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虐げられた救世主の俺は異世界を見捨てて元の世界で気ままに生きることにした 作者:三木なずな

第三章

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06.四本足なら椅子も食べる

 ハイジャック犯の心を読んだ。
 取り調べされてるそいつ、口でも心の中でも強がっていた。

『これで終わったと思うな、組織から第二・第三の俺たちがやってくる』

 ってな事を思っていた。
 それはつまり、今回の件は一段落したって意味だと思った。

 俺はチャールズとアルベルトの方を向いて。

「嘘は言っていない。組織の名前も本当だ」

 と言った。

 二人はまだ半信半疑だが、別に構わない。
 どのみちこのハイジャック犯にもう隠し事はないのだから、これ以上俺が介入することはない。

     ☆

 ホテルに戻って、瑞希の部屋。
 改めてチャールズとアルベルトと向き合う。

「先ほどはすまなかった」
「気にしてない、ああいうのは一つの手だからな」

 改めて謝ったチャールズにそう言った。
 身分を隠して相手の事を見極めるのは有効な手段だ。

 特に高いポジションにいて、かつ自分で見極めなきゃならない事態になったときはむしろ必要な事だ。

 ぶっちゃけ、俺も異世界で似たような事をやった事がある。
 だからその事でチャールズを責めようとはまったく思っていない。

「さて、だいぶ脇道にそれたけど。例の高速鉄道の話、そろそろ説明をしてくれないか」

 アルベルトに水を向けた。
 彼は立ち上がって、事務的な口調で説明をはじめた。

 日本が計測したデータをC国が何らかの手段でゲットして、それを元に安い金額で入札に勝利した。
 しかしその後施行をなかなかはじめない……というのは日本でマリアンナ王女から聞いたのと同じ話だ。

「先日新しい条件を出してきました」
「新しい条件?」
「ええ、施工は全てC国の人間がやる、と」
「そりゃ向こうに発注するんなら技術者は向こうから――」
「いえ」

 アルベルトは苦虫をかみつぶした様な顔をした。

「技術者だけではなく、現場の一般労働者まで、全てC国の人間を使うと言ってきたのです」
「……つまりC国のドカタを大量入国させろってことか?」

 うなずくアルベルト、話を引き継ぐチャールズ。

「同然ながら受け入れられる話ではない。こういった建設は一般労働者の仕事を作り出す側面もある、それを丸ごとC国に持って行かれるのはあり得ない。更にこれほどの大事業にふさわしい人間を入国させたら、それだけで一つの街が出来てしまう」
「根を下ろされてしまうな」

 頷くチャールズ。

「建前としては全くの荒唐無稽でもない。建設に使われる技術は全て会社の機密であり、かつ高度な技術だから、社外の人間――つまりは我が国の国民だな、それにやらせられないし教育するコストもおいたくない」
「機密技術の保護っていわれたらつらいな。建前としては」
「はい。C国は建設でここ数十年成り上がってきた。建設というのは経済の水増しにものすごく役立つもので、極論道路を延々と掘って埋めるだけでも経済成長の数字に寄与する――のだが、さすがにそれを延々とやっているだけでは限界がある。そこでC国は労働者ごと海外に持ち出して、会社レベル、そして労働者レベル。全ての面でC国の稼ぎにする方法を考えた」
「やられた方はたまらんな」

 建設で地域が潤うのを期待したら、それが全部相手にかっさらわれるかもしれないのだ。
 それはつらいな。

「とは言え」

 チャールズはますます苦虫をかみつぶした顔になった。

「高速鉄道の建設は急務。交通・流通の下支えなくして経済の発展はあり得ない」

 チャールズは両手を突いて、頭を下げた。

「頼む! どうかC国をおいだすための協力をしてくれ」

 必死な形相で俺に頼み込んでくるチャールズ。
 念の為にスキル・読心を使ってみたけど、考えてる事と口に出してることが概ね一致していた。

     ☆

 夜、市内のクラブ。
 クラブとはいうが、前時代的なディスコのような場所だった。

 ダンスフロアがあって、男と女はカクテルライトの下で酒と狂騒を楽しんでいる。

 そこに俺とアルベルトがいた。

「本当に顔がかわっている……」

 鏡のようにピカピカ磨かれてるテーブルにうつる自分の顔を見て、アルベルトは信じられないと言わんばかりに目を見開いていた。

 スキル・変装。
 元が50ポイントで実際は40ポイントで取ったスキルは、触った相手の顔を一時的かえるスキルだ。

 俺はそれを取って、アルベルトに目をつぶらせて、顔をベタベタ触りながら顔を変えた。
 メガネの微イケメンが、たちまち禿げた中年男に変身した。

「あまり触るなよ、落ちるとばれる」
「あ、ああ」

 アルベルトは慌てて触りそうになった手を引っ込めた。

 嘘だ。
 スキル・変装で変えた顔は触ったからと言って崩れることはないが、逆にそれがアルベルトに疑惑をもたせかねない。
 名目上、特殊メイクで彼の顔を変えた事になってるからだ。

