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第1話 友人からの好意は素直に受け取るべき。

始めまして、砂場の黒兎です。処女作としてVR物を一つ。タグにあります様に不定期な更新となりますが、読んで頂ければ幸いです。ではでは。

森の中を、五つの影が駆けて――いや、逃げていた。

 影の正体は、白銀の体毛を持つ狼、ダイヤウルフである。


 王都近郊を囲む様に位置するこの森では特に珍しくも何とも無いモンスターではあるが、レベルは平均35。

 十匹以上群れればダイヤウルフよりも格上のマーダーグリズリーすらも打ち破りかねないモンスターが何から逃げているのか、それはすぐに明らかとなった。


 ――最後尾のダイヤウルフが倒れる。


 ドサリ、と何の脈絡も無く、その命は掻き消えた。


 それを見た四匹のダイヤウルフは驚きもせずに散り散りになって逃げ続ける。

 もう、幾度も見た光景だから、驚いて隙を見せた途端に、自分もああなると分かっているから、ダイヤウルフは走る。

 ただひたすらに、あの死神から距離を取る。

 近付けば、即座に命を刈り取られると分かっていた。

 故に、ダイヤウルフは背後から聞こえて来た声に絶望した。


「散り散りになって逃げないでよ、追うのだって面倒なんだから。――“デス”」


 その言葉を最期にダイヤウルフの意識は消えていく。

 振り返ったダイヤウルフが見たのは、黒い髪に黒い瞳、一見してボロボロな外套に身を包んだ女の姿であった。



◇◇◇◇◇



「あら、三匹逃げちゃった。難しいなぁ、このスキルの常時展開はモンスター怯えちゃうし、……あ、レベル上がってるわ、ほいっと」


 自らのレベルアップにより得たポイントを全て一つの項目に割り振りながら、彼女は独り言をこぼす。


「はぁ、どっかでモンスターの大討伐でもやってくれないかしら、対人戦は苦手なのだけれど」


 そう言って彼女――ノービスは空を仰ぐ。

 現実と比べても遜色ない青空に浮かぶ雲を見ながら、ノービスはこのゲームを勧めてくれた彼を思う。


「……楽しいよ、このゲームは。うん、生きてる」



◇◇◇◇◇



 彼女、一条双葉は自分の事を凄まじく運が無い女と認識している。

 いや、その表現は正しく無いだろうか。

 正確には極端なまでに著しい幸運と悪運を併せ持っていると言うべきだろう。

 そうで無ければ、彼女が下半身不随によって半永久的に入院する事は無かった筈だから。

 今まで二十年この日本で生きてきた双葉ではあるが、こうなる原因となったあの日を忘れる事は無いだろう。


 最近のネット業界に蔓延るライトノベルの中で異世界転生物というジャンルを耳にした事はあるだろうか、あれらは往々にして主人公が死ぬ状況をダイジェストで流される訳で。

 一番多い死に方、もとい転生方法は、大方後腐れの無い――主人公視点では、だが――『トラックに轢かれて転生』という方法に集束されていく。

 そして、双葉もまた、交通事故が原因でこうなっている。


 二年前、高校三年生であった双葉は通学路である交差点で信号待ちをしていた。

 友人と喋っていた訳でも、携帯から目を離さなかった訳でもない。

 青信号となった交差点をいつも通り渡ろうとして、結果トラックに轢かれてしまった。


 双葉に、そしてトラックの運転手にとって少しでも幸運だったのは、双葉が警戒心を欠片でも持っていた事か。

 それでも双葉は、突っ込んで来るトラックを完全には避け切れず、下半身にトラックの突撃を食らってしまう。


 双葉が死ぬ事が無かったのは幸運であり、同時に底無しの不運であった。


 下半身不随。正確には脊髄損傷による下半身麻痺。

 それが双葉が病院のベッドの上で聞いた自身の症状であった。

 それを聞いた双葉は目の前が真っ暗闇に包まれた様に思えた。

