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虐げられた救世主の俺は異世界を見捨てて元の世界で気ままに生きることにした 作者:三木なずな

第一章

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10.不治の病の特効薬

 次の日の朝、エグゼクティブ1のキャビン。
 俺は志穂の作った朝ご飯を食べた。

 献立はコーヒーにハムエッグ、それにカリカリに焼いたトースト。

「うん、美味い」
「すみません、食材がなくて、お金もなかったので」
「……うん? そっかいけね」

 すっかり忘れてた、完全に俺のミスだ。
 俺は服についたパンクズを軽く払って、壁に掛けてる自分の上着から札束を取り出して、志穂に渡した。

「はい」
「え? な、なんですかこれ」
「百万円。意外と薄いよな百万円の札束、一種の憧れではあったんだけど」
「そうじゃなくて、これ、どうして……?」
「当面の資金だ、好きに使ってくれ」
「え? でも……」
「生活費とか食費とかだ、そういうのはメイドじゃなくて主が出すもんだろ? 農場の道具とか経費だって同じはずだ」
「あっ……」

 ハッとして、納得する志穂。
 実家が農場をやってて、子どもの頃から自営業の実体を知っている志穂にはすぐに分かる話だ。

「わかりました、預かりますね」
「ああ。ついでにリクエストいいか? 夜は白いご飯と熱々のお味噌汁が食べたい」
「分かりました! ……でもご飯どうしましょう」
「買えばいい、炊飯器を」

 俺は天井をさす、そこにルームエアコンの室内機がある。
 運転中のそれは室内温度を適温に保っている。
 エグゼクティブ1はキャンピングカー(くるま)だが、通常の家電程度なら問題なく使える。

「すごいですねこの車……」
「世界で一台しかない最高級のキャンピングカーだから、値段は三億円だ」
「ふえええええ!? す、すごい!」

 志穂の驚きににこりと微笑んで、席に戻って朝ご飯の残りを平らげた。
 さて、そろそろ出かけるか。
 スキルポイントを稼がないといけないからな、それに、そろそろ使い捨てスキルの確認もしなきゃ。

 スキルの中には取ったはいいが、一度きりの使い捨てのものがある。
 ポイントに比して効果は高いが、一度きりの使い捨てだ。
 そういうのも一度確認してみないとな。

 出かけるため、車庫を開くため壁のパネルに手を伸ばして、スイッチを押した。

「って間違えた」

 車庫のスイッチじゃなくて、100インチのプラズマテレビがついた。

「これは……ゲームですか?」

 志穂がテレビをみて小首を傾げる。

「全周囲モニターついてたのか、まあゲームに見えるよな」
「ぜんしゅういもにたー?」
「これくらいの巨大な車体だとバックとか難しいだろ?」
「はい、すごく難しいです」

 志穂はあっさり答えた。
 遠距離トラックよりも更に一回り大きい車体だ、誰がみてもバックとか難しいのが分かる。

「だから前後左右にカメラをつけて、こんな風にゲーム感覚で上から見下ろすような感じでバックとか駐車とか出来る様にする機能なんだ」
「ふぁああ……すごいですね……さすが三億円」

 全周囲モニター自体数百万の乗用車にもついてるけどな、と思ったが言わなかった。

「あれ?」
「どうしたんですか?」
「後輪のところになんかうつってないか?」
「え? ……本当ですね、車輪の下になにかが……尻尾?」
「ネコでもいるのか?」

 俺はエグゼクティブ1を降りた、志穂もついてきた。

 カメラが映した後輪の下に子犬がいた。
 車輪のところでうずくまってる小さな犬はあっちこっち汚れている。
 みた感じ衰弱してもいる。

「捨て犬でしょうか」
「そうだな、みた感じ成犬の一歩手前ってところか――志穂」
「はい……可哀想です。こんな……」
「犬とか飼ってたのか?」
「はい、実家の農園で番犬として。いろんな害鳥や害獣を追い払ったりしてくれるんですよ」
「へえ? 例えば?」
「ネズミとか」
「ネズミ? 犬もネズミを狩るのか?」
「はい! ネコと違って狩るだけで、食べませんけど」
「へえ」
「でも……本当に可哀想」