 そんなアルベルトを連れてきたのは――。

「顔を変えていただいて助かりました。もう既に五人ほど、知っている顔を見かけました」
「変装してこなかったら確実にばれてたか」
「ええ、ですがこれならばれることはありません。こんな変装技術も持っていたなんて……さすがです」

「それよりも相手は?」
「あそこです」

 アルベルトが視線で教えてくれた方角を見た。

 ダンスフロアを挟んだ反対側、やけに騒がしい一団がいた。
 集団のまん中にまるで王様のようにふんぞりかえっている男がいて、その左右に露出の高いドレスを纏った美女がいる。
 更に周りにチャラチャラしたチンピラや強面の大男がそいつを取り囲んでいる。

「アンディ・ロウ。現地……このI国における責任者です」
「真っ当な相手には見えないな。どっちかって言うとマフィアに見える」
「正解です。表向きは建設会社の者ですが、マフィアの幹部であることは公然の秘密です。また確証こそつかめていませんが、コカインなどの密輸も手掛けているとのことです」
「ガチだな」

 俺はそいつを――アンディの行動を見た。

 四十代半ばで、一目で分かるブランド物のスーツを着ているが、どう見ても堅気には見えない。
 一昔前のヤクザって感じの男だ。

 酒、女、権力。
 見ようによっちゃはっきりしている、気持ちのいい男かもしれない。

 が、そう思ったのはそれまでだった。

『ご、ごめんなさい!』

 ドレスを纏った女が一人、慌ててアンディに謝りだした。
 酒をこぼしたのだ。

 手を滑らせてぶちまけた酒がアンディのズボンと靴をぬらした。

 あれほど騒がしかったのが一瞬で静まりかえった。
 関係のない離れた場所にいた他の客も、異様な雰囲気を察して、踊るのをやめて固唾をのんで成り行きを見守った。

『本当にごめんなさい! 今すぐお拭きします』
『ん』

 アンディは濡れた方の靴をテーブルの上に投出す。
 やらかした女は慌てて立ち上がるが、手首を捕まれる。

『どこに行く』
『え? ぞ、雑巾を取りに――』
『雑巾はテーブルと床を拭くもんだ。そうだろ?』
『は、はい』
『お前が汚したのは靴だ。床に雑巾、靴には?』

 アンディが言うと、彼の取り巻きの何人かがニヤニヤと笑い出した。
 なんだ? どういうことだ?
 って、思っていると。

『すみません! 気づくのが遅くなりました』

 女は慌ててアンディの横でひざまづくなり、彼の靴を舐めだした。

 床に雑巾、靴に舌。

 言外にそう言い放ったアンディは見下しきった目で自分の靴を舐める女を見た。

 周りは更にニヤニヤした。
 声を出して何かを言うことは無かったが、アンディの部下らしき連中はその光景を見てにやにやした。

 胸くそ悪い光景だ。

 こんなの見てられない、と俺がここから立ち去ろうとすると。

『き、綺麗になりました』
『ん、それじゃあ謝ってもらおうか』
『え?』
『何を驚いてる。汚したのを綺麗にしただけだろ? まだ謝ってもらってないぞ。それとも俺がまちがってるか、んん?』
『い、いえ! すみませんでした!』

 女はパッと立ち上がって、直角に頭を下げた。

『それだけか?』
『わ、私にできることならなんでもしますから』
『いい心がけだ。おい』
『うっす』

 アンディが顎をしゃくると、部下の一人、ガタイのいい大男が立ち上がった。

 アンディの部下はニヤニヤしたまま道を空け、他の客は固唾をのんだまま道をあけた。
 立ち去ろうとした俺もとどまって、事態を見守った。

 アンディの部下は木製の椅子を持ち上げると、それを床にたたきつけて、足を一本へし折った。
 それを持ってもどって、女に渡す。

『こ、これは?』
『四本足で動くものは椅子以外何でも食べる、っていうのを聞いたことはないか?』
『は、はい』
『俺たちは何でも食べるが、椅子はさすがに食べない。本当に謝罪する気があるのなら、できない事もできるだろ?』
『えっ……』

 驚く女、混じりが避けるくらい見開かれる。

 ニヤニヤする部下たち、冷笑するアンディ。

 そいつはこれにかこつけて、女をおとしめようとしている。

 互いの立場、力関係の差が歴然としているのか。
 女は泣きそうになりながらも、おずおずと、椅子の脚を口元に運んだ。

 口を開けて、それを噛もうとしたその時。

 パリーン!

