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世界を背に拳を放て ~UCA-異能犯罪対策隊~  作者: 寝倉 響
黒の英雄 ~血塗られた正義~
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真夜中の通報。

 夜、羽枦署異能犯罪対策室に一本の通報が入った。通報内容は異能者が異能を無断で使っているという内容だった。しかし奇妙だったのは通報者の声が変声機で変わっていることだった。

 念のため、当直として異能犯罪対策室に残っていた拳堂は同じく残っていた泳斗を残して現場へと向かうことになった。

 そこは羽枦区でも未開発の南地区。

UCA発足前に日本各地で発生した異能者の無差別テロによって、廃墟と化した建物が多く建ち並び、犯罪者の巣窟と化している。



 拳堂は防寒コートを羽織り、UCAのバイクに乗り、現場まで走らせると、通報のあった道路に停めた。

 かつては大通りだったと思われる二車線の道路も、信号や外灯があるが当然のごとく灯りは灯っていなかった。

無差別テロの影響なのか両脇にある建物は黒く焼け焦げていたり、崩れている。

二車線の道路上には運転手を失った車やバイクなどが所々に置き去られている。

 拳堂は周辺を歩き、辺りを見渡すが通報にあったような異能者の影は見当たらない。

いたずらかと思、い自分のバイクへと戻ろうとした時だった。


 拳堂の背中に重たい衝撃が走った。

その衝撃とともに拳堂の体は遥か彼方へと吹き飛ばされ、道路上に置き去られた白いトラックの荷台に叩きつけられる。その勢いのまま荷台を転げ落ち道路上に体を打ち付けた。


 拳堂が何事かと思い目を開け体を起こそうとした時、今拳堂が転がり落ちたばかりのトラックの荷台に、何か重たいものがのしかかる音がする。

つぶれへこんだトラックの荷台の上を見上げる。僅かに光る月から見えるシルエットは黒い大きな人影。

拳堂は腕時計のライトでその人影を照らした。

スキンヘッドでサングラスをかけた黒人、年は30代ほど、両手は肩から徐々に大きく黒い毛が生えていきいき大きな黒いゴリラの拳へと繋がっている。

上半身裸で下半身に作業着とブーツを履いたその男の風貌は異様なものに思えた。


「Are you rank?(お前のランクは?)」


 拳堂はその言葉で相手が外国人だと確信すると腕時計を操作。

翻訳モードへと切り替えた。すると左耳にしたハンズフリーイヤホンにその英語が日本語に翻訳され聞こえてくる。


「Kill the time being.(まあ、とりあえず殺すか)」


 その男は拳堂が答えるのを待つことなく、トラックの荷台から飛び降り、拳堂にのしかかろうとする。

拳堂は横へ転がり、それを避けるとすぐに立ち上がり拳を放つ。

 拳堂の放った拳が、その男の左肩に触れると爆発を起こし煙が上がる。

しかし男はダメージを負った様子を感じさせず、その煙から右腕を伸ばすと拳堂の襟元を掴み上げる。

そして空いた左手を振りかぶり放とうとした、その時だった。


 拳堂の目の前にいた、男の巨体が右へと大きく吹き飛ばされ、道路上に放置された車のボンネットに大きな音を立てて叩きつけられるのを目撃する。

拳堂は飛ばされた男から自分の正面へと視線を戻す。

 あの男と代わり目の前に立っていたのは、またも巨体な男。

その男はピッシリとした全身黒のスーツを纏い、背中には黒いマント、そして手には黒いグローブ、足には黒のブーツを履いている。

下から上へと視線を移していくと、胸の辺りに大きくJのイニシャルが入っていることが分かった。

そしてそのまま上へと視線を移していくと、顔の目元に黒いヒーローマスクを着けていることもわかる。

 拳堂はその男の服装に見覚えがあった。


「ジャッジマン?」

 拳堂はふいにそうポツリと溢す。


 その声をかき消すように、飛ばされた男が車のボンネットを強く蹴りこちらへと飛んできた。


「Do you aim also guy.(お前の狙いもこいつか)」


 飛んできたその男は空中で拳を握りしめ、攻撃準備を整える。


「KingKong.(キングコング) I'm afraid.(残念だよ)」


 ジャッジマンはそう呟くと、こちらへと飛んでくるキングコングに体を向け、太く筋肉が盛り上がった腕を後ろへ引き拳に力を込める。


 キングコングは空中で拳を強く握りしめる。すると同時に体から黒い毛がうっすらと生え上半身を覆っていく。

体は肥大化し、まるでゴリラのような姿へと変貌を遂げた。


 お互いの巨大な拳がぶつかると、それに伴い周りの空気同士がぶつかる。急激に空気が圧縮されるような音が拳堂の耳へ届いたかと思うと、強烈な爆風が砂煙とともに襲いかかる。

爆風が晴れ、拳堂の目に写ったのはジャッジマンの右拳とキングコングの左拳がぶつかりあったまま固まっている光景だった。

しかしその画面はすぐに移り変わる。

ジリジリと筋肉と筋肉が擦れ合う音が聞こえたかと思うと、ジャッジマンの拳がキングコングの拳を打ち返し、キングコングはまたも道路に置き去りにされた車のボンネットへと飛ばされてしまう。

 

 ジャッジマンはその様子を見届けると、拳堂の顔を眺め微笑む。

そして後ろを振り返り路上に置き去られた、車の上をうさぎのように飛んでいき、暗闇へと消えていった。






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