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シード・オブ・ユグドラシル~幸運極振り死神さんは、確定必中即死使い~  作者: 砂場の黒兎
白昼夢と流星雨 The Daydream and Stardust
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第13話 《白昼夢④》明らかな強キャラには逆らわず接するべき。

ノービスが王都に辿り着くと同時にストックも尽きました。圧倒的準備不足。

ともあれ13話目です。


 王都に無事辿り着いたノービス一行は取りあえずはトリスの実家に向かおうとしたのだが、これに異議を唱えたのがトリス本人だった。


「どうして?」


「え、だって俺デイドリーム倒すまで家に帰らねぇって言って家出て来たから正直顔合わせるのつらいんだけど、今更どの面下げて家に帰れと」


 何ともみみっちい言い訳である。

 ノービスとしては「敵を討つまでは家に帰らないって心に決めたから」ぐらい言って欲しかった所だった。


「……あのねぇ、貴方だって家族が誰一人いなくなった訳ではないでしょう? トリスの事を心配してくれる家族がいるのではなくて?」


 王都の東広場にあるベンチの一つに腰掛けながらノービスはトリスに問い掛ける。

 ちなみに王都ゴーファイブの構造についてだが、単純な土地面積は始まりの街イワンの約五倍であり東エリア、西エリア、南エリア、北エリア、中央エリアの五つに街が分けられている。

 中央エリアには王城及び貴族街が存在し、一般的なプレイヤーが立ち入りを許される貴族街には転職の為の大聖堂があるらしいが、東西南北の各エリアには大きな特色も存在しない。

 精々が鍛冶工房や図書館、冒険者ギルド位の物だ。

 鍛冶工房等には興味が湧かないが、図書館にはその内行こうと思っているノービスだった。


 閑話休題。


「……そりゃ、いるにはいるが、あれはファルカトラ流派の師範代な訳で、職業柄俺の事は多分気にしてないっつーか何つーか……」


 お前が家出して悲しくなる人はいないのかというノービスの明け透けな質問に対してあからさまに言い澱むトリス。

 さておき、ここまで来るとトリスの家に向かわねば話が進展しない様に思えてきた。


(ファルカトラ流派の師範代、ねぇ。どこかで一回会うべきでしょうね、“白昼夢”について何か知っているかもしれないし)


 サカマキは王都に辿り着いてから姿を消したので勝手に話を進めて良いのか分からないが、ノービスはトリスを説得してその師範代に接触する事にした。


「ねぇトリス、師範代ってどんな人?」


「んー? 耄碌ジジイの鬼教官だ――」


「――誰が耄碌ジジイじゃ、儂ゃまだ現役じゃぞ」


 そんな声が後ろから聞こえて来たので振り向くと、赤銅色の軽鎧を身に纏った老人が一人。

 先程の言葉から察するにこの老人が“鬼教官”ことファルカトラ流派師範代なのだろう。

 腰に長剣と短剣を一本ずつ佩き、獲物を狙う肉食獣の様に細められた眼は、確かに鬼と呼ばれても仕方ないと思える力が宿っていた。


「濃密な死の気配が王都に入り込んだと思えば、――トリス、お前今までどこほっつき歩いていやがった」


 ただただトリスを睨み付け、激情を面に出す事なく怒る師範代にトリスは何も言わず――え、ちょっと待って、濃密な死の気配って何それ。


「……何も言えんのか、所詮お前はその程度でしかないんじゃ。どうせあの“悪夢”にも会えずに――」


「――白昼夢とは遭遇した」


 師範代の言葉を遮る様にトリスは言い放つ。

 その言葉を聞いて師範代は動きを止めた。


「……何じゃと?」


「全く相手にされなかったし殺されかけたけど、こうして生きて帰って来た」


 師範代はトリスを見詰め、ちらりとノービスの方を向いた後にため息を吐いた。


「どうやら詳しく話を聞くべきじゃな。儂の部屋になるが構わないかの?」


 ようやくクエストが進む事になりそうだ。



「……あれ、俺空気じゃねぇ?」


 サカマキが空気になっていた。



◇◇◇◇◇



 鬼教官ことヴェンデル・ファルカトラが『場所を変えよう』と言って辿り着いたのはヴェンデルの自宅――“騎士団長の館”であった。


「…………」


「…………」


 騎士団長ってなにそれ初耳なんだけど自宅って言ってたから普通の家かと思ったらバリバリの豪邸じゃん父が道場主で祖父が騎士団長とか何それ恵まれ過ぎじゃないと言うかそこら辺の情報事前に言って欲しかったな~?