 ガラスの割れる音がフロアに響き渡った。

「か、カサマさん!?」

 驚くアルベルト。
 止めたのは俺だった。
 飲みかけのグラスを思いっきり床にたたき割った。

 注目が集まる、ゆっくりと立ち上がる。

『なんだ、お前は』
『なんだっていい。今すぐそれをやめろ』

 アンディを睨みながら言い放った。

『はっ、格好いいじゃないか。だがな、かっこつけたがりで長生きは難しいもんだぜ?』

 アンディが言うと、屈強な男が二人、左右から同時にうごきだし、俺に向かってきた。

 岩のようなごつい手を出して、俺を掴もうとする。

 サッとよけて、二人の頭を掴んで――ゴツン!
 頭と頭をたたきつけた、お札と鈍い音がフロアに飛びかった。

『なるほど、ヒーロー気取りするだけの事はある。だがな』

 アンディの部下は更に動いた。
 屈強な男達、ヘラヘラと笑っていたチンピラども。

 ざっと数えて五十人はあろうかっていう連中が、一斉に敵意を向けていた。

 悲鳴が飛びかった、関係のない客が一斉に逃げ出した。
 同時にアンディの部下が襲いかかってきた。

 刀を抜いたやつもいる、ビール瓶で割って先端を鋭くして武器にするやつもいる。
 マフィアの構成員、全員が修羅離れしている、遠慮のなさが伺える。

 が、それだけだ。

 そして数も五十程度だった。

 向かってくるヤツを一人ずつ倒していく。
 刀をよけてへし折り、ビール瓶を奪い取って逆に突き刺す。

 広くないフロアにお札が乱れ飛んだ。
 五十人を倒しきるまで五分もかからなかった――そして。

 ダァーン!

 銃声がフロアに響いた、アンディがいつの間にか拳銃を抜いて発砲していた。

『よ、よけただと!?』
『下手な鉄砲だな、いくら撃ってもあたらんぞ』
『ほざけええ!』

 ダァーン! ダァーン! ダァーン!

 アンディは銃を連射した、真っ正面の銃口、トリガーにかかる指もはっきり見えてる。
 当たる道理なんて一つも無くて、俺は銃弾を全部よけた。

『く、くるな! こいつがどうなっても――』

 パチーン!

 アンディはやらかした女、ポカンと椅子の脚を持っている女を人質にとって、銃口を突きつけた。
 もちろん黙って人質にさせるわけがない、というか追い詰めた人間のやる事は既に読んでいる。

 俺は指パッチンでアンディの銃を弾いた。

 すぐさま突進、女を解放しアンディを締め上げる。

『うぐっ……や、やめてくれ……。俺が悪かった』
『なるほど、悪かったって認めるのか』
『あ、ああ。なんでもするから――』

 俺は女から椅子の足を取り上げて、アンディに突き出す。

『謝るつもりがあるんなら、できない事もできるようになる、だろ』
『うっ……』

 自分の言葉をそのままそっくりかえされて、アンディは言葉を失った。

『そ、それだけは勘弁してくれ。他に出来る事なら何でも――そうだ、金、金だ』
『金か、まあ、そうだな』

 俺はアンディをはなしてやった。

『そこまで言うのならちゃんと誠意を見せてくれるんだろうな』
『ああ、もちろんだ』
『わかった、期待してる』

 振り向く俺。女と、アルベルトの驚く顔が見えた。
 それで許すのか!? ってのが言われなくてもはっきり分かる顔だ。

 が、それも一瞬だった。

『あの世にたっぷり送ってやるよ!』

 俺が振り向いた瞬間、アンディは予備の銃を取り出して俺に突きつけた。
 当然、予測していた。
 俺は振り向かないまま、指パッチンでその銃も叩き落とした。

 そうしてから、ゆっくり振り向く。
 アンディの顔が青ざめていくのが見えた。

『よかったよ』
『えっ?』
『お前がちゃんとした悪党で。おかげで心を傷まずにすむ』
『や、やめ――うぐっ!』

 俺は椅子の脚をアンディの口の中に突っ込んで、顎と頭を掴んだ。
 思いっきり押した、上下から力を加えて、無理矢理噛ませて(、、、、)やった。

 バキバキバキ――歯が砕ける音がした。

 悲鳴が漏れる、砕けた歯と血が飛び散る。

『まだまだ、ちゃんとたべてくれよな』

 俺は更に力を加える。
 根っからの悪人のそいつを、歯が全部折れて気絶するまで、椅子の脚を噛ませ続けてやった。
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