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第2話 プレゼントも素直に受け取るべき。

2話目です。


 その日、始まりの街“イワン”は一人のプレイヤーの存在によって、確かにざわついていた。


「おい、見ろよ。あいつシェイカーだろ?」


「うわ、本当だ。ありゃ第一陣の“灰燼”じゃねぇか。何でこんな所にいるんだ?」


「トッププレイヤーの目を引く様な物がイワンにあったか?」


 始まりの街の大通りを黙々と歩く男の名はシェイカー。

 “灰燼”“戦場を掻き乱す者”等と言う異名を持つトッププレイヤーの一人である。

 そんな彼が何でまたこんな所に、という疑問と好奇心につき動かされ、シェイカーについて行くプレイヤーがかなりの人数に及んだ事から、彼がいかに注目されているかが分かると言う物だろう。


 やがてシェイカーが立ち止まったのは広場の噴水の前。

 ここは始まりの街付近のフィールドで死に戻ったプレイヤーが再び現れる場所で、同時にチュートリアルを終えた初心者が最初に足を踏み入れる場所でもある。

 シェイカーが立ち止まり、誰かを探す様に顔を動かしてから五分後、噴水前に一人の女性プレイヤーが現れる。


 PNプレイヤーネームはノービス、彼女の黒い瞳に黒い髪は日本人の特長だが非日常を味わいたい者からすれば些か地味だという事で、このゲームでは逆に珍しい髪と目の色。

 身体は、女性的な膨らみはあるがそれ以上に目を引く痩せた体型に色白の肌。

 流石に骨と皮の様だとまでは行かないが、押しただけで壊れてしまいそうな程繊細な身体はある種の美しささえ感じさせる。

 何故そんな身体に設定したのだろうと首を傾げた野次馬プレイヤーは最後に顔へと視線を動かし、絶句する。


 余りにも美しい。


 形のいい輪郭や微笑を浮かべる小振りの口元、細く長い睫毛の間から覗く淋しげに細められた眼は誰かを探す様に辺りに向けられている。

 細い身体と合わせ、薄幸の姫というイメージが強く印象づけられた。


 そんな彼女、ノービスはシェイカーを視界に収め、花が咲く様に笑った。


「あら、一葉――」


「――シェイカー、だよ。ノービス」


「あぁ、ごめんなさいねシェイカー、まだ慣れて無くて……」


「気にしないでくれ、誰にだって初めてはあるんだから。さて、これ以上は歩きながら話そうか、……にしても」


 シェイカーはノービスに近付きながら、周りのプレイヤーに極力聞こえ無い様に呟く。


「……外見、リアルのまんまで全然弄ってないんだね」


「こうでもしなきゃあなた私だって気付かなかったんじゃないの?」


 ふふ、と笑いながらこちらを見上げるノービスにシェイカーは、ただただ苦笑いを浮かべる。

 実際は彼女を探す方法は幾らでもあったのだが、楽しそうに笑ってくれるのなら何でも良いや、と。



◇◇◇◇◇



◇――◇――◇――◇


PN:ノービス

LV:1

職業:放浪者


HP:10/10

MP:10/10


STR:0

CON:0

DEX:0

AGI:0

INT:0

MIN:0

LUK:300(+10)


スキル:所有数5

【投擲LV.1】

【幸運上昇LV.1】

【気運LV.1】

【危機察知LV.1】

【死の接触LV.1】


アビリティ:【白霧の導き】


武器:初心者の細剣

上半身:放浪者のシャツ

下半身:放浪者のズボン

装飾:放浪者の外套


◇――◇――◇――◇


 これが双葉――ノービスのステータスであり、これを見た一葉――シェイカーは「うわ……」と呟いた。

 ノービスはちょっぴり傷ついた。


「……え、いや、まさか極振りして来るとは」


「そっちの方が面白いかなって」


 二人並んで始まりの街イワンを歩く姿は、さほど珍しい物でもないだろうに、プレイヤーからかなりの注目を浴びていた。

 シェイカーの知名度とノービスの美貌のせいではあるが、当の二人は気にも止めない。


「というか、こんなスキルってあったっけ?」


「能力値とか職業とか色々弄ってたら最初に選べるスキルが変わってたのよ。【○○上昇】シリーズは能力値の極振りで手に入るみたい。……【死の接触】は、よく分からないわ、本当に気付いたらあったから」


