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虐げられた救世主の俺は異世界を見捨てて元の世界で気ままに生きることにした 作者:三木なずな

第二章

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10.心の歓声

 夜の埠頭、俺の周りに十数人の男達が転がってきた。
 全員一撃で意識を刈り取って、白目を剥いたり泡を吹いたりしている。

 倒した時にでた現ナマが未だヒラヒラと宙を舞っている。

 こいつらは全員チンピラ、その証拠に倒しても最低保証の2ポイント入っただけだ。

 残った相手は一人、身長は低く横に広く、だるまの様な体型をした男だ。

 男は車のトランクケースの前に立っていて、トランクケースの中にアタッシュケースがいくつも積まれている。

「て、てめえ、どこの組のもんだ。まさかサツか!?」
「それが覚醒剤か」

 男の質問を無視して、逆にこっちから質問を投げかける。
 男は答えなかったが、読心で間違いないと確認した。

「てめえ、こんなことしてタダですむ――」

 問答無用。
 俺は一瞬で肉薄して男の背後に回り込み、首筋に手刀を落とした。

 ――スキルポイントを4獲得しました。

 ポイントは4か、まあ、こんなもんだ。

 全くの偶然だった。
 歌舞伎町でチンピラ狩りをしてたら、チンピラの一人から読心で夜覚醒剤の取引がある事を知った。
 知ったからには見過ごせなくて、場所と時間を聞き出してやってきて、さくっと取引する両方を倒した。
 あらかじめ用意した縄で全員縛りあげて、警察に連絡する。

 パトカーがやってきたのを確認してから、透明人間でこの場から立ち去った。

     ☆

 翌日の朝、エグゼクティブ1の中。
 キングサイズのウォーターベッドで目を覚ました。

 ちなみにベッドは新しいものだ。
 前に新井の一件でエグゼクティブ1に傷がついて、それを直したもらった時に入れ替えてもらった。
 金は何百万かかかったが、クリアボーナスの引き継ぎ資金はまだまだあるから問題ない。
 それよりもこのベッドはものすごく寝心地がよくて、目を覚ましたが、ついついそのまま二度寝してしまった。

「大変! 大変です風間さん!」

 キャビンのドアの音がして、次いで志穂の足音がバタバタと車内に響いた。
 メイド服姿の彼女は血相を変えた様子で部屋に駆け込んできた。

「おはよう志穂。どうした」
「大変です風間さん! これ!」

 志穂は新聞を差し出した。
 受け取って一面を見る、そこに映画さながらのアクションな写真が掲載されていた。

「朝刊の一面らしくない写真だな……って札束舞ってる――俺か? これ」
「はい!」

 一気に目が醒めた。
 写真は間違いなく俺、昨日埠頭でチンピラ達をしばいた俺の姿だった。

 記事もそう書いている、末端価格十億円の覚醒剤取引を検挙したのは警察ではなくパンドラ、と。

「撮られてたのか……」
「こ、これ大変ですよね」
「うーん」

 志穂が慌てた理由は分かった。
 こんな形でブン屋にすっぱ抜かれるとは思わなかった。

「これだけなら大丈夫だろ。上手く撮れてるが、顔は映ってない」
「あっ、本当ですね」
「幸いというかなんというか、俺は見た目ならその辺にいるサラリーマンとそんなに変わらないから。この写真だけなら問題ないだろ」
「ほっ……」

 あきらかに安堵する志穂。

「あっ、ごめんなさい取り乱してしまって。すぐに朝ご飯の準備をしますね」
「ああ、頼む」

 メイドの仕事に戻る志穂、俺はベッドの上であぐらを組んで、新聞を眺めた。
 志穂にはそう言ったが、他に隠し球がないか、確認してきた方がいいな。

     ☆

 朝ご飯の後、俺は一人で新聞社にやってきた。
 ロビーに入って、受付に新聞を見せる。

「この記事を書いた記者に会いたい」

 といいながら、「自由訪問」スキルを使った。

 効果が出るかは五分と五分、ダメなら一歩下がって名前をゲットしてから出直そう……と思ったんだが。

「関は外出しております」

 受付嬢が答えた。
 スキル、自由訪問。
 相手がアメリカ大統領だろうがローマ法王だろうが、どんな人間にでも邪魔されずに会えるスキル。

 どうやら、名前を知らなくても、「この人間」だと認識してればスキルは効果を出せる様だ。

 とは言え出かけてるのでは会いようがない。

「関って言うのは」
「はい、関裕子記者です」
「女か!」

 それはちょっと驚いた。
 記事の書き方が妙に熱血っぽくて、てっきり男だと思い込んでいた。

 しかしスキルが作動したのならその情報に間違いは無い。
 名前もゲットしたし、改めて出直そうと、俺は新聞社を出た。

 来た道を引き返して、パーキングに止めた車の方に向かう。

「……」

 すぐに気がついた。
 新聞社を出てから誰かにつけられている事に。

 念の為に意識して気配を探る、止まったりして向こうの様子を見る。

 ふむ、つけてるのは間違いないけど、素人ってところか。
 誰がなんのためにつけてきたのかは知らないが、見過ごすわけにも行かない。
 俺は普通に歩いて、角を曲がった所で「透明人間」レベル2を使った。

