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虐げられた救世主の俺は異世界を見捨てて元の世界で気ままに生きることにした 作者:三木なずな

第一章

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17.マスコミ、崩壊の序曲

「それはどういう物なんだ?」
「な、なんの事なのかさっぱり分からん!」

 問い詰められた老人はシラを切るが。

『金を受け取った局関係者のリストがあるなんて言えるか』
「なるほど、そういうリストが存在するのか」
「なっ――」
「それは何処にある?」
「な、なぜわかる。答えていないのに……」
『私の別荘の隠し地下室だが……まさかこれも……?』
「隠し地下室とはしゃれたものを作ってるな」
「――っ!」

 次々と心を読まれて、老人は死ぬほど怯えた。
 顔が青ざめてガクガク震えだした――かと思えば急に白目をむき、泡を吹いて倒れた。

 よっぽどの恐怖なんだろうな、目の前で心を読まれて、隠してることを突きつけられるのって。
 まあ、自業自得だ。

 老人はしばらく放置するとして、まずは彼女だ。
 俺は振り向き、老人に差し出された少女に向かって行った。

 さっきの喝采、彼女は書斎の入り口で立ちつくしていた。

「大丈夫か」
「えっ……きゃあ!」

 俺が近づくと、少女は思い出したかのように自分の裸を隠し、しゃがんでしまった。
 老人とは違う意味でプルプル震えている。

 彼女は裸同然の姿、俺は男だ。
 怯えるのは当然だ。

 俺は家の中を見回して、寝室に入り、綺麗にベッドメイクされたシーツを剥ぎ取った。
 それを持ってきて、少女をすっぽり覆ってあげた。

「……え?」
「もう大丈夫だ。あいつには何もさせないし、俺も何もしない。だから安心しろ」
「……はい」

 シーツにくるんで俺を見あげた少女、彼女は微かに頷き、赤くなった顔でそのままうつむいてしまった。

 俺は老人をちらっと見て、まだ気絶してることを確認して。

「瑞希に頼まれてきた」
「瑞希先輩に?」
「ああ、相談したんだろ? 彼女に。それを俺が偶然通りかかったからしゃしゃり出たってわけだ」
「もしかして……シンジさん、ですか?」
「なんでしってるんだ?」
「瑞希先輩を助けた人のアカウントがそうだったから」
「……ああ」

 なるほど、これはうっかりだ。
 新井や金田を追い詰めた生放送用の動画サイトアカウントは「sinji」って名前で登録してる。
 瑞希と仲の良い後輩ならその名前(sinji)をしってても何もおかしくない。

「まあそういうことだ」
「そうだったんですか……あの、ありがとうございます。私、山下美海って言います!」

 彼女の名前は瑞希から聞いてる、ここに来るまでちょっと調べてもみた。
 山下美海、最近駆け出しの、1000光年の一人のアイドルって呼ばれてる子だ。
 某1000年さんとちがって「光年」という突っ込み待ちのキャッチフレーズだが、意外や意外、歌もダンスも上手いし、容姿も紛れも無い美少女の域だ。
 後発だからいろいろ不遇を押しつけられてるってだけの感じがする。

 そんな彼女に頷き、俺も名乗った。

「俺は風間シンジだ」
「本当にありがとうございます、助けてもらって……なんてお礼を言えば……」
「それなら気にするな。瑞希に頼まれたのがきっかけだけど、もとよりこんな話、しってたら見過ごせない。それに……」

 俺は老人をちらっと見た。
 泡を吹いてる老人、少し回り道をしたけど、こいつから俺がやろうとしてたことの手がかりをつかめそうだ。

「……これでやる事が出来たしな」
「あの! 私に手伝える事はありませんか?」

 美海が意気込んで言ってきた。

「手伝う?」
「はい! お手伝いさせてください! 恩返ししたいんです」
「……なら、しばらくこの部屋にいてくれ」
「え……?」

 言われた美海は意気消沈し、微かにうつむいてしまった。
 どう受け取ったのか、何を思っているのか。
 読心じゃなくて手に取るように分かる。

「勘違いするな、勘違いだからじゃない」
「え? じゃあどういうことですか?」
「時間稼ぎ、ってヤツかな。俺はこのじいさんを連れてこいつの隠してるものを取ってくる。何が起きるか分からない、じいさんは今晩ずっとこの部屋にいるって見せかけた方が都合がいい」
「あっ……私で遊んでるって……」
「そういうことだ。キミがここにいればある程度何かがおきても誤魔化せる。むしろ危険があるかもしれないから――」
「やります!」

