第16話 《白昼夢⑥》実力者の言は真剣に聞いておくべき。
遅れました、すんませんでした。
ともあれ16話目です。
時刻は11:30。
ノービスは一人、王都を囲む森の中にいた。
「……こんな所かしらね」
クレハと別れた時は10:30、丸一時間も何をしてきたのかと言えば武器戦闘技術の向上である。
三十分後に控えたヴェンデル・ファルカトラとの戦闘では【死神の接触】を使う事は無いとノービスは思っていた。発動してしまえばヴェンデルを殺す事になるからだ。
故にヴェンデル戦では細剣を主軸に据えて戦闘を行うつもりであるノービスは約束の正午に間に合う様に森でモンスターを相手に訓練していたのだ。
結果的に短時間での訓練ではあるものの、確かに細剣の扱いは向上した様に思えた。
しかし――
「上がらない……」
肝心の【細剣術】スキルのレベルが全く上がらなくなったのだ。
現在のノービスのステータスは以下の通りである。
◇――◇――◇――◇
PN:ノービス
LV:30
職業:放浪者
HP:120/120
MP:120/120
STR:0
CON:0
DEX:0
AGI:0(+20)
INT:0
MIN:0
LUK:680(+100+20)
スキル:所有数10
【投擲ⅡLV.5】
【幸運上昇LV.10】
【強運LV.5】
【危険感知LV.5】
【死神の接触LV.5】
【死霊術LV.6】
【鑑定LV.8】
【テイム:――LV.1】
【細剣術LV.6】
【健脚LV.7】
【――――】
アビリティ:【白霧の導き】
武器:穿鉄の細剣
上半身:放浪者のシャツ
下半身:放浪者のズボン
装飾:放浪者の外套・刺突の指輪
◇――◇――◇――◇
スキルのレベルが上がらなくなった理由はおそらく――
(総合レベルの打ち止め、か)
本格的に教会での職業変更を打診するノービスだった。
◇◇◇◇◇
王都ゴーファイブ。
やっつけ感あふれる名前とは裏腹に堅牢な構造である王都は街全体を三つのエリアに分けている。結婚式でよく見る三段ホールケーキが分かりやすいかもしれない。
傭兵団や冒険者ギルドなどが存在し、プレイヤーが最初に入る事が出来る場所であり、所謂“平民街”と言われる最外周。
王族、またはそれに連なるNPCと特殊なコネクションを結ばなければ立ち入る事すら許されない“王城”と言われる中心地。
その二つのエリアに挟まれたエリアこそが“貴族街”、そここそがノービスの目的地であるヴェンデル邸がある場所であり、その“貴族街”の入口こそが現在ノービスが門前払いを受けている場所である。
「……え、入っちゃ駄目なの?」
「駄目だ」
「……何で?」
「通行許可証を持っていないからだ」
「その、直ぐ行かないと待ち合わせに間に合わなくなるのだけど」
「知らん、準備を怠ったお前が悪い」
正論である。
「前回は通してくれたじゃない」
「あの時はヴェンデル様がいたからだ、もしあの時お前が暴れてもヴェンデル様が何とかしてくれると判断したまでの事」
言外に『てめぇは危険因子だ』と言われてしまった。解せぬ。
「分かったわ、その通行許可証を発行して来ればいいのね? 何処で発行して貰えるのかしら」
「この大通りを真っ直ぐ進むと赤い屋根の雑貨屋があるからそこから脇道に逸れて雑貨屋の裏に回れば傭兵詰め所に着く。そこで10000G払えば発行してくれる」
「じゃあ今すぐ――」
「ちなみに発行には15分掛かるからな」
正午まで後10分しか無いのだが。
こんな事ならもっと早くに狩りを切り上げておくべきだった、とノービスが泣き言をこぼしかけた時だった。
「アルバよぉ、その異邦人いじめてやんなよ」
ヴェンデルが現れたのは。
「いじめるなど滅相も無い、私は門番の職務を全うしていたまでです」
「真面目なのは相変わらずだな、アルバ」
「お互い様で御座いましょう、騎士団長様。貴方様が目を掛けたのならそうと分かる様な物でも彼女に差し上げてください。そうすれば判別が楽になります」
ちらりとこちらを見ながら言ったアルバの言葉にヴェンデルは苦笑した。
先程の問答を見るにヴェンデルはこの門番、アルバと旧知の仲の様である。
(この人も《白昼夢》について何か情報を持ってたりするのかしら、っとこっち来たわね)
「すまんな、昨日通行許可証について教えるのを忘れていた。次からはこれを持ち歩くといい」
そう言ってヴェンデルが渡したのは流れ星を象った一つのペンダントだった。
◇――◇――◇
アイテム名:流星雨のペンダント
備考:―――――いまのおまえではまだ―――――
◇――◇――◇
「――それは」
何処か不機嫌そうに、アルバは言った。
「貴方の物ではなかったか」
「良いんだよ、儂にはもう必要の無い物だ」
「……そうですか、分かりました。“討伐証”に免じて彼女の通行を許可します」
「え、良いのかしら」
「ほれ、行くぞ」
勝手に話が進み、いつの間にか通行の許可が下りた事に戸惑うノービス。その耳元でアルバは「そのペンダント、無闇に衆目に晒されませぬ様お気を付けを」と囁いた。
何となく善意から行ってくれたのだろうと感じたノービスは彼の言葉を片隅に置き、「お人好しなのも相変わらずか」と言いたげな顔をしたヴェンデルに着いて行くのだった。
◇◇◇◇◇
……それから、どうしたのだったか。
確か、ヴェンデル邸でトリスと再開して、そう、庭で模擬戦をしたんだ。
模擬戦を始めて、そこから先は、思い出せない。
何時だったか、【ファルカトラ流剣術】についての考察をサカマキと交わした事があった。
【ファルカトラ流剣術】の真髄は、システムアシストによって知覚外にまで引き上げられた剣速、つまりは『神速の一撃』だ。
少々、楽観視し過ぎていた、かもしれない。
これは、勝てない。惨敗だ。
――あぁ、空が青い。
◇◇◇◇◇
《LVとスキルレベルの関連性》
・ステータスの上から二番目の『LV』は現在の力量、『30LV』は(ひとまずの)成長限界を表す。よってプレイヤーの力であるスキルの成長も一旦打ち止めとなる。
・職業変更、または種族変更で成長限界を突破すれば『まだ成長の余地がある』とみなされるので再びスキルのレベルを上げる事が出来る。
・LVが打ち止めになる前にとっととカンストさせちまうのが一番。
《流星雨のペンダント》
・――
・――
・――
◇◇◇◇◇
次回、訓練。