 透明になって、その場でしばらく待つ。
 すると。

「えっ? いない!?」

 同じように角を曲がって、追いかけてきた尾行の相手が俺を見失ったこと驚いた。
 俺も驚いた。

 相手は女だったからだ。
 スーツを着ているが、セミロングの髪型に童顔な顔の作りがアンバランスだ。

「一本道なのに何処に……」

 女は周りをきょろきょろした。
 大真面目な顔で空も見あげた。

 そうこうしてるうちに透明人間レベル2の効果時間二十秒が過ぎて、俺は姿を現わした。

「よう!」
「ひゃあ! ぱ、パンドラ」
「……へえ」

 俺は目を細めた。
 俺を見た瞬間そう呼ぶのか、ますますつけてきた理由を聞かなきゃいけなくなったな。

 さてどう聞こうか、まずは質問しつつ読心だな――って思っていたら。

「記事を読んでくれたんだね!」
「……へ?」
「記事よ! 私の記事を読んでくれたから社に来たんでしょ?」
「……ってことは、あんたが関裕子、か?」
「もう私の名前も調べあげてるの? さすがパンドラ!」

 裕子は目を興奮気味にいった。
 横を通り過ぎた通行人が「何こいつら」って目を向けてきた。

 まずい、邪気とか悪意は感じられないが、このままじゃ色々まずい。

「とりあえず場所を変えよう」
「うん!」

     ☆

 聞かれたらまずい話になるかも知れないから、出来るだけ人気の無い所を探した。
 広めの神社、その境内。

 都心部にあってここからでも車の音が聞こえるが、神社だからか、人気はまったくなかった。

「あえて嬉しいよパンドラ! 私――」
「待て待て、そのパンドラってのはやめろ」
「でもそうなんだよね!」

 まっすぐな瞳、つい押し切られてしまった。

「……そうだが、あまり多くの人間に知られたくはない。名前で呼んでくれ」
「パンドラがそう言うなら……でも私名前知らない」
「知らないのか?」
「うん!」
「じゃあなんで俺がパンドラって?」
「声が一緒だったから。仕事で盗聴する時もちょこちょこあるから耳はいいんだ!」
「……そうか」

 そういうことなら否定してもあまり意味はないな。

「ねえ! もっとパンドラ――あっ」
「風間、風間シンジだ」
「シンジさんだね! もっとシンジさんの事聞かせて!」
「聞いてどうするんだ?」
「記事にするの!」
「悪いがそういうことなら協力できないな。俺は表にでるつもりはないんだ」
「えええええ!?」

 盛大に驚く裕子、ひっくり返らんばかりの勢いだ。

「そんな! ダメだよ! シンジさんはもっともっと表に出なきゃ! ――見て!」

 裕子はガサゴソと、自分のカバンの中から一枚の写真を撮りだした。
 俺の写真、朝刊一面に載った、俺がチンピラをしばいた写真だ。

「すごいでしょこれ!」
「ああ、よく取れてるな」
「そうじゃない! むしろだめなの! いっぱいシャッターを押したけどまともに撮れたのこの一枚だけなの――じゃなくて!」

 裕子はタン! と地面を踏んで、話を強引に切り替える。

「すごいでしょ、私、これをみた瞬間聞こえたの!」
「聞こえた? 写真で? なにを」
「歓声」
「そう! 今も聞こえる! 全世界がパンドラを称える声が! この写真を見た瞬間聞こえてきたの!」
「……」
「シンジさんは表にでて、ヒーローとしてスポットライトをもっと浴びるべきだよ!」

 なんだろうこの子。
 やたらと持ち上げてくるが、話が突飛すぎる。
 そういうキャラを演じて俺を油断させようとしてるのか?

 確認の為、読心で――。

「――っ!」

 瞬間、くらっときた。
 裕子の心の声を読んだ瞬間、ものすごい音が流れ込んできた。

 歓声。
 最初は音の洪水で理解できなかったが、しばらくしてそれが裕子の言う「歓声」だって気づいた。

 裕子の心の中にはものすごい歓声が沸き上がっている。

「ど、どうしたのシンジさん!? 大丈夫」
「いや大丈夫だ。お前……」
「はい!?」

 いまの「はい!?」は裕子をよく表している様な返事だった。

 驚きの「!?」じゃない、これまででだいぶ分かった彼女の元気の「!」と、俺が言いかけた言葉に対する疑問の「?」。
 それが一遍にでた、彼女特有の「はい!?」だ。

 とりあえず、裏も悪意もないようだ。

「断る、俺は表に出るつもりはない」
「そんな! もったいないですよ! シンジさんはもっと称えられるべきなんです!」

 ちょっとだけシュンとして、しかしすぐに元気になる裕子。

「わかりました!」
「分かったって何が」
「私! シンジさんをおっかけます」
「へ?」
「追っかけて、格好良く決めてるところを記事にして日本中――ううん、世界中のみんなに知らせます!」
「いやそれは……」
「本当の事ならシンジさんとめませんよね!」
「うっ」

 言葉に詰まった。
 なんというか、確かにだ。

 マスコミの偏向報道はアレだが、俺の事、しかも事実を報道するっていう事ならとめる正統な理由がない。

「やっぱり! パンドラはパンドラだね!」

 まっすぐな明るい笑顔を浮かべる裕子。
 なんとか……押し負けた。

 邪気のない裕子に押されまくって、押し切られてしまった。

「こうしちゃいられない、シンジさんの動きを捉えられるカメラマンをスカウトしなきゃ! それじゃ! また!」

 裕子は意気込んで、俺の目の前から風の如く去っていった。

 こうして、俺に追っかけが出来てしまったのだった。
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