 と言う感じの視線をトリスに投げ掛けるノービスだったがトリスは目を逸らした。


「何しとる、はよ入らんか」


 まさかこんなに早く貴族街に出入り出来るとは思ってもみなかったノービス達だったが、ヴェンデルの声に慌てて館の玄関を跨ぐ。

 チラッと見た限りでは裏庭――というか訓練場――もあったので後で行ってみたいと思う。

 そんな事を考えていたノービスをよそにヴェンデルは途中で使用人達とすれ違いながらある部屋に辿り着く。

 そこは、広い部屋の中に置かれた大きなテーブルを挟んで向かい合わせに設置された二つのソファが目に入る応接室だった。


「さて、聞かせて貰おうか、トリスが何をやらかしたのか」


 ……トリスが何かやらかした前提は覆されない様だ。


 それからトリスとノービスはあの日あった事を中心に話し始めた。

 サカマキはあの時の全容を詳しくは知らないので特に語れる事も無かった。サカマキの空気化が進む。


「……なるほどな。トリスが何をしたのかはこれで分かった」


《ユニーククエスト“流星の如く煌めいて”アクト3“騎士団長の試練”スタート》


 何やら不穏な文章が視界の隅に浮かぶ。

 気付いたのはサカマキとノービスのプレイヤー組だけだった。


「そうだ。俺は親父の敵討ちがしたいんだ! あの悪夢も、強くなれば俺だって――」


「――大馬鹿者が!」


 一喝。


 トリスの言葉を遮って放たれたヴェンデルの怒鳴り声一つでトリスは動きを止めた。

 サカマキも突然の大きな声に驚いている様なのでこの場で動じていないのはそろそろ来るだろうなと予感していたノービスぐらいである。


「貴様程度の力で固有種に勝てる筈が無かろうが! 加えて相手はあの“白昼夢”じゃ、ろくに耐性も備えておらん貴様の様な剣士では相手にならんだろうよ」


 それはトリスも痛感しているのか悔しげに拳を揺らしていた。

 ユニークモンスター――ヴェンデルは“固有種”と言っていたが――には色々な奴がいるとサカマキから聞いていたが、ヴェンデルは“白昼夢”の詳しい情報を知っている風な口振りで話していた。

 故にノービスはヴェンデルに話し掛けた。


「トリスでは勝てないとはっきり言うのね」


 急に話しかけて来たノービスに目を向けてヴェンデルは言葉を返す。


「あぁ、そうだ。儂にはトリスが喰い殺される運命しか見えん……見て来た様に話すとでも思っとるのか?」


「……えぇ、まぁ」


 一瞬、そこまで顔に出ていただろうかと思いつつノービスは会話を続ける。


「先程の口振りから、貴方は“白昼夢”についてかなり細かい事まで知っている様に思えたのだけれど、過去に“白昼夢”と戦った事が?」


「まぁ、そんな所じゃ。あやつは儂の様な強者でも勝てん、意志ある災害じゃな。貴様が持つ死をもたらす力も効かんだろう」


(え、何で【死神の接触】のスキルの事バレてんの)


 思わず【鑑定】でヴェンデルのステータスを見てみたいと思うノービスだったが、何とか堪える。

 まだ話は終わっていないのだ。


「何故貴方がそれを知っているのか気になるけれど、それはやってみないと分からないと思うわよ?」


「……何故そこまでトリスの力になろうとするんじゃ」


「それは――」


「――俺が頼んだんだよ。手伝ってくれって」


 ノービスの言葉を遮る様にトリスが言った。

 横目で隣りに座るトリスの姿を見て思わずにはいられなかった。


 ――それは悪手では無いだろうか、と。


「――ほう?」


 直後この部屋を埋め尽くすかの様な圧力がヴェンデルを中心に広がっていく。


「トリス、貴様は先程儂に言った筈じゃな? 俺は親父の敵討ちがしたいんだ、とな」


 噛んで含める様なヴェンデルの言葉に反応出来る様な余裕は、トリスには残っていなかった。

 この空間を支配する、ヴェンデルの殺気とでも形容出来る緊迫した気配が目の前の老人が騎士団長その人であると証明している。


「儂の気に当てられて実が竦む様な若造が、儂ですら届き得なかった高みに至る? 自惚れるな! それに加えて異邦人の助っ人じゃと?」


 そう、この“騎士団長”ですらユニークモンスターに敵わなかったと言っていたのだ。

 トリスがヴェンデルよりも強くならない限り白昼夢を倒すなど夢のまた夢と言える。


 ――それを不可能だとは、ノービスは思わなかったが。


「貴様の思い上がりを叩き直すとしよう。……明日の正午、またここに来い。儂が直々に揉んでやる」



◇◇◇◇◇



「――ふぅ」


 ヘッドセットを外しながらノービス――双葉は溜め息を吐いた。

 今回は今までよりも長い間ゲームにのめり込んでいた気がする。

 しかし、それのおかげで手に入った物がある事もまた確かだ。

 ユニークモンスター“白昼夢 デイドリーム”との出会い、トリス・ファルカトラとの出会い、サカマキとの出会い、そしてヴェンデル・ファルカトラとの出会い。

 それらは全て双葉にとっての――


「一条双葉さ~ん?」


 振り返れば奴がいる。誰あろう、そう主治医である。


「こんな夜遅くまでゲーム三昧とは少々不健全ではないかな? そこの所どう思うかな?」


「えぇ、全くですね」


 ナースもいた。


「えっと、これには」


「ん?」


「……ごめんなさい」


 夜遅くまで二人に説教されたのはわざわざ言うまでも無い事だった。


「全く、君の症状は命に関わる物では無くなったとは言えまだ君は衰弱しているという自覚をしっかり持って貰わないと困るよ。ただでさえ安静にして貰わないと今後に関わるって言うのに、彼女から指定された時間を大きく上回るプレイ時間というのは流石にこの僕としても許容し兼ねるのだけどね――」


「いや、あの、それについては」


「何かな?」


「……いえ」



次回、掲示板。

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