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虐げられた救世主の俺は異世界を見捨てて元の世界で気ままに生きることにした 作者:三木なずな

第一章

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12.害獣と害人

 次の日、また東京を離れてエグゼクティブ1で北上した。
 前と同じ岩手にやってきて、エグゼクティブ1を適当な所に泊めて、車にのって山に入った。

 そして、熊。
 現われた熊のぶっとい腕を避けて思いっきりカウンターを眉間に叩き込んだら、熊はお札をまき散らしてふっとんだ。
 一発では倒れなくて、血走った目で更に襲いかかってくる熊。今度は爪を避けて回し蹴りで吹っ飛ばす。
 またまたお札を飛ばしつつ、吹っ飛んでいく熊。

 いかんな、悪い癖だ。
 このスキルが発動してるとちょくちょくこうなるんだ。
 異世界で検証した結果、どんな相手でも、一撃でたおすより二発で倒した方が金のドロップが高い。
 ちょっとした小ネタが体に染みついちゃってるんだ。

 まあ、それはいっか。

「すごい……熊もそうなんだ……」

 それよりも連れてきたメイド姿の志穂が舌を巻いていた。
 熊を殴り飛ばしてお札をまき散らすって光景に目を丸くして、感嘆していた。

「熊もっていうか、『倒そう』と思った相手でそうなる」
「なんでもですか?」
「まあ何でもだ」
「蚊とかですか?」
「蚊? ああ……キラービーの巣、蜂の巣を中身ごと焼き払ったときはお札の雨が降ったっけな」

 あのときの光景は素晴しかった、ものすごくインスタ映えするワンシーン。

「すごいです風間さん」
「そうか」

 熊がドロップした日本銀行券4万円なり(スキルポイントは20だった)を拾い上げると、離れた所からガサガサと物音が聞こえた。
 また熊か! って身構えて振り向くと肩すかしだった。

「なんだ、鹿か」
「鹿……」
「うん? どうした志穂、鹿嫌いなのか?」
「はい……元農家ですから」
「どういう事だ? 農家だからってのは」
「農家にとって鹿ってトップクラスの害獣なんです。うちみたいな農作中心の所だと熊より嫌な相手です」
「なんで?」
「鹿って草食動物で、なんでも食べるんです。作物とかすごく食べられるんです。それに本当に何でも食べるから、収穫する前に食べられちゃうんです。キツネとかグルメだから収穫を狙ってくるから間に合うけど、鹿はお構いなしに食べるから」
「なるほど。それは農家に嫌われるな」
「それに……あっ、ありました」

 志穂は少し離れた所に小走りで行った。一本の枯れ木の前で俺をまった。
 向かって行くと、彼女は根元あたりを示した。

「これ、根元の皮を鹿に食べられて枯れちゃった木なんです。鹿は自分の頭よりしたの部分鹿食べないから、木の皮を食べちゃうとこうして枯れちゃうんです」
「枯れるって……おいおい」

 これはちょっと驚いた。
 枯れてるその木、ものすごくぶっといヤツだった。
 大人の男の俺が腕を回しても抱えきれないくらい太い木。
 それを鹿に食われて枯れたってのか。

「だから野菜とか食べられるのはまだマシなんです。育てるまで何年もかかる果樹とかやられると……」
「キングオブ害獣だな鹿。可愛い顔して……ああ、スライムみたいなもんか」

 なんとなく納得してしまった。
 別に可愛い顔とかと害のありなしは関係ないもんだ。
 異世界でもスライムは見た目すごく可愛いけど、れっきとしたモンスターで人間を捕食して体の中で溶かして食うヤバイヤツだしな。

「そういうことなら、ちゃちゃっと倒しておくか」

 農家のために。
 俺はさっきの鹿に向かって行った。
 草食動物の鹿は逃げようとするが、突進して回り込んで、下からのアッパーカットを振り抜く。

 打ち上げられた鹿、体が縦にぐるぐる回転して、空中でお札をまき散らした。

「鹿もお札飛ばしてる……」

 またまた舌を巻く志穂。
 鹿はぐるぐる回転して頭から地面につっこみ、何回かけいれんした後動かなくなった。

 ――スキルポイントを4獲得しました。

 そしてスキルポイントをゲット。
 熊ほどじゃないけど、鹿もポイントを取れた。

「しかもチンピラの倍だ」
「え?」
「いやこっちの話」

 これまでは熊を探して回ったけど、鹿も狩りの対象になるのならありがたい。
 ちょこちょこ見かけては見逃してたからな。

 俺は山の中を歩いて回った。
 熊、そして鹿。
 見敵必殺って感じで狩っていく。

 半日で熊は合計4頭、鹿は合計12頭狩って、ポイントを128増やして、合計129まで積み上げた。
 金も30万くらい――まあこれはオマケって感じだな。

 途中から鹿狩りを聞いてやってきた近くの農家のおっちゃんおばちゃん達に思いっきり感謝されて、この日はおしまいにして撤収した。

     ☆

 夜、エグゼクティブ1の中。
 志穂は風呂に入ってて、俺はキャビンでくつろいでいる。

 ちなみに志穂は湯船に浸かる派らしい。
 このエグゼクティブ1は車だけどゆったりとした湯船がある、別にやらないけど二人一緒にはいってイチャイチャ出来るくらい拾い湯船だ。

