第12話 《白昼夢③》戦力は把握しておくべき。
すいません、遅れました。ちょっと短いかもしれません。
ともあれ12話目です。
強くなりたいと、彼は言った。
共に強くなりましょうと、彼女は言った。
そんな誓いを立てた彼等のステータスは次の物となる。
◇――◇――◇――◇
PN:ノービス
LV:30
職業:放浪者
HP:120/120
MP:120/120
STR:0
CON:0
DEX:0
AGI:0(+20)
INT:0
MIN:0
LUK:680(+100+20)
スキル:所有数10
【投擲ⅡLV.5】
【幸運上昇LV.10】
【強運LV.5】
【危険感知LV.5】
【死神の接触LV.5】
【死霊術LV.6】
【鑑定LV.8】
【テイム:――LV.1】
【細剣術LV.6】
【健脚LV.7】
【――――】
アビリティ:【白霧の導き】
武器:穿鉄の細剣
上半身:放浪者のシャツ
下半身:放浪者のズボン
装飾:放浪者の外套・刺突の指輪
◇――◇――◇――◇
◇――◇――◇――◇
NPN:トリス・ファルカトラ
LV:30
職業:剣闘士
HP:360/360
MP:240/240
STR:250
CON:240
DEX:180
AGI:200
INT:130
MIN:250
LUK:100
スキル:所有数7
【ファルカトラ流派剣闘術LV.5】
【剣術LV.10】
【見切りLV.5】
【炎熱耐性LV.5】
【衝撃耐性LV.5】
【身躱し術LV.6】
【重撃LV.8】
アビリティ:【鉄火の武闘】
武器:形見の片手剣
上半身:布の服・鎖帷子・白狼の部分鎧
下半身:布のズボン・白狼の部分鎧
装飾:耐熱の外套・琥珀の指輪
◇――◇――◇――◇
トリスと同じレベルだったノービスは自身のレベルが30で伸び悩んでいる事を悟る。
サカマキに聞いてみた所、
『はぁ!? もうこの段階でレベル30だと!? ……早過ぎだろ』
と驚愕していたが理由は教えてくれた。
曰く、職業ジョブの成長限界が訪れたとの事。
キャラクター作成時に設定した職業はレベル30になると上位職へとジョブチェンジが可能になる、というか、ジョブチェンジしないとずっとレベル30のままになってしまうらしい。
ジョブチェンジが出来る場所はイワンやニツーには無く、唯一王都“ゴーファイブ”にある様だ。
ネーミングセンスについては、もう諦めた。
余談だが、ノービスがイワンから次の街へと向かう間のフィールドで選択しなかった森林と荒野はそれぞれ第三の街“ミスリー”、第四の街“シフォー”と言うらしく、そのどれからも王都に向かう事が出来る様だ。
閑話休題。
「という事は取りあえず王都に辿り着かないと話が進まない訳ね」
「そうなるな」
軽食屋の会計を済ませ、トリスと一緒に外に出たノービスはサカマキにそう尋ねた。
「結局の所強くなるってどういった事を指すのかしら」
「えっ」
「えっ」
サカマキとトリスが驚いた様な声を上げる。
ニュアンスとしては『特に何も考えず一緒に強くなりましょうとか言ったのかお前』とかそういう感じだろうが、ノービスにだって考えはあるからそんな眼差しを向けるのは待って欲しい。
「いえね? ただレベルを上げたり武器を強くするだけじゃあんなステータスを持つデイドリームには勝てないんじゃないかなって」
「あぁ、何だ。びっくりした。というかノービスは白昼夢のステータスを見れたのか?」
「えぇ、能力値の桁数だけなんだけど。運が良かったわね」
「ふーん。なぁ、ノービス、白昼夢のステータス桁数だけで良いから教えてくれねぇか?」
サカマキから頼まれ、ノービスはあの時の事を思い出す。
確か――
「――HPMP六桁、最低10万。その他能力値五桁、最低1万」
その言葉を聞いてサカマキは天を仰ぐ。
「……ノービスの話だとトリッキーな能力を持ってたんだったか?」
「えぇ、姿を対象から見えない様にしてからの奇襲。とても堂々と直接戦闘する様なタイプには見えなかったわ」
「……それでその値、か。ったく、ユニークモンスターって奴はどいつもこいつも規格外だな」
ノービスにとっては初めて遭遇したユニークモンスターが“白昼夢 デイドリーム”なので何とも言えないが、サカマキは白昼夢以外にも遭遇した事がある様だった。
「サカマキは他のユニークモンスターと戦った事が?」
「……あぁ、まぁ、そうだな。一応俺もユニークハンターだ」
煮え切らない様に答えを返すサカマキ。何となく、サカマキの戦ったユニークモンスターに関しては深く聞かない方が良い様な気がした。
しかし、ユニークモンスターに関する情報が欲しいのも事実。
「ユニークモンスターってどんな戦い方をするのかしら」
