灰色と純白の正義
ほんの数分後。ワンセグテレビの画面にあのジャッジマンが現れた。
政治家の演説かなんかとも取れる迫力のある声は同時に真剣さもこの番組を見ている視聴者に与えていた。
右上のテロップには『緊急生放送!! 世界No.2の男ジャッジマン現る!?』とあった。
「今から私が言う言葉は忌々しいREVOLuZの連中とそれに加担する世界各国のハンターに送る。時間が無いため簡潔に話す」
ジャッジマンはそう言うとキャスターが持っていたマイクを奪い取る。
「まずは正義と悪について。悪は黒だ。でも正義は白じゃない。どんな正義も灰色なんだ。正義のためだから殺してもいい。そんなことはありえない。人を殺すことは神への冒涜。己の正義を貫く事で人はどんどん黒く染まる。完全な黒になるかならないかはその人次第だ。しかし犯罪集団REVOLuZという輩に金で雇われ協力しているお前らハンターは真っ黒だ!!」
ジャッジマンの演説に拳堂の胸はざわついた。
「お前らハンターの恥晒しがこれ以上この日本にのさぼると言うのなら俺がお前らをジャッジする。しかし私とてそんなことはしたくない。君達ハンターもかつては金の為でなくただ人の為に働いていたではないか、今あの時のことを思い出し原点に帰る時なのではないだろうか。正義を全うして欲しい」
「私が必ずジャッジする」
ジャッジマンは最後に念押しするようにそう告げた。次の瞬間テレビの画面に映っていたジャッジマンが一瞬で消えた。そして新たに映し出されたのはUCAの隊服を着た人物達。指名手配犯ジャッジマンを追い辿り着いたのだ。UCAはカメラマンのカメラを強引に奪ったようでテレビの映像はそこで途切れた。
拳堂はジャッジマンの演説に心を打たれ感傷に浸りながら、パーキング代を払うため車を出た。拳堂は心の底からジャッジマンのことを信用してよかったと思った。
その時、体が一瞬で地面から離れ、フワッと体内の臓器が浮く感覚を味わった。
何事かと辺りを見渡す。
「ジャッジマン」
「おう。少年。君の協力感謝するよ」
拳堂の体を軽々抱えていたのはジャッジマンだった。拳堂は自分の姿に恥ずかしく思いながらも、まるでヒーローに助けられているようなそんな感覚も味わっていた。
ジャッジマンは道路を何回も跳ねながら進み、一度大きくジャンプするとビルの屋上に上がった。
「まだなにか俺に用があるんですか?」
「いやはや君の名前を聞いていなかった気がしてね」
「ああ……拳堂ダンです」
「ありがとう、ダン。私はしばらくここに留まるつもりだ、ハンター達が全員帰るのを見届けるまではな」
「分かりました」
「私はイリーガルエリアにそれまでいる。何かあったらここにかけるといい。すぐに駆け付ける」
ジャッジマンはそう言うと番号の書かれた紙の切れ端を拳堂に渡した。拳堂は拒否する理由もなかったためその紙を受け取った。
「一応貰っておきます」
「私がダンを信じたのは理由があるんだよ。君が私と同じくただ真っ直ぐな目をしていたからだ。だが違うのは君は犯罪者を無闇に殺したりしない、それが私と違う点だった。そんな君だったから私は君に興味を持ったんだ。私が殺すのは犯罪者だけだ。君ももちろん君の仲間も殺したりはしない」
「……」
「私はこれからも黒に物凄く近い灰色の正義を貫く。君は純白の正義を貫いてくれ。また会おう、ダン」
ジャッジマンは何かのヒーロー映画かのように微笑むとビルの屋上から飛び立った。
「カッコよすぎだな……ジャッジマン」