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虐げられた救世主の俺は異世界を見捨てて元の世界で気ままに生きることにした 作者:三木なずな

第一章

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13.憧れの人

 昼間、エグゼクティブ1の中。
 特に何かするでもなく、100インチのプラズマテレビをつけてチャンネルを適当に回していた。

『こちら武道館前。本日近藤瑞希全国ツアーの最終日につめかけたファン達が――』
「近藤瑞希!」
「うおびっくりした!」

 それまでメイドの格好で掃除をしていた志穂がいきなり食いついてきた。
 目を思いっきりキラキラさせて、テレビを見つめている。

「ファンなのか?」
「うん! お母さんも好きで、子どもの頃からよく一緒に歌を聴いてた」
「ああ、もうそんなんか」

 近藤瑞希って歌手の事は俺も知ってる。
 歳は多分40手前。十代にデビューして一世を風靡し、若い女の子を中心に「ミズラー」を量産した超人気歌手だ。
 このご時世であっても、CDは百万枚は普通に売れるとんでもない歌手。

 確かによく考えたら、そろそろ「親子二代にわたってファンだった」という域に突入してるな。

「そっか……ライブツアーやってたんだ……知らなかったな……」

 キラキラ目が徐々に落ち着いて、代わりに切なさの表情が浮かび上がってきた。
 そりゃそうか、ここ最近志穂は借金の事でそれどころじゃなかったはずだ。
 ライブツアーなんて、気にしてられる状況じゃない。

「……ふむ。なあ志穂」
「え?」
「会いに行くか」
「誰ですか?」

 俺は無言でテレビをさした。
 ちょうど100インチのドアップで移し出された近藤瑞希の顔はド迫力だった。

 志穂は俺の意図を理解できないこと、約30秒。

「えええええ!?」

 理解すると、今度はものすごい絶叫をあげたのだった。

     ☆

 夜の武道館、その裏手。
 時間はライブ終了後、周りは出待ちのファンで埋め尽くされている。

 そこにいた俺と志穂は注目を集めていた。
 正確には志穂だけだ。

 何せ彼女はメイドの格好だ。
 それもコスプレのようなちゃちいメイドじゃない、一着二十万円するオーダメイドの超高級メイド服だ。
 メイドがいるってだけで注目を集めるのに、夜でもはっきりと分かる高級なメイド服で、二重に注目を集めていた。

「あの……風間さん」
「なんだ?」
「やっぱり帰りませんか? 出待ちなんて見れても一瞬ですし、そもそもここから出てくるのかもわかりません」
「大丈夫だ」
「え?」
「俺に任せろ」

 首をかしげ、盛大に訝しむ志穂。
 彼女の言いたいことはわかる、こんな所で出待ちした所で普通は会えないし、あえても一瞬だ。

 だが、俺にはスキルがある。

 スキル・自由訪問。

 アメリカ大統領だろうとローマ法王だろうと、会いたい人間には絶対に会えるスキルだ。
 スキルの効果は護衛やらをすり抜けるだけじゃなく、ある程度の運命を操作することも出来る。

