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シード・オブ・ユグドラシル~幸運極振り死神さんは、確定必中即死使い~  作者: 砂場の黒兎
白昼夢と流星雨 The Daydream and Stardust
10/40

第10話 《白昼夢①》強制イベント前は必ずセーブしておくべき。

白昼夢編スタート。

10話目です。


 何やら「美人オーラが」とか「APP18の人」とか混乱している店員――プリムラを何とか落ち着かせ、どうにか話を聞いてもらえる状態にしたノービスは早速本題に入った。


「【テイム】のスキルってあるかしら?」


「はい、確かこっちに……これかな?」


 店の奥に山程積んである巻物の中からお目当ての巻物を手にしたプリムラは執拗に巻物を確認する。

 あの時の一件が相当に身に染みた様だ。


「……うん、これだ。お待たせしました、こちらが【テイム】のスキル巻物になります」


 再三確認した巻物とそれ以外の幾つかの巻物を手にプリムラが戻って来る。


「それとこちらはお客様にオススメするスキルです」


「へぇ、分かる物なのね。どんなスキルなのかしら」


「右から順に【細剣術】【健脚】【闇魔法】のスキルになります。【細剣術】は細剣の扱いが上手くなったり細剣による与ダメージの増加等の効果があるパッシブスキルですね。【健脚】は沼地や砂漠などの足場の悪いエリアを疲労せずに移動出来るスキルで、【闇魔法】は目眩ましや移動力低下などのデバフを相手に掛けられる魔法スキルとなります」


「ふむ……」


 プリムラが選んだスキルは確かに全てノービスのプレイスタイルに合っている物だった。

 【細剣術】は言わずもがな、【健脚】と【闇魔法】はおそらくノービスが移動能力に難有りと判断した結果だと思われる。

 惜しむらくは、MPはレベルアップと共に上昇するが肝心のINTに1ポイントたりとも割り振っていない事か。

 今のノービスでは完全に宝の持ち腐れであった。


「【テイム】のスキル、それから【細剣術】と【健脚】をくださいな」


「かしこまりました、合計3700Gになります」


 3700Gと三つのスキルを交換したノービスは早速とばかりに巻物を開けた。


「……ん、今回は全部合ってたわね」


「もう、その節は本当にご迷惑をお掛けしました……」


 苦笑するプリムラに笑い掛けてからスキル屋を後にした。


「またのご来店をお待ちしております」


 そんな声を後ろから掛けられたノービスは店を出たその足で第二の街に行く為中央広場に向かう。

 道中で自身のステータスを確認しながら。

 現在ノービスのステータスはこの様なものである。


◇――◇――◇――◇


PN:ノービス

LV:27

職業:放浪者


HP:100/100

MP:100/100


STR:0

CON:0

DEX:0

AGI:0(+20)

INT:0

MIN:0

LUK:650(+80+20)


スキル:所有数10

【投擲ⅡLV.1】

【幸運上昇LV.8】

【強運LV.2】

【危険感知LV.1】

【死神の接触LV.2】

【死霊術LV.5】

【鑑定LV.6】

【テイム:――LV.1】

【細剣術LV.1】

【健脚LV.1】


アビリティ:【白霧の導き】


武器:穿鉄の細剣

上半身:放浪者のシャツ

下半身:放浪者のズボン

装飾:放浪者の外套・刺突の指輪


◇――◇――◇――◇


 LUKが凄まじい事になってきた。

 現時点でのLUK合計値は750、【強運LV.2】を使用すれば2.4倍になるので丁度1800になる。

 順調に幸運が上がっていく所を見ると楽しくなるというのもゲームの楽しみ方の一つなのだろう。


 始まりの街中央広場を経由して第二の街中央広場へ、せっかくなので新しいスキルを試そうと考えたノービスは第二の街周辺のフィールドに繰り出した。

 第二の街周辺のフィールドは草原と森林の二種類で、草原の方は始まりの街に繋がるエリアなので出て来るモンスターは同じ物。

 せっかくなので行った事の無い森林エリアにでも足を運んで見ようかとノービスは考えた。

 ので、


「やって来ました森林エリア。思ったより明るいのね、それに割りと広いし」


 視界を遮る樹々や足元に生える雑草や苔、草原と比べて段差も多く、救いがあるとすれば樹々の間隔が広くある程度派手な立ち回りが可能な事、そして木漏れ日が多く薄暗いと思う事はあれど完全な闇にはならない事か。

