羽枦支部署 前編
東亰都全域は57地区に細かく分割されている。
その中の一つ羽枦区は、UCA関東本部のある東亰中央区からみて北東に位置する一番小さな区である。
東亰中央区のようにビルが多く建ち並んでいる一方でいまだ開発中の地域もある発展途上の区である。
羽枦区では犯罪者が少ないため、いままでは隣接する区にある支部署が異能犯罪に対応していた。
しかし一年前に仮設置として、羽枦区を専門に管轄する署(羽枦署)が設立された。
羽枦署の場所は、羽枦区のほぼ中心に位置している。
「ここか」
携帯のGPS機能を作動させた地図アプリ片手に、拳堂はやっとのことで辿り着いたその建物の前に佇んでいた。
拳堂の見上げた先には、まだ建てられて1年半の綺麗な三階建ての建物があった。
その建物の正面には、15台ほど停められる駐車場がある。
真正面は、車通りの比較的少ない二車線の東亰都道104号線で、その通りにはUCA羽枦署のほかにも羽枦警察署や羽枦消防署などの施設が立ち並ぶ。
商業施設としては飲食店やスーパー、本屋などが多く立ち並んでいる。
署の自動ドアを抜けると目の前に現れるのは空港でよくみるようなセンサー。
一般人がUCA署内に入るには、このセンサーを通らなければならない。性能こそ多少違うが空港にあるセキュリティーセンサーのようなものだ。
センサー右側には受付があり受付には、UCAの制服を着たワインレッド色の髪をした20代ぐらいの若い女性が座っていた。
受付の女性は拳堂の姿を見るなり一言。
「ご用件はなんでしょうか?」
「今日から羽枦署勤務になりました拳堂ダンです」
拳堂はそう言うと、先日の入隊式で配られた警察手帳とほぼ同じ様式のUCA手帳を開き写真を見せる。
「はい。これからよろしくお願いします。私は受付の久留女サエ(くるめさえ)といいます。腕時計は、支給されてますでしょうか?」
久留女は自分がしている腕時計を拳堂に見せながら言う。
「あっ、はい」
左腕には、入隊式にUCA手帳と一緒に支給されたデジタル電波腕時計をしていた。
この時計の裏側には自分の名前がローマ字で刻み込まれている。
さらに中に小さなICチップが埋め込まれている。
他にも様々な機能が備え付けられた万能な時計である。
「その腕時計を着けた状態でがセンサーを通りますと出勤や退勤などが記録されますので忘れないようにお願いします」
その腕時計に埋め込まれているICチップにはそれぞれの隊員の個人情報などが記録されており、UCAが管理するほとんどの施設に受付を通さずに入ることができる。
「実際は腕時計を忘れてしまった場合や壊れてしまった場合でも、特に大きな支障はないので大丈夫なんですけどね」
久留女はにっこりと微笑みながらそう言った。
「はい。ありがとうございます」
そう言うと、拳堂は受付に頭を下げ横を通り過ぎた。