 志穂は子犬をみて、悲しそうにつぶやいた。
 ……。

「志穂」
「はい? なんですか?」
「この子にご飯を食べさせてやれ、風呂も使っていい」
「――はいっ、わかりました!」

     ☆

 東京でどうスキルポイントを稼ぐのかを色々考えた。
 もちろん東京にもクマはちょこちょこでてる――マジで。
 東京ってのは面白いところで、世界屈指の大都会でありながら、南には無人島、西には山奥の秘境が広がってる。
 その秘境にクマがちょこちょこいるのだ。

 とは言え西――多摩のあたりまで行くよりかはまた岩手に行った方が手っ取り早いことになる。
 あの捨て犬の関係で今日はエグゼクティブ1を動かせない、夜には母艦のエグゼクティブ1に戻ってくる行動範囲でなきゃいけない。

 色々考えた結果――。

     ☆

「なんだてめえは、ここが何処なのか知ってんのか」

 都内某所、某広域指定暴力団の三次団体の事務所。
 そこに入った俺に、早速人相の悪い男達が睨んできた。
 全部で六人、煙草を吹かしてトランプをやっている。
 テーブルの上にカードだけじゃなくてお札もある事からどうやらかけてるようだ。

 その男達が全員手を止めて、俺を睨んできた。

「何処のもんだ? ふざけた格好しやがって」

 ふざけた格好――まったくの同感だ。
 今の俺はストッキングを頭に被せた、ありふれた(?)銀行強盗スタイルだ。

「組長に会いたい」
「オヤジ? だったら中だよ」

 さっきまで俺を睨んでいた男達がすんなり通してくれた。
 ストッキングをかぶってきた男をすんなり通した。

 自由訪問。

 相手がどんな人間だろうと――アメリカ大統領だろうとローマ法王だろうと会おうと思えば絶対に会えるというスキルだ。
 例えこっちがどんな格好をしていようと――ヤクザの事務所にストッキングをかぶって入って来た怪しさ120%でも向こうはすんなり通す。

 俺は奥に続くドアを開け放つ。
 豪華な事務所の作りの部屋の中で、男が日本刀の手入れをしていた。
 遠目に見ても結構いいできをうっとりみていた男だが、俺を見た。

「だれだ!? はああ?」

 と当たり前の反応をした。まあこんな格好じゃな。

「高山! 大志田ぁ!」

 男――組長はドスのきいた声で呼んだ、すると外にいた組員が飛び込んできた。

「オヤジ!」
「てめえなにしてやがんだ、そいつをつまみ出せ」
「へ、へい!」
「てめえこっちこい!」

 相手にはあった、それで「自由訪問」の効果が切れたから、向こうは敵意を剥き出しにして、俺を追い出しにかかった。

 呼ばれて来た高山と大志田に同時に腹パン。
 二人は「がはっ!」とい呻いて、そのまま倒れてしまった

 ――スキルポイントを2獲得しました。
 ――スキルポイントを2獲得しました。

 少ないな、やっぱり。
 やっぱりただの人間、しかも三下のザコ程度じゃ最低保障の2ポイント位しかもらえないな。
 それでもここは三次団体の事務所、それなりの規模の組だ。

 外が騒がしくなった、騒ぎを聞きつけて別の部屋にいた組員達が集まってきた。

「てめえ……生きてここからでられると思うなよ」

 組長が俺をすごむ、日本刀を持っているせいでそれなりの気迫だったが――。

     ☆

 車の中、俺はストッキングを脱ぎすてた。
 かぶってるのは数十分程度だったが、それでも蒸れて蒸れて大分不快だった。
 涼しい外気と新鮮な空気、俺は同時にその両方を満喫した。