「あぁ、うん。まぁ、いっか。能力値は0のままだと現実の身体能力と一緒になるから色々分けて欲しかったけど、これからも幸運極振りで通すつもりなの?」


「えぇ、悪いけど、どうしようも無くなるまではこのスタイルで通してみる」


「なら、僕からは何も言わないでおくよ。とりあえず、後でこのゲームでの戦闘に慣れる為にフィールドに出ておこう」


 始まりの街イワンからは三箇所のフィールドに出られる。

 草原と森林と荒野の三種類でいずれのフィールドにもボスがおり、そのボスを倒すと次の街に進めるらしい。

 草原が一番出て来るモンスターのレベルが低い為、行くとしたら草原だろうか。


 そんなノービスの予想は外れる事無く、二人は草原へと向かって行った。



◇◇◇◇◇



 始まりの街イワンから続く草原で、ノービスは剣を振るっていた。

 ノービスの目の前には角の生えた白兎が一羽、牙をむき出しにして眼前の敵を見据えていた。

 本来なら草食獣である筈の兎が、肉食獣の如き牙と角を持っているという違和感は、ゲームだからこそ非日常の代名詞として正常に働く――所謂敵Mob、モンスターである。


 ノービスに向かって跳躍した角兎は、しかしノービスの持つ細剣によって弾き返される。

 草原に倒れた角兎は「ピキュ……」と言う声を残してノービスの経験値となった。


 パチパチという拍手の音。


「いやぁ、お疲れ様」


「ほんっとに、疲れた、わね。兎倒すのに、こんな時間掛かるなんて……」


「思った以上に体力無かったねぇ」


「病院暮らしがこんな所で祟るなんて思ってもみなかったわ」


「現実での身体能力なんてそんなもんさ。……剣はヘロヘロだったけど、石投げるのは妙に上手かったよね。DEX無いのに命中率概算80%超え」


 シェイカーが疑問の声を上げる。

 石を投げるにはSTR(腕力)とDEX(器用さ)の二種類の能力値で威力や命中力が決まる。【投擲】スキルがあればなお良し。

 ノービスは、【投擲】スキルこそある物の、肝心のSTRとDEXが0の筈で、何故軽く投げた石が殆どモンスターに的中するのか。


「チュートリアル中に色々調べたのだけどね、物を投げる時の角度が60度よりも上だと威力やら何やらがLUK(運)依存になるみたいね。60度以下だとSTRとDEX依存になるけど」


 そう言ってノービスは地面と水平に石を投げようとするが、投げられた石の軌道は先程の細剣の様にあっちへフラフラこっちへフラフラ。

 それを見たシェイカーは、言われて見ればと今まで彼女が石を下から放り投げていた事を思い出す。


「とまぁ、こんな具合でチュートリアルの時にスキルの使い勝手はあらかた調べたわ」


「へぇ、初心者だからと心配してたけどその様子なら問題なさそうだね、っと、メール来た。ちょっと失礼」


 シェイカーは話を中断させ、メニューを開いた。

 メールは半透明のウィンドウで表示される様だが、他人からは見えない様になっているらしく、少し暇になったノービスは自身の手を見つめていた。

 先程言った様に、自身のスキルとアビリティの効果はチュートリアルの段階で検証済みなのだが、不思議なスキルが一つだけあった。


 【投擲】は物を投げる時にある程度の補正がつくスキルで、スキルレベルが上がると精密度が高くなる。

 【幸運上昇】はステータスの幸運を恒久的に一定値プラスするスキルで、スキルレベルが上がると+10から、+20へとプラスされる値も上がる。

 【気運】は戦闘中三十秒間一定の割合分ステータスの幸運を上げるスキルで、スキルレベルが上がると上げられる割合分が一割から、二割、三割と上がっていく。

 【危機察知】は自分に当たる攻撃、または自分に悪意ある存在を警鐘アラートという形で知らせてくれるスキルで、スキルレベルが上がると気配がある程度掴めなくても知らせてくれる様になる。

 職業:放浪者のアビリティ【白霧の導き】は、戦闘中の被弾率減少、フィールドで道に迷わなくなる、という二つの効果がある事が分かっている。

 問題は……とノービスが考え込んだ時、シェイカーがメールを読み終わったのかこちらを見てくる。


「……ん、終わったの?」


「うん、悪いけど、ちょっとギルドに戻らなくちゃいけなくなっちゃって、レベル上げはもう手伝えそうに無いよ。ごめんね」


「大丈夫よ、コツは掴んだから。無理せず頑張ってみるわ」


「分かった。じゃあ、また」


 そう言って、シェイカーはここから立ち去――る前に懐から何かを取り出しノービスに手渡した。


「何かしら、これ?」


 シェイカーから手渡された物は一本の細剣だった。

 華美な装飾は為されておらず、ひたすら実用性重視の細剣に見える。


「ノービスはまだ初心者武器だったよね? この“穿鉄の細剣”はそこまで重くはないし、特別攻撃力が高い訳じゃないけど、ただひたすらに硬いから使ってくれると嬉しいかな。

 まぁ、先達からのプレゼントって事で一つ」


「まぁ、貰えるのなら貰うけれど、大丈夫? 大切な物じゃ……」


「いやぁ、僕は細剣は使わないからね、これも売ろうかどうか迷ってたんだ」


 少し戸惑いながらもシェイカーから“穿鉄の細剣”を受け取ったノービスは「ありがとう」と礼を言った。


「ん、じゃあ、行って来るよ。またね」


「えぇ、行ってらっしゃい。シェイカー」


 そう言うノービスにシェイカーは驚いた顔でこっちを見詰め、やがて、にへら、と笑って言った。


「行ってきます」


 途端に猛スピードで街へと走り去るシェイカー。


「……今のやり取り、新婚さんみたいじゃなかった? あぁ、やっぱり一葉は格好いいなぁ。もっとモンスターを倒してレベルを上げたら、彼みたいに強くなれるかしら? 楽しみね」


 暫くの間、ウフフと笑いながらその場で呟いていたノービスだったが、やがて、更にレベルを上げる為に草原フィールドの深部に進み始めた。


 ――道中遭遇した角兎を、シェイカーにも使う所を見せなかったスキル【死の接触】で瞬殺させながら。



次回、謎の新キャラ現る。

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