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<第二十一話:昼、興行中にて:Pt.2>

 できれば使いたくない。けれどもこういう局面のために用意された機能ではある。私たちExタイプの戦力差を埋めるための切札ワイルドカード


 プリムラは私の遥か上空に居る。圧倒的優位を確信して私を見下ろしている。


 それはそうだ。彼女からすれば私は地をはう虫に過ぎない。潰そうと思えばいつでも潰せる。それほどまでの性能差があるはずなのだ。


 ゆえに勝つのに必要なチャンスは一度きりだ。彼女が再度攻撃のために落下してきたタイミングで彼女がかわしようのない状況の中で手斧ハンドアックスを振り抜く。やること自体はそれだけだ。タイミングさえ合えば、確実に仕留めれる。しかし、この一撃を外せば切り裂かれるのは間違いなく私の方だ。


 落ち着け。私は一息だけ大きく深呼吸して心を整える。焦るな、信じろ。あの狂人マッドサイエンティストが作ったブラックボックスを。


 やりたくないがやるしか無い。まだ打つ手がある以上、敵前逃亡ギブアップなんて選択肢は私には許されない。


 旧式オールドがどういうものか、戦いとはどういうことなのか、私が私の全力を以って彼女に教えてやる。私は補助人工知能に対し、あるプログラムの起動申請を行う。

 

<補助人工知能:狂戦士機能:開放>


<起動開始/>


 本音を言えば使いたくはない。


<順接>


 私の体から私の自我が消えていくのを感じる。末梢神経である指先から徐々に私という人間の部分が人工知能に乗っ取られていく。さながら全身を氷漬けにされていくような冷たい感覚。腕、足、腿、肩、背中、胸、首、そして脳。


――その瞬間、私のすべては人工知能に支配された。


 身体が動く。けれどもそこに一切の自我はない。他人が自分を操作しているような気分。そして、それは事実である。狂戦士機能システム・バーサーク。戦場で動けなくなった機械人形の操作権を一時的に人工知能に委ねることで人間の脳性能の限界を越えた動作を10秒だけ可能にする機能。戦地で一体でも多く敵を道連れにして死ねるように搭載されたもので、Exタイプ限定の自爆システムと言ってもいい。


 あれほど速く動いていたプリムラがとても遅く見える。ゆっくりとコマ送りで上空からおりてくるような感じだ。


 私の動きも緩慢に感じる。ゆっくりと冷静な思考で彼女の落下にタイミングをあわせ、後ろに足を引いて、全身のバネを使い手斧ハンドアックスを振り切る。


 まず砕けたのは日本刀。鍛えられた鋼が古びた鉄の鈍器によって砕け散る。そしてその反動を損なわず、プリムラの上半身に手斧ハンドアックスが突き刺さる。服を切り裂き、肉を砕き、骨を折る感触が手斧ハンドアックス越しに伝わってくる。すべて人工物ではあるが、人間を砕く感触とそれほどの違いはない。間違いなく仕留めた。普通の人間ならとうに死んでいる。


 

</起動強制停止>


<補助人工知能:強制停止>

 

 プログラムの終了を宣言された瞬間、私の身体に意識が戻り、周囲が通常の速度になる。


 通常を遥かに越えた出力で振り下ろされた手斧ハンドアックスは反動で私の指を砕き、支えるものを失って滑るようにすり抜ける。プリムラは斧が突き刺さったまま、衝突の威力で吹き飛ばされ、声を出すことも出来ず倒れ込んだ。


 続いて無理な駆動を続けていた膝関節が悲鳴ををあげる。自重に耐えきれなくなり、私はその場に膝をついた。焼けた砂の熱い感触が手のひらに伝わる。


 無理やり頭を回転させたようなめまいがした。続いてこみ上げてくる嘔吐感。こらえきれず、胃の中身をその場に吐き出した。未消化の食物、黄色い疑似胃液、さらに赤黒い血液油けつえきゆ。吐瀉物によって砂地が汚く染められていく。私は二度、三度と嘔吐を繰り返した。そして吐き出すものが無くなって、ようやく全身を痙攣させながら立ち上がれた。


 耳障りなほど大きく前時代的なファンファーレが鳴る。プリムラサイドからギブアップのコールがあったのだろう。この瞬間、私の勝利が確定した。観客席からは歓喜と悲哀の声が聴こえる。担架のようなもので運ばれているプリムラの姿が見えた。美しかった鋼鉄の翼は叩きつけられた衝撃でへし折れ、自らの血液で赤黒く染まっていた。


 それを見てようやく私は一息つくことが出来た。まったくまた満身創痍だ。五体は全部ついているが、頭の中をミキサーでかき回されたように気分が悪い。これならギブアップとどっちがマシだったのかはわからない。


――だが、勝ったのは私だ。


 二度目がないことを祈りながら、私は勝利の味を噛み締めた。

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