 ストッキングをかぶっていったのは――変装をしていったのは志穂のせい……いやおかげだ。

 新井の本性を公開したあの動画で志穂は俺を探す事が出来た、なにも対策しないで暴れ回ると正体がばれて居場所を突き止められることに繋がる。

 エグゼクティブ1で移動できるし、スキルも充実してきてるのでそれは構わないが、休む時間位は欲しい。
 だから俺は変装して、組事務所に突入して、ヤクザを倒してポイント稼ぎをした。

-----スキル-----
スキルポイント:97/999

取得スキル(8/10)
近接戦闘LV7
攻撃力アップ(回避)LV1
透明人間LV2
カウンター
必要ポイント減少(80%)
スキルポイント増加(200%)
完全翻訳
自由訪問
-------------

 あまり稼げなかった、やっぱりクマ狩りの方が効率はいいな。
 まあいっか、すぐに必要って訳でもなし。
 他の稼ぎ方もおいおい考えていこう。

 車を運転して、エグゼクティブ1を止めてある場所に戻ってきた。

「あっ、お帰りなさい風間さん」
「ただいま。どうだその子は」

 俺は地面に寝そべっている子犬をみた。
 目の前にドッグフードの入った皿を置かれているが、食べようとしない。

「ご飯をあげたけど食べないんです……」
「よほど衰弱してるのかもな。まずは水とか、流動食をやってからの方がいいかもな」
「なるほど! 水持ってきます!」

 志穂はエグゼクティブ1の中に入って、しばらくして深い皿に水を入れてもってきた。
 それを子犬の前に置く。

「わんちゃん、お水だよ」

 瞬間、異変が起きた。
 うっすらと目を開けた子犬が皿にはいった水をみた途端、弾かれるように飛び上がって距離を取った。

 ただ距離をとっただけじゃない、子犬は水をみて、思いっきり怯えた。

「水に怯える犬……まさか」
「狂犬病……」

 唖然となる志穂、実家で飼っていたからすぐに分かったようだ。
 その症状がどういう病気なのかを、そしてその病気がどれほどのものなのかを。

「そんな! ……どうして」
「予防接種もしてもらえてなかったんだろうな」
「そんな……」

 哀しみに暮れる志穂。

 狂犬病、犬にも人間にもかかる伝染病の一つ、いったん発症してしまえば致死率は100%という、ガンよりもエイズよりもある意味恐ろしい病気。
 いや、現代に残る不治の病の一つだ。
 みた感じ子犬に既に発症した、ならば後は死を待つだけだ。

「わんちゃん……」
「ちょうどいい」
「え?」

 驚いた顔で俺を見る志穂、俺は一歩前に出た。
 ケガの功名ってわけでもないが、ここで致死率100%の不治の病に出会えたのは運がいい。

 俺はスキルを取った、今朝試そうと思っていた、使い捨てるスキルの一つだ。

 絶対回復(病)

 120ポイント必要で、8掛けが96ポイントになってるスキルだ。
 コストが重い割りには一回しか使えない、だけどスキル名の通り、どんな病だろうが絶対に回復するスキルだ。

 それを取って、子犬に使う。
 俺の手から光がはなたれ、その光は子犬を包み込んだ。

「え? な、なんですかそれ」
「ちょっとした特殊能力だ、他人には内密にな」
「は、はい! でも何を……」
「みてれば分かる」

 光は子犬を包んだあと次第に収まった。
 するとさっきまで怯えていた子犬がケロッとした顔になった。

 パニクった、文字通りの狂犬っぽい感じから、小さい体の愛らしい見た目になった。
 子犬は周りをキョロキョロ見回してから、てくてくと志穂が持ってきた皿に向かい、水をぺろりとなめた。

「水を飲んだ! な、治ったんですか!?」
「そういうことだな」
「きょ、狂犬病ですよ? それが治った……いえ、治したんですか?」
「……まあ、そういう事だな」
「すごい……」

 目を見開かせて、驚愕する志穂。
 うん、どうやら使いすてのスキルも、こっちでは問題なく効果を発揮するみたいだ。
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