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虐げられた救世主の俺は異世界を見捨てて元の世界で気ままに生きることにした 作者:三木なずな

第二章

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03.秘書の代わりにやりました

 久しぶりにエグゼクティブ1を運転して、山道を走っていた。

 まるで飛行機かスペースシャトルか、そんな「コクピット」のような運転席でハンドルを握ってるのは俺、横にはメイド服姿の志穂と、ファッション誌の撮影を終えたばかりの美海がいた。

「す、すごいね……この景色。山道をこんな高さから見下ろすのはじめて」
「だろうな、この運転席は普通の建物の二階の高さにあるからな。そりゃ景色もすごいさ」
「に、二階!? だからこんなに揺れるんですね……地震の時も高い階層の方が揺れますし」

 驚きつつも納得する志穂、だったが。

「いやそれは俺のせい、こいつで山道走るのは初めてだから、運転不慣れなんだ」
「えええええ!?」
「は、はじめてなんですか? 大丈夫なんですか?」
「安心しろ、崖の下に落っこちても二人をつれて脱出するくらいは余裕だ」
「なるほど……」
「シンジさんかっこいい……」

 二人がうっとりした目で俺を見る。
 美女、美少女にこんな目で見られるのは悪い気はしない――いやむしろ好きだ。

 わざと跳び降りて二人をつれて安全に大脱出! するのも悪くないかもってちらっと思った。

「でも、どうしてこの車で? 今から温泉にいくんだよね」

 美海が思い出した用に聞いてきた。

「ああ」
「それならこの車に積んでる車……言ってて頭おかしくなってる、そっちでよくない?」
「今から行くところって宿のない秘湯らしいんだ」
「あっ、だから部屋ごと行くんだね」
「そういうことだ」

 ついでにスキルポイント稼ぎもかねてる。
 宿もないような秘湯だと、人気が無くて、野生動物とかいっぱいいそう。

 こっちの世界に戻ってきたとき、スキルポイント稼ぎにまず思いついたのがチンピラ退治と熊退治だ。
 でもその後、蜂の巣を見つけて、それで大量にポイントを稼げた。

 異世界だと稼ぎ方がよく分かってる。
 モンスターが普通にいるし、ゲームみたいな話だが無限沸きのスポットもある。
 でもこっちの世界での稼ぎ方は、「発想が貧困」だ。

 だからいろんな事をして、非日常な体験の中で見つけていこうと思った。
 そのための温泉だ。

 最初は志穂と二人だけで行こうと思った、エグゼクティブ1を乗せて行くんだから当然志穂もついて行く。
 それが出発前に遊びに来た美海がくっついてきた訳だ。

 まあ、美少女に温泉、悪い組み合わせじゃない。
 志穂も美海も、スタイルはいい方だしな。

「あれ?」
「どうした」
「あれみて下さい風間さん、すごい勢いで横を抜いてった車が」
「本当だ。峠でも攻めてんのかあれ――って!」

 呆れだった感想が一瞬で驚きに塗りつぶされた。
 エグゼクティブ1の横を猛スピードで追い抜いていった乗用車が猛スピードのままカーブに突入し、ガードレールを突き破って空中に飛び出していった。
 既に放物線を描いて、崖の下に向かっている。

「ちっ!」

 俺はブレーキを踏みつつ、窓を開けた。
 問題なく止まったエグゼクティブ1から飛び出して、破られたガードレールを跳び越えて車をおった。

「風間さん!」
「シンジさん!」

 二人の声を背に、落ちていく乗用車の天井に張り付く。
 落下が始まっている、もう時間が無い。

「おいお前! 大丈夫か!」

 運転席にいるのはまだ三十代の青年だった、顔はハンドルに突っ込んでいて、微動だにしない。

「はあああああ!」

 指を揃えた手刀で車の天井を貫通した、その後缶切りの要領で天井を引っ剥がす。
 シードベルトもつけてない、文字通りの自殺志願者の男を担ぎ上げて、車をけってジャンプ。

「ふん!」

 崖に向かって飛んだおれは、思いっきり崖を殴った。
 拳が崖に突き刺さって、それが杭の役割を果たして、俺と男を支えた。

 下から爆発音が聞こえた。
 火の手が上がる、男の車が炎上した。

「まったく……」

 俺は呆れつつ、意識のない男を担いで、崖の壁をめり込ませるのを繰り返して、上に上がっていった。

     ☆

「すごい……風間さんまるで映画みたい」
「映画じゃないよ、もうマンガだよ。超人だよ」

 エグゼクティブ1に戻って、意識のない男をキャビンのソファーに寝かせると、志穂と美海の二人が目をキラキラさせてきた。

「さっき何かあっても大丈夫だっていったのはこれだったんですね」
「まあな」
「でもあんな風に持ち上げられるのはいやだな。猫か犬の首を掴んで持ち上げる感じだったし」
「相手がお前達ならもう少しやりようがある」
「それってお姫様抱っこ?」

