計画スタート
イリーガルエリアでの捜索結果は火ヶ丸の指示で結局何もなかったことになった。ジャッジマンの真意が分からない以上、仕方ないことと言えば仕方なかった。
拳堂が無傷でイリーガルエリアから戻るなり外で待機していた火ヶ丸と羊谷が安堵したのは言うまでもない。羊谷に至っては涙目で拳堂を抱きしめるほど心配していた様子だった。
拳堂は捜索から三日経った今もジャッジマンが計画した内容の真偽を考えていた。
『これが成功すれば……きっと変わる』
ジャッジマンの計画に協力するにしても、それはUCAの支持に背くことであることは明白であった。指名手配になっているジャッジマン。もちろん彼の隠れ家をひた隠しにすることもUCAを裏切ることだった。
しかし拳堂は今車の中にいる。運転席に座りイリーガルエリアまで迫れるだけ迫った車通りも全くなく、人通りもない道路に車を止め奴を待つ。
「少年。私は君を信じていた」
「いいから早く乗って貰えますか」
その大柄な男。黒装束に身を包んだ世界No.2の男、ジャッジマン。彼は車の後部座席に窮屈そうに乗り込んだ。
「少年。連絡は取ってくれたんだろうな」
「じゃなきゃここに来ないです」
「少年が私を裏切り、このままUCAに直行する可能性もあるからな。念のためだ」
拳堂は心の中で、そうかその手もあったのかと考えながら車をひたすら走らせた。後部座席にはスモークが貼られているためバレる可能性はない。
しかしすぐ後ろにあのジャッジマンが控えていることを考えると気が気でなく正気を保つのがやっとだった。しかし拳堂には全く敵意は感じ取れず何か父親のような安心感も僅かにあった。
車を走らせること数十分。車は中央区屈指の都会にまるで別世界のように存在する再建記念の大広場で止まった。
「よし。少年は嘘をついていなかったようだな」
ジャッジマンは大広場の様子を見てそれだけ言うと即座に車を降りようと手をかけた。
「あの!」
「どうした少年」
「僕も貴方のことを信じてますから。僕を信じてくれた貴方を信じますから」
ジャッジマンは拳堂の言葉に一度ゆっくり瞼を下ろすと拳堂の肩に手を置き、静かに任せてくれ、と言葉を残して車を出た。
拳堂はその大広場にジャッジマンが降り立つのを確認し、そしてもう一点テレビ局のクルーが大勢いるのを確認すると、嬉声にも叫び声にもとれる歓声を後に拳堂は車を走らせた。
拳堂がイリーガルエリアでジャッジマンから頼まれたことは四つ。
一つは指名手配犯になり外を動きづらくなったジャッジマンをこの再建記念大広場に護送すること。
二つ目は大手テレビ局クルーの手配。拳堂は匿名でこの日のこの時間にジャッジマンが来ると一部のテレビ局にリークをしていた。公衆電話を利用したため早々足が残ることはないだろう。
三つ目はジャッジマンを送り終えたら出来るだけ遠くに行くこと。これは拳堂の身を案じたものだった。
最後の四つ目は――。
拳堂はここから羽枦署に戻るのはさすがに気が引けたため、手近なパーキングに車を駐車しナビゲーションからワンセグテレビに切り替えた。
このパーキングで、ジャッジマンの計画の一部始終を見送る事を決めた。