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シード・オブ・ユグドラシル~幸運極振り死神さんは、確定必中即死使い~  作者: 砂場の黒兎
白昼夢と流星雨 The Daydream and Stardust
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第◆◆話 彼の独白、彼女の慟哭①

なんとなくぶっ込みたくなってしまった……。

所謂、閑話です。



 彼、夕霧一葉は自身を人一人救えない臆病な男だと認識している。

 客観的に見ればその認識は誤りだろう、彼が臆病だろうとそうじゃなかろうと、その場にいなかった彼には彼女を救う事は不可能だったのだから。


 一葉が彼女――双葉と面識を持ったのは彼が高校一年生となった頃、とある理由から一葉が高校の入学式をバックレていた時だった。

 そのとき彼は校門前から本校舎を見上げていた。


(……どうすっかな。まさかここまで遅れるとは。バレない様に教室に入るにしたってタイミングを図らないと)


 教師は全員体育館に詰めており、いるとすれば校舎内を巡回している用務員程度なので人目に付かない様に教室に入る事自体は出来る。

 筈だった。


『ツイてないわ、まさか目覚し時計が何一つとして機能しないなんて……』


 自分以外にも入学式を出席していない生徒がいた。

 言動から察するに大遅刻をした筈なのに何故か落ち着き払った声音に、思わず振り向いた一葉は驚愕した。


 余りにも美しい。


 近年稀に見る完璧な黒髪は烏の濡れ羽色とでも形容出来そうな漆黒であり、同じ色を持つ艶やかな瞳からは強い力を感じさせる。

 整った輪郭は薄く憂いを帯びており、しかしその表情も彼女を魅力的に引き立てる一助となっていた。


 ――自分とは正反対だ。


 そんな風に思っている一葉に、彼女は声を掛けた。


『あら? 貴方もしかして遅刻したのかしら』


 そんな言葉が聞こえ、周りに誰もいないのに一葉は辺りを見渡した。


『ふふ、貴方以外に誰がいるの?』


 クスクスと笑われて、ようやく一葉は自分に話しかけているのだと自覚した。

 それほど今の状況に現実味が無かったのだ。


『貴方名前は? 私は一条双葉、双子の葉っぱで双葉よ』


 そのまま、促されるがままに一葉は己の名を彼女――双葉に告げた。


『そう、夕霧一葉って言うの。貴方も名前に葉っぱがあるんだ』


『――私と一緒ね』


 そう、嬉しそうに笑う双葉を見て、情けない話だが、しばしの間一葉は彼女に魅入っていたのだ。


 そんな一葉を現実に戻したのは体育館方面から聞こえて来る喧騒であった。


(やっべぇ! すぐ教室に行かないと!)


 これ以上遅刻するのは流石に不味いと判断した一葉はほぼ無意識に双葉の手を掴み校舎内へと入って行った。

 この時双葉も一葉と同じ考えを持ち、突然手を掴まれた事に対して何等抵抗を感じなかったのは間違いなく一葉にとっての幸運であった。


 これが一葉と双葉の最初の邂逅である。



◇◇◇◇◇



 入学式の危機を回避してから一葉と双葉はそれなりに顔を合わせる様になる。

 校内でも時折彼女の姿を見掛けたが、会話する場所は決まって放課後の図書室であった。


『あら、今日も待っててくれたの? 遅れたら先に帰ってくれて良いって言ったのに』


『生徒会で忙しい君を放って先に帰る訳にもいかないだろ? 君が来るまでずっと待ってるさ』


『あら、ありがとう。序でに私の仕事も手伝ってくれる?』


『はっはっは。……仰せのままに、お嬢様』


 冗談めかしてそう言った事を、一葉は今でも覚えている。

 学校で彼女を見ていると色々な事に気付く。

 双葉は驚く程に運が悪い。

 そもそも初対面からして自分の運が悪いという様な発言をしていたのだが、何日か過ごしているとその言葉に偽りは無かったのだなと確信させられた。


 双葉が言っていた様に目覚し時計が何一つとして機能しない、というのは序の口。

 傘を持って来なくなった途端に雨が降る、かなりの確率でちんぴらに絡まれる、ぬかるみに嵌まる、バナナの皮でコケる、黒猫横切る、茶柱沈む。

 こうして羅列してみると運が悪いというよりもドジっ子の様な気がしてきたが、毎年おみくじで大凶以外引いた事が無い彼女からして見れば『全部運が悪いせい』との事。

 正直自分でもよく見ているなと思う。

 実際一葉の級友から『お前ら付き合ってんの?』とからかわれた事も多々あったが、別に付き合っている訳では無いのだ。

 近い様で遠く、不安定な様で安定し、壊れそうで壊れない。

 そんな距離間で双葉と接しているだけ。

 そして一葉はそんな関係も悪くは無いと思っていた。



◇◇◇◇◇



 時は移ろい、一葉と双葉が無事に高校三年生に進級し、このまま行けば二人とも同じ大学に進学出来る様になった。

 しかして、平凡な日々は突然崩れ去る。


 明くる日、一葉は一人で学校に登校した。

 双葉と一緒になるのは放課後が基本なので登校時は二人共バラバラなのだが、一葉はできる限り双葉に登校時間を合わせようとしていた。

 もっとも、双葉は時に考えられない様な大遅刻を敢行してくるのでその努力が無駄になる事も多いのだが。


(……あれ、双葉いないのかな)


 校内に入った一葉は双葉がまだ学校に来ていない事を悟る。

 いつもなら双葉が来た瞬間に騒ぎ始める双葉の友人である女子グループ――生徒の一部では双葉ネットワークと呼ばれている――が静かなのでまだ双葉は来ていないのだろう。


(……まぁ、いつもの事か)


 この時一葉は双葉に何が起こったのかを知る事は無かった。



◇◇◇◇◇



『ちょっといい?』


 結局最後まで双葉が学校に来なかった事に人知れず嘆息を漏らす一葉が女子生徒の一人に声を掛けられたのは、一葉が下校準備を整え終わった時の事だった。

 一葉が振り返るとそこには一葉と同じく下校準備を整えた吊り目気味の女子――双葉ネットワークの一人、香坂こうさか未来みくだった。

 『双葉に近寄る男皆殺すべし』を掲げる大多数の双葉ネットワーク加入者と違い、未来は近寄る男――即ち一葉――にも一定の理解を示してくれる数少ない一人だ。

 少なくともこうして話し掛けて来てくれる程度には仲は悪くない。


『どうしたの? いきなり――』


『――双葉が』


 呑気な一葉の言葉を遮って伝えられた未来の言葉は、


『車に轢かれた』


 一葉の視界と脳内を真白に染め上げて尚、余りある程の衝撃を持っていた。


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