 みっともなく取り乱した。

 慰謝料を払いに来た運転手に「金よりも足を返せ」と泣きわめいた事もあった。

 ――いっそ死んでしまおうかとすら考えた。


 だが、それでも死を選ばなかったのは――


 ガラリと病室の扉を開く音。

 二年前の苦い思い出を振り払い、扉の先へと目を向ける。


「おはよう、双葉。君が起きてるのは珍しいな、何か良い事でもあったのかい?」


「おはよう、一葉君。今日も時間通りね、貴方に会えるのが楽しみなのよ。他に娯楽なんて無いし」


 双葉のいる病室に入って来た男の名は夕霧一葉、双葉が入院しても変わらない友好関係を築いている数少ない友人だ。


「君にとって僕は老人が朝楽しみにする新聞なのかな?」


「あら、私はまだおばあちゃんだなんて呼ばれる様な歳じゃないわよ。もしかして喧嘩売ってるのかしら」


「あぁ、例えが悪かったな。まるで毎朝の散歩を楽しみにする老犬の様な、と」


「言い値で買うわよその喧嘩」


 ウフフと微笑みながらベッドの端をポンポンと叩く。

 ここに座れという合図、というか命令だ。

 苦笑いしながら命令通りベッドの端に座る一葉。


「ははは、悪かったよ双葉。不用意に散歩の話題を出したのは済まなかった」


「全くよ。もっと繊細な心配りを身に着けなさい」


 そう言って双葉は座っている一葉をコツンと叩く。

 この手の話題に敏感でいるには、少しばかり双葉は慣れ過ぎていた。


「そうそう、今日は双葉に贈り物をプレゼントしようと思って」


「今の会話微妙に頭悪いわよ。……それで? 贈り物って何かしら」


 一葉が足元に置いた袋の中を探っている。

 そんな後ろ姿を見ながら少し考えて、言う。


「……ところで、貴方ってまだ独身だったわよね? 結婚しないの?」


「ん? んー、まぁ、そうだね。今は悩んでる所だな」


「結婚相手を誰に絞るか?」


「何で複数人と関係を持っている前提なのかなぁ……」


「ナース情報を甘く見ない事ね。最近キャバクラ行ったでしょ」


「君の情報網の構築速度にはいつも驚かされるよ……。っと、あったあった。はいこれ」


 望んだ話題へと一葉を誘導する事には失敗したが、まぁ、良いかと思い直す双葉。

 気を取り直して、一葉から手渡された物を見ると、


「……≪シード・オブ・ユグドラシル≫?」


 そのパッケージには、双葉が言った様にシード・オブ・ユグドラシルと書かれていた。

 直訳すれば“世界樹の種子”端的に言えば、ゲームである。

 訝しげに一葉の方を眺めながら口を開く。


「これ、ゲームよね? 何でいきなり」


「タダのゲームじゃあない。コイツは巷で噂のVRMMORPGって奴だよ。僕のオススメ」


 そう言われて驚きから手に持ったパッケージを凝視する。


「これがあの……、でも、フルダイブは良い噂聞かないわよ? 私本体持って無いし」


「こんな事もあろうかと、君の分の本体を買っておいたのさ。評判に関しては心配要らない」


 足元の袋からじゃーんと言いながらヘルメットの様な機械を取り出す一葉に双葉は苦笑する。

 随分と用意周到な事だ。


「君と一緒に遊びたかったからね。一応トッププレイヤーだから君に教えてあげられる事は多い筈だよ」


「どうやら私に拒否権は無いみたいね」


「あ、いや、君が嫌なら良いんだけど……」


 目に見えて落ち込む一葉に思わず吹き出す。


「ぷっ、ふふ、大丈夫よ一葉。やるわ、やらせてちょうだい」


 目に見えて喜ぶ一葉に思わず微笑む。


「あぁ、僕のゲームの中での名前は“シェイカー”だから、最初に街の中に出た所で待っててよ!」


 それから一葉は「オススメだから! 一緒にやろうね! 絶対だよ!」と彼にしてはハイテンションで面会時間のぎりぎりまで双葉を誘っていた。


「さて、と」


 面会時間の終了からしばらくは空白の時間帯だ。