 美海が更に目をキラキラさせた。
 よく見ると志穂は行って来なかったけど、美海と同じような目をしている。

「ああ、それくらいなら」
「わあ……」
「すごい……」

 感心・いや感動する二人。
 二人がそんな風にしていると、男が「うーん」と呻いて、ゆっくりと目をあけた。

「ここ、は……?」
「安心しろ、あの世じゃない」
「……えええ!? そ、そんな!」
「そんな?」

 眉をひそめる俺。
 あの世じゃない、つまり助かったんだ。
 そう言ったんだが、それに対する男の反応は「そんな!」

「まるで死に損ねたって口ぶりじゃないか」
「お、俺は死ななきゃダメだったんです! こうしちゃいられない、今からでも――」

 起き上がろうとする男をソファーに押し戻した。

「どういう事だ、訳を話せ」
「ほっといてくれ! 俺は生きてる訳にはいかないんだ!」
「……」

 男の言葉も気になるが、それ以上に表情が鬼気迫ってるのが気になった。

「何があった」
「だからほっ――」
『俺が死なないと苺が代わりにころされるんだ』

 読心、話にならないからサッと使った。

「苺が代わりに殺される……文脈的に苺って女の子か、代わりに殺される……誰かに脅かされてるのか?」
「ええっ!?」

 驚く男、志穂も美海もおどろいた。
 男は「なんでそれをしってるんだ」って驚きだけど、俺の事をしってる志穂と美海は話の内容に驚いて男を見ていた。

「な、なんでそれを……」
「訳を話してみろ。場合によっては力になれるかもしれん」
「……」

 男の目に迷いが生まれた。
 本当に言ってもいいのか? 目の前の男は助けになるのか。
 そんな目で俺を見た。

 しばらくして、男は観念して語り出した。

     ☆

 男は鈴木幸太、とある政治家の元で秘書をやっているらしい。
 その政治家が最近贈収賄の疑惑をかけられていて、マスコミに追いかけられている。

 と、そこまで聞けば大体予測はついた。

     ☆

「秘書がやりました、か」

 鈴木は静かにうなずいた。

「俺は遺書と一緒に死ななきゃいけなかったんだ。先生に迷惑かけてすみませんって。俺が死ねば全て丸く収まる」

 収まらないけどな。
 事実関係は何一つ知らないけど、政治家の贈収賄疑惑で秘書が自殺したからといって収まる訳がない。

 ただ、黒にもならない。
 グレーのまま話題が次第に風化していくだろう。
 まあ政治家にとってはそれで十分なんだろうが。

「で、お前が死ななきゃお前の娘に何かする、とでも言われたか」
「そう、だから俺は――俺は――」

 鈴木はいきり立って、しかし勢いがしぼんで再びソファーに座り込んだ。
 頭を抱えだした。

 傍から見ても分かる、死ぬ決心が鈍ったんだ。
 娘のために死のうとはした、生き残ってももう一回死のうと駆け出そうとした。

 つまり二回とめられた。
 どんな人間でも、自殺の決意を二回もとめられたら止まるもんだ。
 勢いをつけて死のうとしてるのならなおさらだ。

「一応聞く、死にたいのか死にたくないのかどっちだ」
「え?」
「お前も娘も助かる方法がある、っていったらどうする」
「本当か!?」

 鈴木はパッと立ち上がった。

「ああ」
「――っ! お願いします!」

 鈴木は俺の前で土下座した。
 思いっきり土下座して、大理石の床に頭をこすりつけ――いやたたきつけた。

 娘のために死ねるほどの勢いだ、土下座もものすごい勢いだった。

「わかった、任せろ。志穂、ちょっと行ってくる、留守番を頼む」
「はい、いってらっしゃいませ」

     ☆

 俺は色々考えた。
 贈収賄は確かに大きいネタだが、それを「パンドラ」として暴露されたからといって相手の権力が一瞬で消える訳じゃない。
 それに贈収賄だ、売国と違って、例え真実があきらかになったところ民衆の注目は低い。