「そりゃ個体毎に戦い方も違って来るさ、ユニークモンスターなんだから」
それもそうか、とノービスは納得した。
考えてみれば、同じ様な行動や攻撃をして来るならばとてもユニークとは言い難い。
それにしても、唯一つの共通点すら無いならば森林深部から街までの時間で白昼夢の行動パターンを予測しなければならないのだが、ほぼ不可能では無いだろうか。
「……取りあえずはモンスターの攻撃を受けるなどの方法で回避能力を向上させながら王都を目指す方針で良いかしら」
結局、そんな曖昧な方針となってしまった。
◇◇◇◇◇
第二の街“ニツー”と王都“ゴーファイブ”を繋ぐ森林のフィールドボスの名は“オークディアー”。
樫の木の枝の様に枝分れした角を持つ、鹿のモンスターだ。
発達した後ろ足から放たれる蹴りや、ダメージを受けた一定時間後に二倍に枝分かれして更なる脅威となる樫の角。
諸々の難易度から王都進出の登竜門と揶揄されるボスモンスターである。
因みに“ミスリー”や“シフォー”から王都までの道のりでも鹿は出るらしく、“ホワイトバーチディアー(白樺鹿)”や“アカシアディアー(アカシア鹿)”など微妙な種族の違いはあるが大体同じものだ。
なお、即死攻撃に対する耐性は取得していなかった模様。
「案外脆かったわね」
「……えぇ?」
ノービスの【死神の接触】を初めて見たトリスが放心状態だが、些細な事だろう。
そんな事よりも“オークディアー”を倒した際に手に入れたアイテムの中で面白い物を見つけたノービスはサカマキに許可を貰おうとした。
「ねぇ、サカマキ。これ私が貰っていいかしら?」
「んー、どれどれ?」
◇――◇――◇
素材名:オークディアーの樹液
備考:オークディアーの角から抽出出来る樹液。戦闘時に相手に投げると相手の注意を引ける。昆虫系のモンスターに効果的。普通に甘くて美味しい。
◇――◇――◇
深く読んでもサカマキには特に問題がある様には見えなかった。
「まぁ、良いんじゃないか?」
というか、戦ったのはノービスだけなのでドロップアイテムについては全てノービスが持っていっても良いと思うが、とサカマキは内心そう思っていたがそうとは知らないノービスは樹液以外をサカマキに渡して上機嫌に森を歩いていた。
(あそこまで喜ぶかね、普通。何だ? 菓子でも作るのか?)
サカマキの疑問を残したまま三人が歩いていると、ノービスのスキル【危険感知】に反応が現れる。
数秒後、右手の森の中から現れたのは三匹の狼、白銀の体毛で覆われたそれは【鑑定】によって“ダイヤウルフ”という名である事がノービス達に伝わった。
取りあえず経験値に――現在は30レベルで頭打ちだが――しようと武器を構え――
「――ストップだノービス、トリスに戦わせてみよう」
というサカマキの言葉を聞きたノービスは飛び掛かって来たダイヤウルフの攻撃を躱しながらサカマキに問う。
「トリスもレベル30でしょう? 今経験値を与えても意味ないわよね?」
「違う違う。俺達がするのはレベリングじゃなくてあいつの戦い方を観察する事だ。護衛するにしたってトリスがどれ位の戦力になるのかは把握しておくべきだろう?」
「私は戦力の分析とか出来ないわよ?」
「そこらへんは俺がやる」
「了解。おーい、トリスー! 一回戦ってみなさい!」
三匹のダイヤウルフからの攻撃を全て回避しながらノービスはトリスに呼び掛けた。
何故か「お、おう」と引き気味ではあったが、すぐに戦闘に入ってくれた。
もし、ダイヤウルフの怒濤の連撃を全回避している事に驚いているならばこれ位は出来て貰わないと困るので、そんなに驚いている場合では無いのだが。
ともあれトリスの戦闘である。
標的をノービスからトリスに変更したダイヤウルフの内の一体がトリスに向かって飛び掛かった。
「うおおらあ!! “一の剣:壊雷”!!」
アーツ名を叫んだトリスの持つ剣が赤みを帯び、直後ダイヤウルフが吹き飛ばされた。
「ギャウ!?」
トリスの剣の軌道をノービスは読み切る事が出来なかったが、吹き飛ばされたダイヤウルフの動きから察するに飛び掛かった際に見せた腹に横なぎの一撃を受けたのだろう。
(なるほど、トリスが“一の剣”と叫んだ所を見る限りは恐らくトリスにはこういうアーツが他にもあるという事、そして剣という単語が混じっていると言う事はステータスにある【ファルカトラ流剣術】と見て間違いない、かしらね?)
視界の先には、体力の残っている一体目のダイヤウルフに対して果敢に攻め立てている所だった。
普通に剣を使っている時もあるが、アーツを使用して攻撃する時は先程の様に途端に剣速が見えなくなる。
つまり、
(システムアシストによって剣速が知覚外にまで引き上げられてる?)
