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虐げられた救世主の俺は異世界を見捨てて元の世界で気ままに生きることにした 作者:三木なずな

第二章

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06.痴漢えん罪

 昼間、街でぶらぶらしている俺はふと、騒ぎになってる現場に出くわしてしまった。

 騒いでいるのは駅のホーム、線路越しに駅の外からも見えるホームで、一人のサラリーマンが複数のサラリーマンに取り押さえられている。

 そのサラリーマンの目の前に一人の若い女がいて、その女がわめいている。

「痴漢するヤツなんか絶対に許せない!」

 女が大声で言うと、ホームにいる人間達が一斉に捕まえられているサラリーマンに注目した。
 中年のサラリーマン、切ない事にハゲがかなり進行している。
 それと合わさった下っ腹もでているもんだから、その見た目のせいで、周りからは有罪判決を下された様な目で見られていた。

「違うんだ! 俺はやってない!」
「嘘だよ! あたしみたもん、あんたのその手があたしのお尻をまさぐってるのを」
「俺も見た、つうか見苦しいぞおっさん」

 被害者の女がいうと、取り押さえている若いサラリーマンの一人が言った。
 ますます信憑性が上がった、って空気になる。

 女は一言で言うと若いギャル風な見た目だが、証言をした若いサラリーマンは真面目そうな外見だ。

 真面目な第三者の証言がおっさんを追い詰める。

 痴漢か……。

 俺は少し考えて、読心スキルを使った。
 勘、なのだ。
 この空気がいかにも養殖(、、)っぽくて気に入らない。

 だから俺は、被害者の女の心を読んだ。

『もうちょっと脅かしてから金せびろ』

 思った通りだった。
 痴漢でも何でもなくて、痴漢えん罪だった。

 空気がそもそもおかしいんだ。
 本当に悪いことをして悪者になった人間とその周りが出す空気と、えん罪に仕立てあげられた無実の人間と周りの空気じゃ全然違う。

 今回のは後者っぽかったから読心してみたらドンピシャだった。

 うん? 待てよ。
 そうなると証言はどういうことだ?

 おっさんを取り押さえ――羽交い締めにしている若いサラリーマンの心も読んだ。

『いいぞ(さき)、もっとおっさん追い込め。周りはもう全員おっさんがやったって思い込んでる』

 ってグルかよ。
 若いサラリーマンの声は相手の女の事を名前で呼んでいた、あきらかに知りあいだ。

『この後は……えっと、咲のLINEはなんて書いてたっけな。そうだ、適当な所で俺は引き上げた。知りあいだってばれたら意味ないからな』

 男の心の声が更に聞こえてきた。
 なるほど、LINEで打ち合わせをしてたのか。

 俺は透明人間スキルを使って、線路を越えてホームに上がった。
 若いサラリーマンの横をすり抜けつつカバンからスマホを抜き出して、その上で耳元で「パスワード」とサブリミカル的にささやいた。

 男が心の中で一瞬思い浮かべたパスワードを覚えて、離れた所で男のスマホのロックを解除。
 LINEを見る――真っ黒だった。

 女とは直前までスマホでやりとりしていた。
 痴漢えん罪ではめる打ち合わせから、電車の中で「カモ」を物色するやりとりまで。
 今すぐ二人をはったおしたくなるくらい、胸くそ悪い内容のやりとりだ。

「だったらやってない証拠出しなさいよ」
「そ、そんなの悪魔の証明……」
「はあ? こっちはちゃんとこの目で見てるんだし、他に目撃者もいるんだよ」
「そうだ、おっさん見苦しいぞ」

 連中は更におっさんに追い込みをかけていた。
 おっさんは言い返そうとしたが、周りの目がつらくなってきたのか、どもりがちになって、徐々にうつむき加減になっていった。

 完全に飲まれたおっさん、やがて。

「た、頼む。警察だけは辞めてくれ。なんでもするから、この通り!」

 羽交い締めにされたおっさんの心が折れた。
 警察に突き出されるのだけは避けようと女に懇願をし始めた。

『最初からそうしてりゃいいのよ。余計な手間かけさせて。さーて、いくらふっかけてやろうかしら』

 最後に読んだ女の心の声は胸くそ悪いことこの上無いものだった。

 俺は少し考えて、男のスマホから女に電話をかけた。

 勝ち誇った顔でおっさんに詰め寄る女、そこにいきなりなりだしたスマホ。
 女は自分のスマホを取り出して画面を見ると、パッ! と若い男をみた。

『ちょっとなにしてんのよ、なんで電話かけてきてんのよ』
『え? どうしたんだ咲いきなり俺の事を睨んで』

 俺はパチン、と軽く指を鳴らした。
 衝撃波で女の指を軽く動かして、画面をタッチさせて電話にでた。
 そして通話が成立した男のスマホをスピーカーモードにして、男の足元にそっと落とす。