 志穂がそれに浸かっている。
 俺はキャビンでくつろいで、窓の外を眺めていた。
 雲に覆われた空が少しだけ開いて、月が顔を出してきた。

 まん丸の、白い月。

「今日は満月か」

 山の近く、ほかに明かりがない分、月は綺麗に見えた。

「くぅーん」
「お、どうした犬」

 例の子犬が俺のそばにやってきた――その瞬間。
 窓から見える満月を見あげた子犬はみるみる内に変身していった。

 俺は動じなかった――が直後驚いた。
 動じなかったのは異世界だとこういう――いわゆる変身はしょっちゅうある事だ。
 驚いたのは、ここが現実世界。俺は日本に戻ってきてるって思い出したから。

 俺は身構えた、何が起きても対処出来る様に身構えた。

 子犬はみるみる内に人間の姿になった。
 金色の髪に尖った耳、たぐいまれな美貌の女。

「エルフ!?」
「はじめまして、勇者シンジ様」
「俺の事を知ってる……いや勇者って。お前、あっちの世界のものか」
「はい。女神のお力でこっちの世界へ」
「……ああ、そういうことか」

 女神と最後にあったときの事を思い出した。

 向こうの世界は早速ヤバイ流れになってる。そっちの世界の人間を一人預かって、育てて、しかるべき時に救世主として戻すって話を。

「そうか、お前がそうだったんだ」
「はい、スレイと申します。すみません今まで黙ってて。満月の出てる時にしかこの姿に戻れなかったので」
「そうか」
「それと……ありがとうございます。この世界に来ていきなり病気になって、シンジ様が助けてくれなかったらどうなっていたか」
「狂犬病か……犬にでも噛まれたか」
「はい、縄張り争いに巻き込まれて」
「なるほどな」

 目の前のエルフを見た。
 エルフ特有の神秘的な美しさを湛えたものすごい美女、直前までの子犬からは想像も出来ない姿だ。

「話は分かったが、なんでお前が選ばれたんだ?」
「……」
「どうした」

 スレイは下唇をかんでうつむいてしまった。
 悔しそうにしてて、ただ事じゃない。

「エルフの里が滅ぼされました」
「なんだって?」

 思わず立ち上がった。

「どういう事だ?」
「人間の……エレボスという人の命令です」
「エレボス? 公爵エレボスか?」

 頷くスレイ。
 公爵エレボス、俺の事を邪魔してた人間の中でもっとも過激なヤツだ。
 異世界人は信用ならない、世界はこの世界の人間の手によって救済されるべし。

 最後までその主張を曲げずに唱え続けた野郎だ。

「そいつがなんで?」
「エルフは人間じゃないから、魔物のようなものだから、排除しておくべきだって」
「種族差別かよ、そうか、俺っていう一番象徴的な異物がいなくなったもんだから、その次にわかりやすい見た目のエルフを目標にしたのか」

 頷くスレイ。

「わかった。お前は俺が保護する。しかるべき時に――待て!」

 俺はある事を思い出した。
 とてもとても重大な、ある「摂理」の事を。

「マナって、エルフが産み出してるんだよな」
「はい。正確には産み出してる訳じゃないですけど」
「触媒なんだろ、知ってる」

 異世界の魔力、マナと呼ばれるものはエルフによって産まれている。
 とはいってもエルフが何かをするわけじゃない、差し出すわけでもない。
 存在するだけで空気をマナに変換するのだ。

 一番近い現象が、中学時代にやった化学の実験だ。
 過酸化水素に二酸化マンガンをいれると酸素が産まれる。しかし二酸化マンガンは反応の前後なにも代わらない。

 過酸化水素が異世界の空気で、酸素がマナ、そしてエルフが二酸化マンガンだ。
 その事を知っている人間は少ない、俺も魔王を倒す過程で魔法を極める必要があったから偶然知っただけだ。

 そのエルフがいなくなるって事は……。

「異世界で魔法が消えるのか?」
「すぐには消えません、多分、徐々に、徐々に……」
「そうか。馬鹿な連中で、自分で自分達の首を絞めやがった」

 俺は呆れた。
 あっちの世界は魔法が日常生活にものすごく食い込んでいる。
 マナはこっちで言うガソリン……いや動力のみだから電気の方が近いな。
 それが消えていく。

 電気が消えた世界……あーあ。

「マナが消えて一番困るのはそいつ、貴族らだよな」
「はい、平民が日常に使う分は最後まで残りますが、貴族の贅沢を維持する魔導具起動には大量のマナが必要です」
「そこは電力と違うよな。電力は一箇所に集めることができるけど、マナは世界全体の平均量だもんな」
「はい……そちらはおそらく一ヶ月ももちません」

 女神があっちはヤバイっていう訳だ。
 本当アホな連中だ。鹿よりも熊よりも、連中の方がよっぽど害獣に見える。

 いや害獣以下だ、自分で自分達の首を絞めてるんだからな。

 窓の外で満月が雲に隠れた、スレイが子犬に戻った。
 俺に話したせいか、前に比べて悲しそうな顔をした。

 俺はスレイの頭を撫でた。

「大丈夫だ、俺がお前を守る。お前が向こうの世界を再生しに戻るまで何が何でも守ってやる」

 子犬――スレイは感激して、俺の手に思いっきりスリスリしてきた。
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