前へ目次 次へ 2/27 第二夜 散 茜の空に紫の雲たなびく夕暮れ。 私の乗る車は海に向かって走っている。 左ハンドルである。握るのは還暦過ぎと思われる見知らぬ男。 私は後部座席深く座り、シートに身を預けて流れる景色を眺めている。 車は恐ろしく高度のある高架橋を渡る。下は入江。他に車は見当たらない。 橋の中程で男の姿が薄らいでいき、やがて霧散した。 車が散り、橋も散った。 私も粒子となって散る。 衝撃もないまま緑青色の水に沈みゆく。苦しみに身を委ね。