 この程度の森林ならば迷う事は無いだろう。


「今回試すスキルは【細剣術】ね。レベル1で使えるアーツは、……《ペネトレイト》?」


 草原のレアモンスターを彷彿とさせるアーツ名である。


 取りあえずモンスターに使わないと判断出来ないと移動したノービスの思いが通じたのか、三体の緑色の小鬼を見つける事が出来た。

 距離が離れていた為に相手からは気付かれていない様だった。


「……ひょっとしてゴブリンかしら、剣に槍に弓ってあの時のPKみたいね」


 緑色の小鬼――ゴブリンはそれぞれ剣と槍と弓を持って周囲を警戒していた。

 もしかするとノービスの姿は見えなくとも何かの気配を感じているのかもしれない。

 こちらに気付かれては厄介なのでノービスは槍使いのゴブリンの方へ走る。

 そして、走り始めてから内心で驚いた。


(今までよりも走りが早くなってる!)


 三体のゴブリンまでの距離――目算30メートル――を瞬く間に詰めていく。

 流石はステータス上昇ぬいぐるみ、流石はAGI+20。元の数値が0なだけに上がり幅が大きい。


 驚きを抑えたノービスは疾走した勢いをそのままに穿鉄の細剣を構え、【細剣術LV.1】のアーツを使用した。


「さぁ、《ペネトレイト》!」


 直後加速するノービスの突きは槍使いゴブリンの喉元を正確に射抜いた。


「ギゲッ!?」


 本来ならば例えレベル27のプレイヤーの攻撃でも肝心のSTRが皆無では与えるダメージも微々たる物。

 しかし、それを補って余りある高LUKによる急所命中やアクセサリーである“刺突の指輪”の『刺突の攻撃限定で攻撃力が増加する』効果によって、さすがに即死ダメージでは無いにせよ《ペネトレイト》の攻撃は一撃で槍使いゴブリンを瀕死に追いやった。