 今回の場合、お決まりの政治家入院のコースをへて、再起もあるだろう。

 徹底的にやらないといけない。

     ☆

「な、なんだここは? 何故私が車に乗せられている」

 夜の山道。
 鈴木の雇い主、国会議員である福田哲志が車の中で暴れていた。
 彼は覚えがない、何故車に乗っているのか。

 記憶が曖昧だ、とりあえず雲隠れしようと、家を出て選挙区――つまり地元に戻ろうとしたら記憶がぷっつり切れて、気がついたらこの車に乗っていた。
 しかも、ただのっている訳じゃない。

「な、何故手がハンドルに固定されている! アクセルも!? うわあああ!」

 ドン!
 直進を続ける福田の車がガートレールを突き破って、そのまま落下をはじめた。

「う、うわあああああああ!! だ、誰か助けてくれ!!」

 自由落下するる車、身動きの取れない車内。
 福田は全身の血が抜けていくような恐怖感に襲われ。

 やがて、意識が途切れた。

     ☆

「う、ん……はっ!」

 意識が戻ると、福田はパッと起き上がった。
 が、動けない。
 手は相変わらずハンドルに固定されていて、車は相変わらず直進している。

「な、何だこれは!? どういう事なのだ!」

 パニックになる福田。
 車は直進を続ける、ヘッドライトの先にガードレールが見える。

 必死にハンドルを切ろうとするが、ハンドルは固定されていた!

 何も出来ないまま、福田は再びガードレールを突き破って、恐慌状態の中落下する。

「先生」
「――っ!」

 耳元でささやきが聞こえた。
 男の声、くぐもった声。

「俺と同じようになってください」
「待て、お前鈴木か――」

 パニックになる福田。
 更に加速して落ちていく車の中で、彼は恐怖に心を塗りつぶされ、失禁して気を失った。

     ☆

『本日、贈収賄疑惑をかけられていた福田哲志議員が入院しました』

 エグゼクティブ1の中、100インチのプラズマテレビ。
 俺は志穂、そして美海の二人とニュースを見ていた。

「入院しちゃったね」
「ああ、ガチの入院だな」
「そりゃ入院もするって、あんな風に何回も何回も何回もダイブされたら」
「まるでループする世界だったな」

 ばらしてもどうしようもないと考えた俺は、福田にもダイブしてもらうことにした。

 福田を車に乗せて、手足を軽く固定して、そのまま崖に突っ込ませて落下させる。
 同乗した俺は車が完全におちきる前に気絶させて、そいつを連れて脱出。

 そして用意してあった別の車を使って、更にダイブをさせる。
 それを繰り返した。
 鈴木の怨霊がやった、という風に思考を誘導させて。

 繰り返すこと、ジャスト十回。
 怨霊と終わらないダイブで、福田は心をやられた。
 そしてこの入院である。

 表面上は「政治家お決まりの入院」になったわけだ。

「すっごいなあシンジさん、合計十台の車を使い捨てるなんて」
「うん、本当すごい」

 美海も志穂もそう言うが、金はたいした問題じゃない。
 十台使ったと言っても二千万もかかってない、引き継ぎの金は120億あったんだ、こんなのはした金だ。

 それよりも福田を追い込められた事の方が大きい。

 そう思っていた所に電話がなった。
 番号を確認して、電話にでる。

「もしもし」
『あの……鈴木です』
「お前か。テレビはみたか? いや秘書だから状況はもっとよく知ってるか」
『はい! あの――』
「うん」
『ありがとうございます! 先生が入院したせいで俺への命令もうやむやになりました あなたのおかげで俺も娘も助かりました! 本当にありがとうございます!』
「気にするな、何かの縁だった、ってだけだ」
『あの! 是非何かお礼を――』

 俺は電話を切った。

「あの……よかったんですか風間さん」
「うん?」
「お礼が、って聞こえましたけど」

 俺はニコッと笑った。

「頼まれる時にお願いします、終わった後にありがとうございます」
「え?」
「何かするとき、し終わったとき。それで十分って思わないか?」
「……」
「……」

 そう言うと、志穂と美海は驚いた顔で俺を見た。

 今の台詞は嘘じゃない、本気でそう思ってる。
 向こう(、、、)の連中もそうしてくれたらなあ……って当てつけは多少あるが、本気だ。

「すごい……」
「うん、それにかっこいいよ」

 俺の台詞を聞いた二人は、ますます感動の目でおれを見つめたのだった。
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