」
クロガネの工房の鉄扉が蹴破られる。
いきなりの罵声と共に現れたのは頭髪を金に染め、ピアスを着けたチンピラ臭漂う大剣を背負った男だった。
クレハといい、エンカウントが早すぎないだろうか。
そんな事を考えていたノービスの視界に写る、怒りに顔を歪めたクロガネの姿。
「……俺の工房に何しに来やがった」
「テメェらの武器防具全部俺が貰ってやるよ、さっさと出せ」
「お前みたいな輩に渡す物なんぞ一つとしてありゃしねぇよ!」
「はぁ? NPC風情が粋がってんじゃねぇよ、カスみてぇな装備を俺が有効活用してやるっつってんだろうが、よ!」
沸点低すぎないかと思っていたノービスの目の前で工房の木棚が蹴り砕かれる。
今まで自然と蚊帳の外状態だったノービスも流石に止めるべきだろうとクロガネの前に出た。
(というか仮にも自分が身につける予定の装備をカスみたいなって……、いや、装備を全部よこせって言っていたわね、もしかして転売目的なのかしら。まぁ、最悪GMコールを使えば……あれ? GMコールってどうやれば良かったっけ? おっと)
「――その辺にしておきなさい」
クロガネを庇う様に立つノービスを男は睨み付けた。
「あ? んだてめぇ、邪魔すんじゃねぇよ」
「こちらの台詞よ、どう考えても貴方の方がクロガネの邪魔をしているじゃない」
「は? 誰だよクロガネって」
相手の名前も知らずに突っかかって来てたのかこいつ。
「貴方の行動に迷惑してる彼の名前よ、知らなかったの?」
「知るかよ、NPCの名前なんざ覚える価値もねぇよ! プレイヤーを優遇すんのが当たり前だろうが、おいクソジジイ! 分かったらとっととぶべら!?」
ノービスの頬を掠めて男の顔面に突き刺さり、強制的に男の言葉を遮った物の正体はクロガネが投擲した金鎚だった。……掠ったのだが。
「さっきから聞いてりゃ随分と上から目線で聞くに耐えねぇ暴言ばかり。随分と程度の低い教育を受けたんだなぁ、うちにゃぁ猿が扱える装備は置いちゃいねぇ! 分かったらとっとと出て行け!」
金鎚をもろに顔面に受けた男は何を言われたのか分からないという様な顔をしていたが、理解が追いつくと同時に金鎚の打撃以外の要因によって顔が紅く染まっていく。
「こ、んのクソジジイ! ぶっ殺して――」
「それ以上抜くなら私が相手になるわよ」
大剣を抜き放とうとした男の前に立ち、ノービスは言うが、即座に自分のミスを悟った。
(あー、「それ以上抜くならGMコールするわよ」の方が良かったかしらね? この言い方だと売り言葉に買い言葉で――)
「上等だ! まずはてめぇからだ!」
(ほらー!)
完全に選択肢を間違えたノービスは場の雰囲気的に、目の前に現れた決闘申請を受諾せざるを得ないのだった。
◇◇◇◇◇
ポジティブに考えよう、この戦闘で色々な問題点を洗い出すのだ。
「今更謝っても許してやらねぇぞ?」
「別に自分で決めた事にケチつけたりしないわよ」
ノービスと男――オルトロス――は戦闘準備を整え、5メートル程離れた場所で互いに武器を構えていた。
ちなみに決闘場所はクロガネの工房から出て直ぐの大通りである。
ちらほらと工房連合の方々がノービス達の決闘を眺めており、微妙にやりづらい。
『5』
相手の武器はツヴァイヘンダーと呼ばれる物であり、オルトロスはそれを肩で支えながら両手で持つという姿勢で決闘開始の合図を待っている。十中八九、突撃で接近して大上段からの振り下ろしを行うつもりなのだろう。横薙ぎの可能性も考慮に入れながら回避に専念すべきだろう。
『4』
こちらの攻撃手段は細剣、【死神の接触】、なけなしの体術、投擲。【死霊術】は他に敵がいる場合でないと使えないし【テイム】はそもそもパートナーがまだ見つかって無いので実質この四つが主な攻撃手段――あ、石落ちてねぇ。
『3』
前言撤回。こちらの攻撃手段は細剣、【死神の接触】、なけなしの体術の三つとなった。恐らく、というかほぼ確実にオルトロスのステータスはLUKを除きノービスの遥か上だろう。懐に潜り込んでしまえば【死神の接触】を使用できる。
『2』
となれば勝機はオルトロスが大技を使った直後になるだろう。その時まで喰らいつく。スタミナが尽きる前に。
『1』
一先ずは最初のオルトロスのアーツを回避する事が先決だ。
『DUEL START!』
「くたばれやぁ!」
決闘の開始と同時に飛び出したオルトロスはノービスの予想通り突撃で距離を詰めて大剣を振り下ろすタイプのアーツを使ってきた。
(予定通り左にずれてカウンターを――ッ!?)
大剣の攻撃範囲から逃れたノービスは【危険感知】の警鐘が未だに鳴り止まない事に気付き、大振りな回避を余儀なくされた。
アーツのシステムアシストによりオルトロスの大剣は地面に叩き付けられ、石畳の破片が辺りに飛び散った。
「……なるほど」
どうやら飛び散る石にも当たり判定があった様だ。
「それならそれで、好都合」
「はっ! びびってんのか!?」
「さぁて」
ノービスは微笑を顔に浮かべてオルトロスに向かって姿勢を低くして走っていく。
大剣を振り下ろす大技を使いたくなる様に。
Q.鉄扉って蹴破れんの?
A.クロガネ工房に限らずほぼ全ての工房の扉は両開きで尚且つ普通の扉程の大きさのウェスタンドアスタイルです。これは工房の内外を、資材を持つ等で両手が塞がった状態で行き来する事が多いために胴体で開けられるウェスタンドアスタイルが楽だという利便性が主な理由です。
取り敢えずSTRがそこそこあれば蹴破る事も可能です。蹴破るというか蹴り開けるというか。
次回、決着。