 この場合、出待ちで会おうと思ったら絶対にあえる。

 しばらくして、建物奥の駐車場から一台の車が現われた。
 スキルの効果で俺はそれが狙ってる相手なのだと分かった。

「行くぞ志穂」
「え、あっはい」

 慌ててついてくる志穂を引き連れて、曲がるためにいったん止まった車の横についた。
 パワーウインドウをコンコン、とノックする。

「なにあれ?」
「ちょっとわきまえなさいよ」
「何処の初心者?」

 ほかの出待ちしてるファンから不満不平の声が上がった。
 こう言うのってある種の自治的な行為がされてるものだ、そこに闖入者が現われれば当然の反応だ。

 が。

 ドアは開いた。
 後ろのドアが音を立ててあいた。

「どうぞ」

 車の奥から声がする。女の声だ。
 周りがざわめく。「うそ」「どうして?」って声があっちこっちから聞こえる。

 いきなりの事で、志穂もキョトンとしていたから。

「早く乗って」
「え? あっはい」

 促して、志穂、俺の順で乗り込んだ。
 乗り込んだ俺はちらっとファン達の姿が目に入った。
 半分近く混乱から回復して、「いいなあ」って羨ましそうな顔をした。

 俺は乗った後ドアを閉めて、「出して」といった。
 ファン達に見送られながら、車は武道館の敷地を出る。

 そこそこに広い車の後部座席に彼女がいた。
 近藤瑞希、ついさっきまで武道館のステージで歌っていたはずの女だ。

 スキルは、ここで効果切れだ。
 瑞希は警戒心MAXの目で俺たちを見た。

「あなた達、何者?」
「ええ!? 知りあいだから乗せたんじゃないんですか?」

 運転手が驚く、まあそうなるわな。

「あの! 私! 子ども頃からの大ファンです!」
「え? ええ……」
「握手してもらってもいいですか?」
「……はあ」

 不審者を見る目をしていた瑞希だが、子犬のように思いっきりはしゃぐメイド(志穂)の存在に毒気を抜かれた様な格好になった。
 頼まれるがまま握手をしてしまう。

「本当に! 本当に大ファンだったです! あの! 子どもの頃テストの点数とか悪かったときお母さんにいうの怖かったですけど、お母さんが瑞希さんの歌を口ずさんでるときは機嫌の良いときだったから、言っても大丈夫だったんです!」

 もう完全にタダのファンと化した志穂は更に興奮して瑞希に色々打ち明けていた。
 瑞希は困惑しながらも、志穂と俺を交互に見比べる。
 それだけじゃなかった、俺をちらちら見ながら、窓の外もなにやら気にしてる。

「……何に怯えてる」
「え?」
「え?」

 志穂と瑞希は同時に声を上げた。

「その顔はよく知ってる、何十人も見てきた。何かに怯えてる人間の顔だ」
「怯えてる? 大丈夫なんですか瑞希さん!」
「それは――」

 瑞希が何かを言うよりも早く、ドン! という音と衝撃がきた。
 車が盛大に揺れて、悲鳴が車内にこだまする。

 俺はパッと後ろを振り向いた。
 一台の車が真後ろにつけているーーまたぶつかってきた!

「きゃあああ!」
「ま、まただわ! 正! もっと早く」
「ああ!」

 運転手はアクセルを思いっきり踏み込んだ。
 加速がついて、体が慣性でぐっとシートに押し込まれたがーー。

 ドーン!!

 向こうも更にスピードを上げて、更に後ろからぶつかってきた。
 悲鳴が更にこだまする。このままじゃダメだな。

「おい! 運転してるヤツ!」
「なんだ!」
「何があってもブレーキを踏むな、とにかく進め」
「そんなの分かってるーー」

 運転手が返事するよりも早く俺は動いた。
 リアガラスをパンチ一発でぶち抜いた。
 粉々に割れたガラスを浴びつつ、シートを踏んづけて外に出る。

「風間さん!」

 叫ぶ志穂、無視してジャンプ。
 こっちの車から、ぶつかってくる車のフロントに飛び乗った。

「はああああ!」

 そのまま滑り込むようにドロップキックを放つ。
 ケリはフロントガラスを粉々に割りつつ、正確に相手の下あごにクリーンヒットした。
 瞬間、車がスピンした。
 蹴られたヤツが勢いを余らせてハンドルを切ってしまったのだ。
 スピンしたままガードレールに突っ込む、突っ込む直前に俺は車を蹴ってジャンプして離れ、衝突を免れた。

 ガードレールに突っ込んだ衝撃でエアバッグが飛び出した車の中、ぐったりしてる運転手を引きずり下ろす。
 ぐったりとして意識のないそいつ。
 歳はざっと30の半ばから40くらいで。

「やたら……イケメンじゃねえか?」

 気を失っていてもはっきり分かる、世間一般的にイケメンとされてる分類の男だ。
 そしてもう一つの臭いがした。

 芸能人。

 着ている服や髪型。
 何となくレベルだけど、芸能人っぽい感じがした。
 今度は俺が困惑した。
 なんで芸能人っぽい男がこんなことをしたんだ?

