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虐げられた救世主の俺は異世界を見捨てて元の世界で気ままに生きることにした 作者:三木なずな

第二章

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18.トドメ

 エグゼクティブ1のキャビン、俺と志穂の二人っきり。
 二人でテーブルの上に置かれているスマホと向き合っている。

「聞こえるかシロ。出てこれるのなら出てこい」

 スマホに向かって呼びかける、すると液晶画面の中――ではなく、その上に浮かび上がるようにして白ウサギのシロが現われた。
 異世界にいたときによく見た光景だ。

 まるでスマホが魔法陣で、シロはそこから召喚されたような光景。

「求めに応じ、シロ参上いたしました」
「やっぱり出てこれたか」
「体感としては、向こうの世界にいるときとほぼ同じでございます」
「って事は移動も出来るのか?」
「おそらく」

 シロはそう言って、ウサギなのに器用にスマホを背中に背負い上げるようにして、その状態でテーブルの上を歩いてみた。

 ネギを背負ったカモもとい、スマホを背負った白ウサギだ。

「か・わ・い・いーーーー」

 シロがテーブルの上を歩き回る姿を見て、志穂が(いい意味で)壊れた。
 目をキラキラさせて、しゃがんでテーブルにがっついて、シロと視線の高さを合わせる。

「風間さん、これって? これって?」
「落ち着け、語彙力が低下してるぞ?」

 シロをさした指をバタバタさせる志穂、確実に幼児退行を起こしている。

「一言で言えば電子の精霊で、俺のスキルだ。ああ、これも内密にな」
「はい! すごい……かわいい……すごい……かわいい……かわいい……」

 やっぱり語彙力の低下が著しい志穂。その原因はやっぱりシロの可愛さなのはつぶやきからもはっきりと分かる。

 彼女はみているだけでシロに触ろうとする気配はないので、とりあえず放置して、シロに話しかけた。

「向こうと同じようによりしろからは離れられないんだな」
「そのようでございます」
「となると他に制限も一緒だな」
「はい、ご主人様のこのスマホが破壊されても、新しいスマホを用意していただければそれが新しい依り代になります」
「依り代が量産品でよかったってことか」
「さようでございます」

「よし。それなら……これからネット上での俺のアカウントとかの管理は全部任せる。取られないように管理しててくれ」
「御意」

 悪気はないとは言え、涼介にアカウントを取られたのはちょっと痛手だった。
 アレがなければもう少し楽に事を進められたかも知れない。

 いや、今となっては涼介に一度取られたのはむしろいい。
 こうして悪用される前に対策をとれたのだからな。

 悪用……か。

「よし。シロ、もう一回ネットにダイブするぞ」
「承知いたしました。何処へ向かいますか」
「戸籍をちょっといじってくる」

     ☆

 再度やってきた電子の海、シロの案内ですぐに目的のドアを見つけた。

 ものすごく仰々しいドアだ、大きくて、分厚くて。
 押しても引いても開きそうにない、そんなイメージのドア。

「物々しい雰囲気でございますね」
「そりゃな。政府機関、戸籍を扱うスーパーコンピューターの類だ、そりゃ物々しいはずだよ」

 俺は一歩踏み出し、とりあえずドアに手を伸ばして触れてみようとした――

「――っ!」

 とっさに地面を蹴って、大きく飛び下がった。
 手を伸ばした瞬間何かが光ったのが見えた。

 よけた俺、元々立っていた地面が「溶けた」。

 よく見ると、

「レーザーか。ここを守ってるのは近代兵器なんだな」
「ご主人様のイメージを視覚化したものでございますから」
「レーザーとやり合うのは難しいな」
「イメージ変更をなさいますか?」
「できるのか?」
「もともとこういうものではございませんので」
「そりゃそうだ」

