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<第十七話:夕方、パーラーにて>

 私はパーラーでレイラ、そしてなぜかついてきた謎の少女と一緒にお茶を飲んでいた。

 

 可愛らしい細工のされた椅子に座り、私はチンピラたちとの事の顛末を端末に入力していた。スティングに彼らとの慰謝料の交渉をしてもらうように打診をする。正直、金は好きだが銭勘定はさっぱりだ。経済に関する概念が薄すぎると自分でも感じる。とはいえ、私にはスティングに頼るしか交渉するすべを知らない。こんなんだから搾取されるんだろうな。コレに関しては自分の能力の無さを嘆くしか無い。


 テーブルに置かれたパンケーキと紅茶はレイラがお礼と言ってオーダーしてくれたものだ。天然物の生クリームの甘い香りと以前とはまた違う銘柄の紅茶が湯気を立てている。


 貴重な甘味と温かい飲み物はそれだけでありがたい。しかもご馳走してくれるとのことなので、お言葉に甘えてゆっくりいただくことにする。


「ありがとうございました」


 レイラはさきほどから何度目になるかわからないお礼の言葉を口にする。


「まぁ、よくあることだからね」


 それにしても私が4人殺してるにも関わらず平然とお茶をしているレイラにも驚きだ。この町では殺人は挨拶みたいなものだが、彼女はDJお手製の新式なのでてっきりショックで脳が意識喪失ブラックアウトでもするかと思った。この子の設計がどうなっているのかは気になるところではある。しかし、今はそれよりも気になることがあった。先程から平然とティーカップを傾けているフードを被ったこの少女だ。


「で、その女は?」


 私はパンケーキを口に運びながら尋ねる。ふんわりとした柔らかな感触と天然物のメープルが織りなす自然な甘みが口いっぱいに広がる。ささやかではあるのものしあわせの味がした。


「あ、この方は……」


 紹介しようとするレイラを少女は手で制して、真っ白なフードを脱いだ。流れるような金髪が私の視界に飛び込んでくる。


「プリムラは、プリムラと申しますわ」


 プリムラ。それが彼女の名前のようだ。上品な造りの顔立ちに長く美しい髪は人形めいた印象を私に与えた。間違いない、機械人形だ。品の良さならレイラと良い勝負である。途端に黒ずくめで血塗られた自分がみすぼらしく思え、劣等感にさいなまれる。


「私は旧式オールド。呼びにくければ少女ロリータって呼んで」


 私はパンケーキを切っていたナイフを皿に置いて右手を差し出す。


 彼女は手を取って、両手で優しく握り返す。やわらかく暖かな手はまるで人間のようであった。


「存じております。あぁ、お姉さま。会いたかったですわ」


「お姉さま?」


 妙な呼び方に首をかしげた。機械人形である私に妹はいない。身体を機械化する前のことは覚えていないし、軍属時代も同僚と部下と上司はいても『お姉さま』なんてこそばゆい呼び方をする人物は思い当たらない。


「えぇ、お姉さまです」


 けれども彼女は濁りのないまっすぐな瞳で私を見据え、そう言った。


「へぇ、少女ロリータさん、妹さんがいたんですねぇ」


 レイラはのんびりとした口調でパンケーキを口に運ぶ。ぷっくりとした柔らかな唇がもごもごと動く。平和を象徴するようなレイラの表情とは裏腹に私の思考は緊張感を帯びていく。私の知らない妹、可能性があるとすれば一つだけ。私の中で最悪の推理が形作る。


「プリムラはXXX-02という開発ナンバーで生まれました」


 プリムラは胸を張るようにして自己紹介を始める。


「プリムラたちXXXナンバーは、戦中において最も安定した量産機と言われていたZAR-27、その中でも最高傑作とまで言われたExタイプをベースにして開発されました。つまり……」


 私は無言で紅茶を口に運ぶ。かすかに腕が震えるのを抑えるために。


 ZAR-27シリーズ。戦中に配備された機械人形は私も含め大半がZAR社によるものだ。特に27番は高品質かつ低価格であるために最も生産された人型兵器として知られている。問題は語尾についたExの文字。番号のあとにExのつく機械人形はDJがカスタマイズしたものにしかつけることが許されない。通常よりも武装の汎用性に優れた強襲仕様の機械人形。その文字を持つ軍用機が配備された部隊はたったひとつ、私が所属した第七強襲部隊だけだ。


「プリムラは名実ともに“後継機”という位置づけになりますわ、お姉さま」


 プリムラはニヤリと、口元をゆがめて笑う。どうやら戦争が終わっても兵器である機械人形は必要なようだ。それなら軍用機でも良さそうな気がするが、また事情が違うのだろうか。私は音を立てないように気をつけながら、カップをソーサーに置いた。


「ふーん、で? その新式ニュータイプ様が私のところに何のよう? 見ての通りくそったれな星だから適当に無視してていいんじゃない?」


「それは勿論、性能試験のためですわ」


「性能試験?」


「えぇ、プリムラはプリムラの能力をプレゼンテーションするために興行に参加します」


 プリムラは胸に手を当て誇らしげに語る。


「ふーん」


 どうでもいい話だ。私には関係ない。適当にそこら辺の相手を潰して連邦政府様に褒めてもらえばいい。


「そして、最初の相手はあなたです。お姉さま」


「……は?」


「プリムラはお姉さまと試合をするのです。旧式オールドに負ける新式ニュータイプなど意味がありませんわ」


 確かに。私の知る限りは今地球に旧式の軍用機は存在していない。みな、戦後に事実上は廃棄されたからだ。しかし、単なる性能試験ならわざわざこんな星まで来てやらなくても連邦政府軍が保有する仮想現実試験場でいい。実機試験がしたければ人間との模擬戦でもすればいい。どうにも信じがたい話だ。


 テーブルに置きっぱなしにしていた私の端末が震えた。スティングから返信があったようだ。私はプリムラを尻目に端末に目を動かす。示談金の話をまとめてくれたのだろうか。文面に目を通す。


<返信:スティング:その件は俺がまとめておく。戻り次第興行だ。準備しておけ、相手は▼>


 相変わらず簡単に言ってくれる。こっちの命は紙よりも軽く思ってそうだ。私は文面の続きに目を通す。


<地球連邦政府軍直属の試作機だ。詳細はあとで説明する。>


 全く、次から次へとトラブルが舞い込む。本当に最低の一日だ。私は腹立ちまぎれにクリームたっぷりのパンケーキに銀色のフォークを突き立てた。


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