「どうしたんですか」
「な、なんでもない」
『どうしたんですか』
『な、なんでもない』

 周りの人間が被害者の女といたわる言葉と、女の返し。
 両方が少し遅れて、男の足元のスマホからスピーカーモードで流れた。

 一瞬周りが静まりかえった、そして頭の回転が速い野次馬の一人が。

「あんた、この女の人と知りあいなのか」
「え? いやそんなことは――」

 若い男は慌てだした。
 周りはざわざわした。

 そりゃそうだ、明言したかどうか分からない(俺は途中からしか見てない)が、男の振る舞いはどう見ても「善意の第三者」、正義感にかられたサラリーマンのそれだ。

 だから証言は信憑性を帯びた。
 それがもし知りあいならまったく一変する。

「そ、そんなの関係ないでしょ! 今はこのおっさん! このおっさんがあたしのお尻を触ったの!」

 女も慌てて、とにかくおっさんが悪いと言い張りだした。
 周りの空気が完全に変わった、流れが変わってきた。

 俺は、そっと人混みの中に紛れてひとことつぶやいた。

「俺みてた、その二人が電車に乗り込んだとき『LINEで打ち合わせした通り』って言ってたの」
「嘘よ!」
「そんな事はいってない!」

 男と女、二人は同時に否定するが、空気は更に変わった。
 男は今まで羽交い締めにしてるおっさんを放りだして自分のスマホを拾おうとした――が、俺は男の手を捕まえた。

「誰かそのスマホを確認してくれ」

 俺が言うと、別のサラリーマンが男のスマホを拾い上げた。
 ざっと操作すると、ものすごく怒った顔で。

「本当だ! こいつらグルだ! LINEではめる打ち合わせしてた!」
「そ、それは俺のスマホじゃねえ!」

 男は言い逃れしようとしたが。

「ちょっとあなたのスマホを見せて下さい」
「やだよ、なんであたしがそんなことを」

 女の方も、別の女性が詰め寄った。

 パチン、指を鳴らして遠距離攻撃の衝撃波でスマホをはたき落とす。

 取り落とした女のスマホを問い詰める女性が拾い上げて……操作した。

「『適当な所で引き上げて、そこからはあたしが上手くやるから』」

 読みあげると、男のスマホを持った別のサラリーマンが。

「同じだ! ほら!」

 とスマホを周りに見せた。
 男のスマホを見てない別の女性が読みあげた文章、男女がグルで繋がっている状況証拠(、、、、)

 流れは完全に変わる、もはや痴漢ではなく、えん罪が発覚してグルの男女が非難されていた。
 被害者のおっさんはまだ半分放心しているが、他の男はかなり怒っていた。
 痴漢えん罪、笑えない話だ。

「は、話になんない! あたしもう行くから!」
「ちょっと待ちなさい」

 女は別の女に手首を捕まれた。
 野次馬の中から一人の男がおっさんに話しかける

「すみません私こういう者です」
「弁護士……さん」
「あなたがもしこの女性を告訴したいのなら全面的に協力させて頂きます、いかがでしょう」
「訴えろ! 俺証人になるぞ」
「俺証拠提供する、電車降りた後のことは全部録画してる」
「はめようとしたそいつらを許すな!」

 空気が完全に変わって、えん罪をしかけた二人を糾弾するものになった。
 痴漢えん罪の発覚が、痴漢よりも一段階上の義憤を引き出した。

「……訴えます! 二人を」

 周りに後押しされて、決意したおっさん。
 同時に青ざめる男女。

「よかったなおっさん」
「はい」
「お、お願いですから訴えるのはやめて下さい」
「悪い事はできないもんだな。神様はみてるんだよ」

 見てたのは神様じゃなくて俺だけどな。
 とそんな事を思いつつ、ハッピーエンドで終わったえん罪事件を尻目に、俺はそっとその場から離れた。
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