 俺は納得した。

 ここは電子の海、目の前のドアは多分ただのパソコンじゃなくてスーパーコンピューターの類だ。
 そのセキュリティシステムも、物理的な何かではない。

 俺がドアをたたき割れば、スキルはそれを翻訳して、セキュリティのファイヤウォールを突破した事にする。

 そのイメージを「翻訳」するのがスキル・仮想空間だ。
 そう考えればイメージ変更は多分、

「強く念じればいいんだな」
「さようでございます」
「よし」

 俺は目を閉じて、強く念じた。

 レーザーを放つ現実世界のものから、俺がここ数十年いた、割と慣れ親しんだ異世界のイメージにかえるように念じてみる。

 しばらくして、目を明ける。

「うお!」

 ちょっとびっくりした、いや納得もした。

 目の前あったレーザーの発射装置は巨大なドラゴンに変わった。
 一戸建ての家と同じくらいでっかいドラゴンだ。

 政府機関のスパコン、それを守るセキュリティシステム。
 強靱なドラゴンはイメージ的に納得だ。

 が。

「うん、強いけど……こいつなら戦いやすい」
「手伝いますか」
「いや、何とかなるだろ」

 スキルを確認――先手必勝。

 まずは先制攻撃を活かすために突っ込んだ。
 ドラゴンは鋭い牙の口を大きく開けて炎を吐いてきたが、それをよける。

 近接戦闘レベル9、攻撃力アップ(回避)レベル6、カウンター、先制攻撃。

 もろもろ乗算の乗った状態でドラゴンの顎を蹴り上げた。
 ドラゴンは苦悶の音を漏らし、足が地面から浮いて飛び上がる。

 すかさず追撃、飛び上がったあわせた手でハンマーパンチ。ドラゴンの脳天を思いっきり叩く。
 ドラゴンの巨体が地面に叩き落とされる。

 めり込んだ地面からドラゴンのかぎ爪が飛んで来た。

 着地する前に一瞬を狙われて、ドラゴンにつかまった。

「グルルルル……」

 低いうなり声を上げるドラゴン、血走った目が爛々と燃え盛っている。

 爪がキリキリと俺の体を締め上げてくる、が。

「はあっ!」

 全力を出して、力任せでそれを振りほどいた。
 人間に力負けしたドラゴン、驚愕の表情を浮かべる。

「悪いな」

 俺はすかさず地面を蹴って、ドラゴンの顔の高さに飛び上がった。

「向こうのドラゴンはポイントが美味しいから、毎日のように狩ってたんだ」

 そう言って、思いっきりドラゴンを殴り飛ばした。

 吹っ飛ばされたドラゴン、グデッとして立ち上がれない。

「お疲れ様ですご主人様」
「こっちでもポイントはないのか」
「向こうでもございませんでしたので、予想出来ていたはずでは?」
「まっ、それだな」

 シロの言うとおり、幻想空間の中では異世界にいたときも何かを倒した時にポイントはつかなかった。
 ちなみに使ったポイントも元の世界に戻ったとき戻ってくる。

 スキルとスキルポイントは、幻想空間の中ではある意味練習モードである。
 稼げはしないが、試しにスキルをとって試すにはいい場所だ。

 異世界で一通り試したので必要は薄いが、こっちでも同じだって事は覚えとこう。

「さて、ここから先は頼む」

 思いっきりドアを殴って壊して、シロにいう。

「はい、何をすればいいのでしょう」
「架空の戸籍を作って、最重要機密に指定してくれ。今回の件で、そのうち敵がネットを使ってパンドラを探ろうとするはずだ。できるか?」
「造作も無いこと」

 シロはそう言って、ドアの中に入る。
 後は任せれば大丈夫だな。

     ☆

「あっ! お帰りなさい風間さん」

 現実世界に戻ってくると、メイド姿の志穂が俺を出迎えた。
 俺はキャビンのソファーに座ったまま、スマホを握っている。

 そのスマホをテーブルに置くと。

「大変です風間さん」
「うん? どうかしたのか?」
「SNSとかみてたんですけど、いろんな会社が公式アカウントで発表してます」
「発表?」
「はい! 今回の事件には触れてないですけど、みんな揃って、今後はあの新聞に広告出さないし、スポンサーにならないって」
「へえ」

 俺は置いたばかりのスマホを取って、ネットを見た。
 確かに志穂の言うとおりの流れになっていた。

 しかもかなりの大事になっている。

 まとめサイトでは、最近の新聞で広告を出してる会社と、スポンサー撤退を表明した会社をリストアップしていた。

 それを見ると、9割近くが撤退を表明している。

「これどうなるんですか?」
「まあ……つぶれるだろうな」

 新聞社からこれだけのスポンサーが逃げ出せば、先はもう長くない。

「トドメを刺しておくか」

 俺はそう言い、文面を考えた。
 後ろめたい事の無い会社には何もしない、というパンドラの声明文を。

 行間ではっきりと「ある所からこの新聞社のように暴いていく」と読めるようにして。

 それを戻ってきたシロに言って、発信してもらう。

 効果は絶大だった。
 残った一部のスポンサーも逃げ出して、例の新聞社は、事実上破綻で、終焉まで秒読み状態になった。
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