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虐げられた救世主の俺は異世界を見捨てて元の世界で気ままに生きることにした 作者:三木なずな

第一章

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18.救世主を追い出して自滅する世界

「おはよう志穂……どうした、やけに上機嫌だな」

 朝起きてキャビンに出ると、メイド姿の志穂がいつにもましてニコニコ顔なのが気になった。
 声をかけられるとますますニコニコ顔になって、俺の方を向いた。

「おはようございます風間さん。これ」
「うん?」

 小首を傾げて、彼女が差し出したスマホを見た。
 彼女のプライベートスマホ、ネットのSNSの画面だ。

「ああ、俺の事か」
「はい! 風間さんが最近成敗した悪党の事です。タグで辿ったらみんな風間さんすごいって言ってるんです」
「なるほど。……それはいいんだけど、タグのパンドラってどういう事だ?」

 やったことである程度の支持を得られるのは想像ついてたからいいが、志穂が話したタグは「#パンドラ」って表示になってるのが気になった。

「風間さんの事なんです。一部の人がそう呼び始めたんです」
「パンドラ? なんでまた」
「今まで箱の中に押し込まれていた悪と災いを晒したから、だそうです」
「へえ、上手いこと名付けたもんだ」

 パンドラの箱を開いた、なんてあんまりいいイメージはないけど、そういう使われ方なら悪い気はしない。
 パンドラか。

 俺はソファーに座り、リモコンでテレビをつけた。
 朝のワイドショー、コメンテーターがいきり立っていた。

『あんなもの正義の使者気取りの悪党だ!』
『そうですよね。日本は法治国家なんですから、警察や裁判所以外が誰かを裁くのはおかしいですよね』
『その通りだ。よしんば本当に罪を犯したとしよう、それでも一般人が取り締まっていいのは現行犯の時だけだ! それ以外はただの私刑。断言する、このシンジって輩はただの自己中心な犯罪者だ!』

 どうやら俺の話だった。
 新井から始まった一連の事件、それに対するコメントだ。

「ひどいですよね! テレビって」

 トレイに乗せた食器、俺の朝食を運んできた志穂が怒りながら言った。

「何処を見ても風間さんが悪者だって言うんです」
「そういうもんだろ」
「でもおかしいですよ!」
「気にするな、そのうち代わるさ」
「……はい、そうですよね!」

 志穂は少しの間を開けて。

「うん、風間さんなら、いずれみんな分かってくれる」

 と、小声で、自分を言い聞かせるようにつぶやいた。
 どうだろうな、と思っていると、志穂のスマホがなった。

「あっ、すみません」
「気にするな。電話か?」
「そうみたいです……ああっ!」
「どうした」
「瑞希さんからです! どうしよう、電話かかってくるなんてどうしよう!」
「落ち着け、深呼吸して電話に出てみろ」
「はい!」

 志穂は言われた通りスーハースーハーと深呼吸を繰り返してから電話に出た。

「もひもひひほれふ!」

 おいおい、盛大に噛み倒してるじゃないか。

『近藤です。朝早くからごめんなさいね』

 そしてどうやらスピーカーにしたようで、かかってきた相手の声が俺にも丸聞こえだった。

『ちょっとお願いしたいことがあるんだけど。風間さんの連絡先、後輩の子がしりたがってるのだけど教えてもいい?』
「こ、後輩れふか?」
『ええ、風間さんに助けてもらった子』
「山下美海か」

 スピーカーになってたから思わず口を挟んでしまった。

『そこにいるのね。ちょうどよかったわ。どうかしら』
「別に構わないけど」
『ありがとう。あの子どうやら風間さんのこと好きになったみたいなの。若いからか押しの強い子だけど、嫌わないであげてね』
「大丈夫だ、好意を向けられて嫌な気はしない」
『そう言えるのはさすがね。では連絡が行くと思うから宜しく――』
「あの! 瑞希さん!」

 会話が一段落、通話がきられる流れに入ったところ、志穂が大声を出して会話に割って入った。

『なに?』
「テレビを見てるんですけど、風間さんがすごく悪者にされてます」
『……』
「これっておかしくないですか」

 志穂はさっきのかみかみとはまるで別人の様な口調で瑞希にきいた。まるで犯人に問い詰める様な強い口調だ。

『それがテレビなのよ』
「でも、風間さんがしたのは悪い人を成敗したことじゃないですか、ネットだとみんな風間さんのこと褒め称えてます。それ、テレビ局の人も分かってますよね」
『わかってるけど、分かってないのよ』
「どういう――」