システムアシストとは、プレイヤーが一定のアーツを使用する際に特定の行動を発動時のトリガーとし、その行動を補助するシステムの事である。
ノービスの“ペネトレイト”の場合は『水平に構えた細剣』をトリガーに『一直線に走りながら』『持っている細剣を突き出し』『相手の一点を貫く』という補助をシステムが行ってくれる。
誰でも一定の技量で攻撃が出来るシステムだが、そのスピードは頑張れば目で追える程度でしかないので慣れれば相手が使用して来たアーツに合わせてカウンターを決める事も出来る、とシェイカーが言っていた。
実際ノービスも幾度かアーツを見ているが、余裕で目で追える程度の速度しかなかった。アーツを使用されてから回避出来るかどうかはまた別問題だが。
とにかく何が言いたいのかと言えば、トリスの【ファルカトラ流剣術】のアーツはそこらのそれとは一線を画す物であると言う事だ。
魔法や幻覚の可能性も無い訳では無いが、可能性としてはこちらの方が正しい様に思えた。
「“五の剣:叢雲”オォォ!!」
そうこうしている内にトリスがダイヤウルフを一匹倒し、二匹目にターゲットを移した所だった。
先程まではダイヤウルフも様子見の段階だったのか一匹しか攻撃して来なかったが、その一匹が倒されると他のダイヤウルフもトリスを脅威と認識し始めた様で、二匹同時にトリスに襲いかかった。
(私の時は最初から全員で襲いかかって来たのに……)
そうノービスは釈然としない気持ちを抱きつつ、トリスの戦闘を見守るのであった。
◇◇◇◇◇
総合戦闘時間、4分22秒。
ノービスの戦闘時間の約10倍ではあるが、サカマキによると30レベル剣士としては妥当な所らしい。
『というか、お前の戦い方がおかしいんだよ。何だよ、ボス戦6秒で終わるって』
とはサカマキの弁である。
そこまでおかしいとは思えないのだが、やはり極振りがいけないのだろうか。
ともあれトリスの奮闘が終わった所である。
「はぁ、はぁ。た、倒したぞ……」
「お疲れ様、危なげ無く戦えてたわね」
少なくともノービスにはそう見えた。
後はサカマキがどう思うかだろう、トリスが戦力になるか見極めると言い出した張本人なのだ、分析結果はサカマキの口から聞くべきだ。
「で、そこらへんどうなの?」
「……戦力には、なるだろう」
王都へ向けて移動を再開したノービス達三人だったが、ノービスとサカマキはトリスに聞こえない様に彼の評価をしていた。
当のトリス本人は同行人二人がひそひそ話をしている事が気になっている様だったが、ついて来て貰っているという負い目もあるのか、結局二人の会話についての追求はしなかった。
「詳しく」
「普通に剣士として運用するなら問題は無いだろうが、ユニークモンスターを相手取るにはちと不安が残るな」
「と言うと?」
「あいつが持つスキル、【ファルカトラ流剣術】とか言ったか? 流派があるのは高いアドバンテージになるが、あいつの場合その流派の形に嵌まり過ぎてんだよな」
「その心は?」
「……お前、さっきからそのテンション何なんだよ」
失敬な、至極真っ当に合いの手を入れているだけではないか。
「まぁ、いいや。結論としては、形に嵌まった堅い戦い方しか出来ない今のトリスではアドリブを戦闘中に仕込む事が出来ないと思える、よって絡め手に特化していると思われる白昼夢には勝てる見込みはないかと。以上」
「なるほど……」
言われてみれば、トリスと始めて出会った時も『いる筈の敵の姿が見えない』という白昼夢の行動に彼は半狂乱になりながら剣を振り回していた様に見えた。
先程の戦闘でも攻撃方法は全て剣だけで蹴りや石等は使わなかったし、ダイヤウルフの攻撃は全て剣で防御していた。
回避したりカウンターを叩き込んだりしない所を見るに、なるほど確かにアドリブに弱い様に思える。
直に王都に着く筈なので、そこでトリスのアドリブに弱いという弱点を補える様な職業にでも転職させねばなるまい。
(……ん? もしかしてその辺りを考慮してのレベル30なの?)
始めてトリスと出会った時には既にレベルが転職しなければ上がらなくなる30レベルになっており、状況が状況なだけに誰でも『とっとと王都で転職させちまおう』という考えに至る事は間違いないだろう。
しかし、トリスの弱点は一度モンスターと戦わせなければ知る由も無い事ばかり。
事実ノービスも、サカマキの提案に乗り具体的な戦力分析を聞かなければ『柔軟な戦闘が出来ない』という弱点を考慮しないままに転職させていただろう。
転職によって受ける恩恵は大きいが、融通が利く物でもない。
選択肢を間違えたから選び直し、とは行かないのだ。
(もしかするとこのユニーククエストってトリスをどの職業に転職させるかもポイントになるのかしら)
だとしたら、中々に性格が悪い。
そんな事を思いながらノービスは他二人に先導されながら、目前に迫った王都の門扉に向けて足を運ぶのだった。
次回、過去。




