<プロローグ>
――生きるためにどこまで命を奪うことが許されるのだろうか。
私は手斧を掲げ、ふと、そんなことを考えた。
考えるだけ無駄なのはわかっている。そんなことを考えるほど私に余裕はない。
目の前には赤黒い液体で濡れた『少女』が座り込んでいる。 正確には『少女』という表現は異なるのかも知れない。 右腕は無残に引き裂かれ、左腕はあらぬ方向へと曲げられていた。
普通の人間ならばとっくに意識を失ってもおかしくない状況。 けれども少女はまだ意志を持ち、一切の身動きこそ取れないものの私に対して明確で獰猛な殺意を向け続けている。
少女は人間ではない。機械人形と呼ばれる自我を持つ機械の一種だ。
戦争用に開発された使い捨ての兵士。
そして、私も同じである。終戦と同時に廃棄されるべきだった兵器だ。
少女の視線は鋭い。憎悪を込めた視線はまだ戦って生きたいと願うことの証明だ。
だから私はその視線を。戦う術を失った哀れな獣を。
感情なく、ただ私が生きるためだけに、手斧を少女の頭部に向けて振り下ろす。
手斧ごしに伝わる皮膚と頭蓋骨と前頭葉を砕く感触。この手で何度味わったか覚えてすらいない。全生命を支える司令塔を失った少女は砂を敷き詰めた地面へと倒れこむ。 同時に周囲から湧き上がる歓声と罵声。勝者への賞賛と敗者への侮蔑。
喧騒を浴びながら、私は舞台を後にする。 手斧に染み付いた血液油を拭うこともなく、ただ無言で去っていく。その背中に投げつけられる言葉。
旧式、旧式と。
――私の名前を観客たちは呼びつづけた。