 美海は更に意気込んで、俺の台詞にに被せてきた。
 シーツで体を包んだまま意気込むその姿に、頼もしさと健気さを同時に感じた。

「じゃあ、頼む」
「はい! 任せてください! ……あの!」
「うん?」
「私頑張りますから!」

 そうアピールする美海。
 これまた読心なくても分かるアピール。

 頑張りますから! の後に「上手くできたらほめてください」がつくようなアピール。
 やっぱり健気で可愛い。

「それじゃあ頼む」
「はい!」

     ☆

 夜の公道、ガラスの外で街灯がハイスピードで後ろに流れて行く。
 運転する俺は、後部座席に転がした老人に次々と話しかけた。

「このまままっすぐ行けばいいのか?」
「んぐっ! むぐっ!」」
『まずい、まずいぞこのままじゃ。これでは別荘に着いてしまう。なんとかして脱出しないと……』

 猿ぐつわを噛まして、手足を縛って座席に転がしてる老人。
 しゃべれなくても、読心で心の声から問題なく答えを得られている。

「なあ、一つだけ教えてくれ」
『な、なんだ』
「なんであの国と繋がってる。そんな事をしてお前に……お前らに何の利益がある」
『あの国はほんのちょっと前まで日本だったんだ。そこにいる人間は同じく日本人。今は違うが、いわば嫁に出したようなものだ』
「嫁?」
『嫁から実家に助けを求められれば助けるのは当然だろ』
「……」

 俺は呆れた。
 今すぐネコ型ロボットを召喚して「いやその理屈はおかしい」っていってもらいたかった。

「ほかの連中……お前と繋がってるほかの連中も同じ考えなのか?」
『同じなのもいる、向こう出身もいる。私より上の世代なのは、同じ国民で戦争で戦った戦友、同じ釜のメシを食った仲間だ、と思っている』
「おいおい……」

 なんなんだその理屈は、って呆れた。
 なんというか、もう突っ込むのも面倒臭くなってきた。
 とっとと証拠を手に入れて、世界中にばらまいてしまおう。

『お前は一体何者だ、どんな魔法を使っているんだ。金田の時は姿を消していた、新井先生の時も私のマンションにも潜入できた。一体何者だ』

 老人は心の声まで怯えきっている。
 俺が見せた力……戦闘力だけじゃない、潜入に使った自由訪問や透明人間、はっきりと分かる読心。
 これらの力に怯えているのがはっきりと分かる。

 分かるが、話す義理はどこにも無い。
 俺は老人をつれて、スキル・読心で無理矢理心をこじ開けて。
 テレビ局とあの国が繋がってる証拠のリストを手に入れた。

     ☆

 朝、エグゼクティブ1の中。
 俺はコーヒーをすすり、100インチのプラズマテレビを眺めていた。

『これはきわめて重大な違法行為であり』
『一部では放送免許の取り消しも取り沙汰されておりますが』
『あらゆる可能性を含めて検討しております』

 テレビの中の記者会見がざわついた。
 記者の質問に、会見の政治家がいつになく前向きに、「実質ある」というニュアンスの返答をした。

 俺はあのリストをネットで公開した。
 海外のサーバーにデータを保存して、すぐに消されないようにした。
 また俺の――「sinji」の名前で公開した。

 新井と金田の一件で注目を集めてる「sinji」、一部では正義の使者と言われてる存在。
 そこから発信した暴露は、瞬く間に日本中を駆け巡った。
 リストに載ってるテレビ夕日の関係者は大半が雲隠れしたり、隠れられないような立場の人間は責任をとってやめたりしたが、騒ぎがとどまるところをしらず、更に大きくなっていった。

「すごいです、あのリストだけでこんなに大事になるんですね」

 メイド姿の志穂は舌を巻いていた。

「そういうもんだ、不正なんてのは『絶対やってるに違いない』まではオーケー、でも証拠がでて『ほらやっぱりやってた』になったらその時点でおしまいな」
「なるほど……」
「まあ、こうなったら後は俺がやることはない?」
「え?」
「でっかい組織だからな、若い連中で跳ねっ返りがいるもんさ――ほら」

 テレビのチャンネルを回したら、更にスクープが、最新のスクープがトンできた。
 テレビ夕日の若手社員を中心に内部告発したというニュースで、火は更に燃え上がった。

「同じテレビ局なのに……」
「組織だからな、理想に燃えて飛び込んだ若手だっている」
「なるほど」

 納得する志穂、俺はテレビを眺めた。
 しばらく混乱は続くだろうが、はっきりとした証拠と内部からの告発者が出た以上。

「あのテレビ局は――少なくとも今の腐った体制は終わりだな」
「風間さんすごいです、さすがです」
「ありがとう、とりあえず朝ご飯を頼む」
「はい!」

 エプロンドレスをなびかせてキッチンに走って行く志穂。
 それを見送りつつ、テレビのチャンネルを回す。

 狂騒はますます大きくなるが、ひとまずは一件落着、だな。
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