「ほいっと」


「ギ!?」


 そのまま槍使いゴブリンの体を蹴り飛ばし、状況について行けない剣使いゴブリンとこちらに向かって弓を構えるゴブリンの内、ノービスは剣使いゴブリンの方へ細剣を構える。

 矢など【白霧の導き】で強引に回避すればいい。

 次にノービスは【死神の接触】を使用した状態で《ペネトレイト》を併用してみる。


「《ペネトレイト》ッ!」


 結果を分かり易くする為に喉元では無く胴体を狙って放った一撃だったが、剣使いゴブリンはHPを0に散らした。


「併用は出来る、と」


 消えゆくゴブリンの死体に細工を施し、在らぬ方向に飛んで行く矢を放ったゴブリンの方を向いた。

 初撃、槍使いゴブリンに行った様に細剣を構えて弓使いゴブリンに向かって走る。


「ギギィ!」


「ギ、ゲゲ!」


 ボロボロな槍使いに怒鳴る弓使い。

 敵を前に随分と余裕を持っているなと思うノービスだったが、恐らくは槍使いに前衛を担当しろと命令しているのだろう。

 無駄だが。


「ふっ! 《ペネトレイト》!」


「グゲゲッ!?」


 一度通常攻撃で弓使いを突いてから《ペネトレイト》を使用して弓使いゴブリンのHPを削り切ったノービスは小さく呟く。


「“敵を討て”」


 直後、ノービスの背中を貫こうと槍を構えたゴブリンの腹部から剣が飛び出した。

 その剣は先程死体となったゴブリンの物であり、槍使いゴブリンの背後には胴体に穴が開き虚ろな目をした剣使いゴブリンが、ノービスの命令を遂行していた。

 これがノービスのスキル【死霊術LV.5】で新たに手に入れたアーツ、《言霊受理》だ。

 自身の所有物となった死体を、自身の命令を受理し遂行する人形に作り替えるアーツ。

 基本的に一行動を行った後で消滅するが、命令は大体何でもありの様だった。


「新スキルや新アーツの使い勝手は良し、これくらいなら安定して狩りが出来そうね」


 満足気に戦果を確認したノービスはそのまま森林の深部を目指す。


 その姿を追う人影には気付かぬままに。



◇◇◇◇◇



 ゴブリンの牙×13。ゴブリンの角×9。

 錆びた槍×12。錆びた片手剣×16。木製の小弓×8。木製の矢×23。

 狼の牙×6。狼の爪×8。狼の毛皮×12。狼の肉×8。

 鹿の鋭利な角×2。鹿の頑丈な蹄×3。鹿の美味しい肉×4。


 これら全て、ノービスが途中まで細剣や投擲で倒していたがだんだん面倒になって来て【死神の接触】で文字通り手当たり次第に殺していった森林深部での戦利品である。

 中には上質そうな物も在る様に見え、売り払えばそこそこ纏まった金になりそうなのでノービスとしてはとっとと第二の街に帰りたいのだが。


「……何処かしら、ここ」


 何と迷子である。

 幸運極振りでなおかつ道に迷いづらくなるアビリティ【白霧の導き】を持っているノービスが、である。

 誰だこの森では迷う事は無いだろうとか訳知り顔で宣った奴は。


「……まぁ、いっか」


 既に迷ってしまったものは仕方が無いと判断したノービスは手頃な木の枝を拾って目の前に立てる。

 古典的な方法ではあるが、無駄に高いノービスの幸運ならば倒れた先に何かしらはあるだろうと考えての行動だった。

 ……迷うという不可解な現象に不安になったので【強運】を使用してから倒したが。


「えっと、この方角は、南西だったかしら? 確か方角はマップで調べればいいってシェイカーが……」


 沈黙。


「…………そうだったわ、マップで道調べれば良かったじゃない。失念していたわ、完全に迷い損じゃないの」


 今までの時間は何だったのかと頭を抱えたくなったが、帰り道が分かる様になったと前向きに考える事にする。

 ふと地面を見ると、街の向きでは無く南西の方角に倒れた木の棒があった。

 あのまま進んでいたら街に帰れなかったのかと辟易しつつ、ふと好奇心が涌いた。


「この方向に進んだら何かあるのかしら?」


 仮にも【強運LV.3】を使用して最終LUK2080の状態で倒したのだから何かしらはあって欲しい。


 因みに現在ノービスのステータスは次の様な物である。


◇――◇――◇――◇


PN:ノービス

LV:30

職業:放浪者


HP:120/120

MP:120/120


STR:0

CON:0

DEX:0

AGI:0(+20)

INT:0

MIN:0

LUK:680(+100+20)