 車を後ろから衝突させるーーあきらかに悪意や敵意のある衝突のさせ方を。

「金田さん……」
「ん?」

 声につられて振り向く。
 瑞希と志穂が戻ってきていた。
 少し離れた所でさっきまで乗ってた車がハザードを出して止まっている。

 まあ、止まるなと言ったが、終わったしな。
 一方でやってきた志穂は俺に尊敬の眼差しを向けてきて。

「風間さんすごい……まるでアクション映画みたい」

 返事は微笑むだけにした、今はそれよりも瑞希だ。

「この人の事を知ってるのか?」

 と聞いてみたが、答えたのは志穂だった。

「金田雅俊、すごい人気俳優さんで、二年前に志穂さんと熱愛報道が出てた人です。一時期はゴールイン間近か? と言われてたのにいつの間にか話を聞かなくなってて不思議に思ってました」

 よくご存じで。
 ファンってのはそんなゴシップな話まで知ってるもんなのか。

 それはそうとして。

「こいつか? あんたが怯えてたの」
「……ええ」

 瑞希は頷き、ため息をついた。

「ずっと前からつきまとわれてたの、言い寄られて、私その気がないから断ったのに勝手に知りあいの週刊誌を使って熱愛報道を書かせて既成事実化しようとして」
「そうだったんですか!?」

 衝撃の事実に志穂が驚愕する、瑞希が頷くと、志穂は目を剥いて気絶してる金田を睨んだ。

「最近になってストーカーまがいの事や、脅迫もしてくるようになって困ってたの」
「け、警察には言わなかったんですか?」
「芸能人同士のこんな話、警察に言えて?」
「あっ……」

 納得する志穂。
 そりゃそうだろうな。

「う……ん」

 金田が目を覚ました。
 頭を抑えて体を起こし、周りを見る。
 ぼんやりとしてた目が瑞希を見た瞬間焦点が一気にあった。

 思うところがあって、俺は透明人間スキルを使って姿を消した。
 消えて、いったん事故った車にいってから、金田と瑞希の間に立った。

「瑞希!」
「もうやめて下さい、本当に迷惑なんです」
「どうしてだ瑞希、なんでそんな事をいう。俺の事が嫌いになったのか?」
「嫌いになったもなにも、最初から好きじゃありません。それをあなたがあんなでたらめな記事を書かせて」
「そんな事はない!」

 怒鳴る金田、びくっとする瑞希とそばにいる志穂。

「分かってるんだ瑞希、俺には分かってる。そんな事を口ではいってもお前は俺の事が好きなんだろ?」
「ちがいまーー」
「俺をフルなんて許さない!」

 金田は手をあげた、瑞希は目をきつく閉じて避けようとした。

 二十秒経った、姿を現わした俺は更に間に割って入って、あえて(、、、)金田のパンチを顔に受けた。

「なっ、どこから出たお前」
「手をあげるのはダメだろ」
「うるさい! アイツは俺の女だ! 自分の女を好きにして何が悪い!」
「本人はそこ否定してるぞ」
「そんな事はない! ……そうか、お前か、お前が瑞希に変なことを吹き込んだんだな」
「……」
「お前がーー」

 金田が更に拳をあげて俺を殴ろうとした。
 二発目のパンチは電話の音にとめられた。
 金田の懐からなる電話の音、スマホの着信オン。

「ちっ! なんだこんな時に」

 悪態をついて、電話にでる金田。

「誰だ! お前か。言っただろ今日の夜はオフだーーはっ? ネット配信? なに訳のわからん事を」

 金田は悪態をつきながら電話の相手と話していたが、みるみる内に顔が青ざめていった。
 それの理由に気づいたのは志穂だった。

「風間さん……もしかして前と……?」
「ああ、一緒だ」

 俺はぐい、と事故った車をさした。
 車の屋根の上にスマホが置いてあった、レンズがこっちを向いてる。

 議員の新井の時と同じ、スマホでネット生配信をした。

 イメージ商売のイケメン俳優、ご乱心の一部始終がネットに流れた。
 それで事務所かマネージャあたりが慌てて連絡してきたのだろう。
 だけどもう遅い、こいつはもう終わりだ。

「き、さまああああ!」

 金田は叫んだ、人間ってこんなに醜く顔がゆがむんだ、って位の顔で俺に殴りかかってきた。
 そのパンチをひょいと避けると、金田はそのままバランスを崩して地面にうずくまった。

「うぅぅ……うわああああああぁぁぁぁぁ!」

 地面をかきむしって絶叫する。
 端正な顔が見る影もなくくしゃくしゃにゆがむ。

 理解したんだろうな、今のシーンがノーカットで世間に流れたらこの後自分どうなるのかを。

 俺は瑞希に振り向いて、言った。

「これでもう大丈夫だろ」
「ええ……ありがとう」

 瑞希は心底ホッとした表情で、俺にお礼を言ったのだった。
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