 ナースからもゲームの許可は貰っている。


 パッケージを開けると従来の円盤形ディスクではなく何やら立方体のキューブの様な物が入っていた。

 VRゲーム機本体を調べると、確かにあのキューブを入れられそうな穴があるのを見つけた。

 進んだなぁと思いながらもキューブをカチッと。


「キューブの向きはこれで合ってるのかしら。……えっと、後はこれを被って、電源を入れる? ……我ながら機械を弄るのは向いて無いわね。明日は一葉来るかしら、来たら色々教えて貰わないと。……あ、私のゲーム内での名前教えるの忘れてたわね、どうしましょう」


 色々手間取ったりはしたものの、何とか双葉はゲームを開始出来たのだった。



◇◇◇◇◇



 次の瞬間双葉は白い部屋の中に立っていた。

 そう、ゲームの中、仮想世界とは言え双葉は再び両足を支えに立てていたのだ。


「一葉から聞いてはいたけれど、まさか立てる状態でインストールされるなんて……」


 VRゲームで遊ぶ際に現実での障害を持ち込んでしまっては遊べる物も遊べないという事で、脳に繋がる全神経を読み取って五体満足の状態でダイブ出来る様になっている。

 植物状態の人間は微妙だが、ぶっちゃけ脳さえ無事なら元気に仮想世界で遊べるらしい。

 そんなVR技術に感動した双葉は無性に走り回りたくなってしまい、キョロキョロと辺りを見渡した。


 ちょっとした体育館程の広さの部屋に扉はなく、あるのは白い壁、床、天井、そして双葉の姿だけだった。


「一葉に入ったらそこを動くなって言われたけれど、街の中には見えないから所謂チュートリアルの様な物かしら」


 そこまで言った双葉の目の前に半透明のウィンドウが現れる。


『ようこそ、シード・オブ・ユグドラシルの世界へ。この空間ではあなたの分身であるキャラクターのエディット、そしてチュートリアルを行います。まずはあなたのキャラクターエディットに移ります▼』


「はい。……あぁ、これ画面を押すのね」


『まずはキャラクターの能力値から、これはゲーム内での自分の身体能力に直結します。最初の300ポイントを使って上手く割り振りましょう。このポイントはレベルが上がると自動的に入手出来ます▼』


 ウィンドウがもう一つ出て来た。

 能力値を割り振る為の物の様だ。


「はい」


『次に職業の選択です。全20の職業の内一つを選択しましょう。それぞれの職業には能力値の補正とその職業の固定のアビリティが設定されています』


 こちらも職業選択用のウィンドウが。


「アビリティって?」


『戦闘中以外でも常時効果を発動するキャラクターの特性です』


 疑問に答えて貰えるとは思っていなかった双葉は少し驚いた。


『次にスキルの選択です。50個のスキルから五つ選んで頂きます。スキルには戦闘中は常時発動するパッシブスキルと戦闘中スキル名を言う事で発動するアクティブスキルの二種類があります。戦況によって使い分けましょう▼』


 説明をしてくれるウィンドウの隣に別のウィンドウが現れる。

 スキルを選ぶ為のウィンドウの様だ。

 サラッと流し見して後回しにする。

 説明画面をタップ。


『最後に名前とキャラクターの外見の設定をして頂ければキャラクターエディットは終了です。この空間は移動やスキルの練習場としてお使い下さい。ゲームを開始する際は申し付け下さい▼』


 この画面を最後に説明用ウィンドウは沈黙する。


「名前と能力値と職業と……あとスキルと外見変更か」


 キャラクターエディット用に出てきた五つのウィンドウをそれぞれ操作し、ある程度の操作方法を覚えた双葉は説明画面に準備が終わった事を告げ、シード・オブ・ユグドラシルの世界へと足を踏み入れるのだった。





次回、客観的視点から見た双葉及び一葉。

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