 俺は志穂の手をそっと掴んだ、目配せで黙るように言って、俺が代わりに瑞希にきいた。
 志穂のテンション――怒りじゃ話がうまく回らないと思ったからだ。

「何をわかってて、何を分かってないんだ?」
『分かってるのは現状。そういうことがあることをちゃんと把握してる』
「うん」

 そりゃそうだ。
 さすがにそこまで目をそらす様なことはできなかったか。

『一方で、メディアの偉い人はこれを一過性の事だと捉えている。パンドラ……だったかしら、「一時の流行りと上辺に目がくらんでも、必ず最後は信頼性のあるテレビと新聞に戻ってくる」って思ってるらしいわ』
「状況が見えてないな」
『同感よ』

 それから当たり障りのないやりとりをした後通話を切った。

 ま、そういうもんだ。
 既存権益を得てるメディアがネット――そして俺にそう思うのは理解できる。
 俺が誰よりも……理解できている。

     ☆

 夜、エグゼクティブ1の上。
 屋外のラウンジになっているそこで、俺はグラスを傾けていた。

「お待たせしました」

 下から志穂が上がってきた。
 飲み物のおかわりと、作りたてのつまみを持ってきた。
 簡単な酒のつまみだ、しかし。

「上手い、やっぱり料理うまいな志穂」
「そんな……たいしたことないですよ」

 志穂は照れて、ちょっともじもじした。

「くーん」
「おっ、スレイか」

 同じように下から上がってきた子犬、異世界エルフのスレイ。
 俺は空を見上げた、月は欠けている。
 満月の時のみ元の姿に戻れるスレイ。
 今日も子犬のままのようだ。

 俺はつまみの中からソーセージを一本つまみ、スレイの鼻の先に差し出した。

「どうだ? 食うか?」

 スレイはソーセージの臭いを嗅いで、そのままパクッといった。
 ソーセージをガツガツと食べる、美味しそうだ。

「ああっ、風間さんのために作ったのに」
「いいじゃないか、美味しいものはみんなで食べた方がもっと美味しくなる。志穂もどうだ?」
「私は大丈夫です。それよりも風間さん、お酒のおかわりいかがですか?」
「ああ、もらおう」

 志穂にお酌をされて、夜のラウンジで晩酌を楽しんだ。

 エグゼクティブ1のラウンジはものすごく出来がよくて、まるで高級ホテルのバーにいるような雰囲気だ。

「ばうっ!?」
「うん? どうしたスレイ」
「――」

 直前までソーセージを食べていたスレイが急に苦しみだした。
 前足でのどをかきむしって、声にならない声を上げようとしている。

「ど、どうしたの? まさかソーセージが!?」
「……いや、そういう訳じゃなさそうだ」

 最初は俺もそう思ったが、すぐに違うと分かった。

 スレイははいた、ただしさっき食べたソーセージじゃない。
 それ所か物質ですらない。

 スレイがはいたのは、黒いガスのような塊だ。

「こ、これはなんですか?」
「ペインだ、俺は一時『よどみ』って呼んでた」
「ペイン? よどみ?」
「ああ、世界にたまった恨みと怨嗟、それとその世界の人間の苦しみ。それが形になって表れたモンスターだ」
「モンスター!?」

 驚く志穂、しかし次の瞬間納得せざるを得ない現象が起きた。
 スレイの口から完全に飛び出したペインはラウンジのテーブルに触れると、それをとかしてしまった。
 とかしたというよりは、塵に分解してしまったと言った方が近い。

「も、モンスター……本当にいたの?」
「後で詳しく説明するけど、これも内密にな」
「……わかりました」

 志穂は一呼吸間を開けて、落ち着いた様子で頷いた。
 俺への信頼がそうさせた。

 俺はデコピンをして、指弾でペインを吹き飛ばした。
 予想とおりまだまだ弱かった、遠距離攻撃レベル1の指弾だけでも吹っ飛ばせた。

 三匹現われた、三匹とも指弾で吹っ飛ばして、スキルポイント30をゲットした。

 多分、これは向こうの世界で産まれたペインだろう。
 十年ぶりに産まれるようになった(、、、、、、)ペインが、スレイの体を通じてこっちにでてきた。

 こっちの世界での似たようなものじゃない、ってのはにおいで分かる。
 においというか、ふんいきというか、空気でもいい。
 向こうをしっているからこそ、一発で向こうのものだと分かる。

 向こうで再び産まれるようになったペイン、それは向こうの連中のやらかしのせいで産まれるようになったもの。
 そしてペインが現われたということは、魔王が猛威を振るっていたダメな世の中になって行きつつあるということだ。

 せっかく俺が一掃して、産まれなくしたのに。

「馬鹿な連中だ」

 俺は鼻で笑って、ペインがでなくなったのを確認してから。
 スレイを介抱しつつ、志穂にかいつまんで説明した。

 向こうに行ってたことと、最近やってる事と同じ事をしてたことと。
 見限って戻ってきたらまた向こうの世界が荒廃しだした事を、かいつまんで説明すると。

「風間さん、すごい……それに引き換え……だめですね向こうの人は」

 と、呆れたような顔を見せたのだった。
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