<第二話:夜、自室にて>
吐き気にも似た空腹を感じて私は目を覚ました。ぼんやりとした視界に見慣れた薄汚れた天井が入ってくる。
意識はまだ朦朧としている。目の焦点が合わない。 二、三度まばたきをする。
工房からの帰りはいつもそうだ。勝手に身体を弄り回されて、気がつけば自宅に帰ってきている。
以前このことをDJに相談したら、悪びれた様子もなく『サービスデース』と返答された。
彼のサービスの感覚はどこかズレている。いや、むしろ彼からズレていない部分を探すほうが難しい。
一時期はDJが変なことをしてるんじゃないかと勘ぐったこともあったが、幸いにして彼は仕事に対しては正確かつ誠実なようで、いつも私の身体を万全の状態にしておいてくれる。
今日も試合中にちぎれたはずの右腕がきちんとくっついている。いい仕事をしてくれる。そう思いながら腕を軽く動かしてみる。肩、肘、手首、指先。全部しっかりと私の感覚として存在していた。
ベッドの傍らには修理を終えた愛用の銃器と手斧が布に包まれて立てかけられていた。
私はそれらを手にとってベッドに寝転びながら、布を解き、目測による簡単な点検を始める。
内部、外部ともに異常は見られない。見た目だけなら新品同様だ。
粗末なベッドから身体を起こす。洋服掛けには新品のロリータ服一式が掛けられていた。
おそらく私の寝ている間に業者が置いていったのだろう。
黒のロリータ服は私の衣装兼私服だ。他に服を持っていないし、戦うときに関わるものは極力身体に馴染んだものがいい。
その考えを組んだ結果、私はこの街では非常に目立つこの服を私服にして過ごすことになった。
ロリータ服はとても目立つ、そのことが興行の成績と合わさり私という存在を街では知らぬ人間が少ないほどに有名にしてしまった。
今考えると瀟洒な服を来て歩く機械人形など噂になって当然だ。さながら歩く広告塔である。
この選択に関しては殺し合いはしても見世物になる気はなかったので非常に後悔していた。
しかし、そのことが興行的にはプラスに働いているようなので、今となってはピエロになることを受け入れきっている。
衣装を手に取る。柔らかな絹の感触。よく見ると地球製であることを示すタグが付いていた。
地球製は基本的に純正品とされる高級品だ。それを毎試合破っているのだから命を賭けている割に私の稼ぎが少ないのも仕方がないのかも知れない。
それにしても仕事の速い有能な男たちで助かる。私はタグを歯でちぎり、ボロ布と変わらない古いロリータ服を脱ぎ捨て、真新しいブラウスとロリータに袖を通す。肌で感じる馴染みの感触。
どんな違和感でも続けているうちに慣れてしまう。 銃を撃つように。斧を使うように。そして、人殺しのように。
まだ窓から覗ける外は暗い。今、何時だろうか。体内時計の照合を開始した。
<体内時計:確認開始>
<電波中継開始:未開拓惑星標準時間:照合中>
<照合終了:誤差、0.04秒>
<時刻修正:完了>
<現在時刻:星暦1010年:6月11日:午前3時16分28秒>
<体内時計:確認終了>
夜は明けていないようだった。
なら、まだ店は開いているかも知れない。昨日から何も食べていない。
同族殺しの機械人形でも人並み以下にはお腹が空くのだ。
私は綺麗に磨かれたエナメルの靴を穿き、夜の町へと出かけて行った。