スキル:所有数10

【投擲ⅡLV.3】

【幸運上昇LV.10】

【強運LV.3】

【危険感知LV.2】

【死神の接触LV.4】

【死霊術LV.6】

【鑑定LV.7】

【テイム:――LV.1】

【細剣術LV.3】

【健脚LV.4】


アビリティ:【白霧の導き】


武器:穿鉄の細剣

上半身:放浪者のシャツ

下半身:放浪者のズボン

装飾:放浪者の外套・刺突の指輪


◇――◇――◇――◇


 現在の【強運LV.3】の幸運上昇率は2・6倍なので800×2・6=2080となる。

 そろそろミタマの「化け物LUK」という評価を否定出来なくなって来たノービスだったが、幸運極振りというスタンスを崩すつもりは無い様だった。

 何回か棒を立てては倒すという事を繰り返して起動修正しながら、化け物LUKの導くままに歩いていると――、


 ――森林の開けた場所に出た。


 周囲を取り囲む様に木々が密集している中、不自然に日の光が入る広場に、一人の青年がそこで剣を振るっていた。

 自棄に周囲に見境なく振り回している所と見て分かる程その顔に焦燥を浮かべている点を除けば、ただ単に剣の鍛練に勤しんでいると思えるそんな光景に、


「何を――」


 しているのかしら、とノービスが青年に声を掛け、黒がざわめいた。


 それは、焦燥を顔に浮かべる青年の眼前より音も無く現れ。

 それは、黒き体毛と鋭利な爪や牙を持ち。

 それは、見るからに強靭な顎で青年の頭を噛み砕こうと――。


 ――即座に、ノービスは穿鉄の細剣を構えて駆け出した。


「――ッ! 《ペネトレイト》ォオ!!」


 アーツ発動に伴うスキルアシストによってノービスは青年と彼を亡き者にせんとする謎のモンスターの元まで辿り着いた。

 そしてノービスは穿鉄の細剣で謎のモンスターを貫いた。

 が、


「何で!?」


 ノービスの放った渾身の突きはろくな抵抗も手応えすらも無く、相手の真っ白な体を擦り抜けて――。


(――真っ白ですって?)


 攻撃を中断し、相手を注意深く観察するノービス。

 白い体毛に赤い瞳、鋭い牙や爪はそのままにしてまるで色だけが入れ替わってしまったかの様な印象を受ける。

 一言で言い表すならば――白銀の巨狼。

 するとノービスの傍らで剣を振り回していた青年がいきなり叫んだ。


「くそっ! 姿を顕せ“白昼夢”! お前は親父の仇だ、俺が倒してやる!」


「……へぇ」


 今の発言で少なくとも三つの事が分かった。

 一つ目は目の前の青年が、所謂NPCだという事。

 “父さんの仇”という設定のロールプレイかもしれないが、それにしては青年の表情は鬼気迫る物があった。

 もしプレイヤー(死んでも蘇る者)ならばあんな顔はしないだろう。

 二つ目は目の前の白い巨大な狼が姿を眩ませ、その隙に奇襲を仕掛ける事に長けた存在である事。

 目の前にいるにも拘らず青年には姿は見えず、そのまま殺されそうになっていた所から考えたのだが。

 良く考えるとノービスの姿も見えない様に見受けられるのは少々変では無いだろうか。


 そして、三つ目は目の前のモンスターが“白昼夢”という名を持つモンスターである事。

 前にミタマに聞いた事があるが――。 


「危なっ!」


 最近はめっきり聞かなくなった【危険感知】の警鐘によって思考は強制的に中断された。

 咄嗟に青年を担ぎあげて横に転がるノービスのすぐ隣りを何かが通り過ぎた。


 今何が通り過ぎたんだとか、【危険感知】が役に立ったとか、風切り音が少しもしなかったなとか、この青年重いなとか、そんな思考はかなぐり捨てて唯ひたすらに逃げた。

 そんな事に気を取られては、あいつに即座に殺される。


 前にミタマに聞いた事があるが、全てのユニークモンスターは表示される名称が、漢字三文字の二つ名とカタカナ六文字の名前から構成されている。

 あぁ、分かっている、あれを見(鑑定し)て、理解してしまった。


◇――◇――◇――◇


ユニークモンスターNO.12

名称:白昼夢 デイドリーム

LV:―――(閲覧不可)


HP:――――――/――――――(閲覧不可)

MP:――――――/――――――(閲覧不可)


STR:―――――(閲覧不可)

CON:―――――(閲覧不可)

DEX:―――――(閲覧不可)

AGI:―――――(閲覧不可)

INT:―――――(閲覧不可)

MIN:―――――(閲覧不可)

LUK:―――――(閲覧不可)


スキル:所有数――(閲覧不可)


◇――◇――◇――◇


 表示されているのは名称とレベル、そして能力値の桁数だけ、しかし、それだけに異常さが際立つ。


 ――白昼夢 デイドリーム。


 これがノービスと悪夢ユニークモンスターとの初めての邂逅であった。



 ――そして、青年を担ぎながら必死に悪夢から逃げているが故に、ノービスはとある音声を聞き逃す。


《ユニーククエスト“流星の如く煌めいて”の突入を確認。アクト1“真昼の悪夢からの逃走劇”スタート》


 ――物語は、進む。



次回、ユニーク。

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