生活課からの案件。
「うわ、なんなんだ。お前は誰だ!?」
スーツを着たサラリーマン風の男は暗闇の中を命からがら逃げてきたが、ついに追い詰められた。
男の背中に触れるのは冷たく冷えきったコンクリートの柱。
「Judgeman……」
もう一人の大柄な男はそう呟くと、追い詰めた獲物を逃がすまいと目の前に迫る。
「おいやめてくれ……まだ死にたくない……」
男は怯えた口調でそういうと、もう一人の男が向けた銃口から逃れようと動こうとするが、恐怖で体が動かない。
「The original of justice in the name……(正義の名のもとに)」
サラリーマン風の男は、自分に銃口を向ける男の顔を見上げた。
そして深夜、暗闇に包まれる高速道路高架下で二発の銃声が鳴り響いた。男が最後に見たのは、黒いヒーローマスクをつけた男の顔だった。
UCA羽枦支部では立花喜一殺人事件及び工場跡でのREVOLuZとの交戦という大きな事件を乗り越え、いつも通り平和な日常を送っていた。
その時ノックが2回聞こえ、まもなく異能犯罪対策室の扉が開いた。
そこにいたのはUCAの制服を着た男。
中年太りしたその体型と顔に浮かぶシワは年齢からくるものであろうと見受けられた。
「どうした、半山ちゃん」
火ヶ丸はその人物と面識があるようでそう声をかけた。
「火ヶ丸。一応生活課の案件なんだけどな、人手が足りないからお願いしたいんだ」
半山はそういうと一枚の書類を火ヶ丸の元へと持ち渡した。
「どうせ暇だろ。じゃあ頼んだぞ」
半山は部屋を見渡し、そういうと部屋を出ていった。
「なんなんですか……あの小デブ」
土伊は一方的に仕事を押し付けた半山に向けて、そういった。
「なに、土伊ちゃん。半山のことそう呼んでんだ」
火ヶ丸はそういうと顔に苦笑いを見せた。
火ヶ丸は受け取った書類を読み始めた。
内容は羽枦区内に在住している女性が異能許可証を偽造しているという内容の文面だった。
その女性の名前は篠瀬まりこ。
篠瀬は区内のインテリアショップに勤めるごく普通の事務員。
火ヶ丸と拳堂は羽枦署を出て電車に揺られていた。
「異能許可証の偽造って儲かるんですかね?」
拳堂は吊革に右手を置きながら目の前に座る火ヶ丸に尋ねる。
「ああ、儲かるだろうな。異能許可証にはUCAの厳正な審査が必要な上、費用もかかるしな」
火ヶ丸がそういうと電車が駅に停車した。
火ヶ丸と拳堂はその駅で降り、改札を抜けた。
そして火ヶ丸は拳堂を連れて、篠瀬が勤めるインテリアショップ シャトールに訪れていた。
シャトールのオフィスは羽枦区の中でも活気が溢れ、区内の経済の中心となっている中央区域のビル街にあった。
二階建てのそのビルは、インテリアショップということもありビル街に建ち並ぶ他の建物とは違いオシャレな雰囲気を醸し出していた。
火ヶ丸と拳堂がシャトールの受付に事情を話すと中へと通された。
シャトールのオフィスは2階にあり、一人一人の席が薄い壁で仕切られていた。
「それでは案内致します」
火ヶ丸と拳堂の前に先導して案内する受付嬢はそういうとオフィス内を進んでいく。
火ヶ丸と拳堂は受付嬢の後を歩きながら横目で仕事をしている私服の社員の様子を見る。
社員は壁で遮られたデスクの上でパソコン、紙と鉛筆などで家具のデザインを書いていた。
「この仕切りは盗作防止のものですね」
火ヶ丸は前を歩く受付嬢にそう尋ねた。
「そうですよ……まあこの前デザインが流失したとかで騒いでたんですけどね。噂によると誰かが他社に渡したとか」
受付嬢はそういい、こちらを振り返ると微笑んだ。
そうこうしているうちに受付嬢は立ち止まった。
そこは壁で遮られていた場所と通路を挟んで区切られていた。
一人一人のデスクに遮るような壁はなく机が幾つかまとまって置かれていた。そこは会計科と書かれていた。
「篠瀬さーん。お客さんですよ。じゃあ私は失礼しますね」
受付嬢はそういうと頭を深く下げて自分の持ち場へと戻っていった。
その女性は茶髪の長い髪で20代の女性だった。
しかし、まだ若いのにもかかわらずブランド物の服を身に纏い、左腕には高級時計がつけられている。また机の上にはブランド物のポーチも置いてあった。
「どちらさま?」
篠瀬は火ヶ丸と拳堂をじっくりと眺めながらそういった。
「どこか話せるところはありますか?」
篠瀬に案内され火ヶ丸と拳堂は応接室にある椅子に座る。
「早速ですが、篠瀬さん。あなたに異能許可証偽造の疑いがかけられているのですが、今日はそのことについてお話を伺いにまいりました」
火ヶ丸は半山に渡された資料を片手に持ちながらそう尋ねた。
しかし、篠瀬はなにも答えることなく片手でスマートフォンをいじっていた。
火ヶ丸と拳堂はお互い顔を見合わせて、その姿に呆れた表情を見せた。
10分ほど、篠瀬から事情を聞こうとしたが、まったく答える様子がなく、任意の取り調べなこともあり、これ以上なにも情報を得ることが出来ないとみると火ヶ丸と拳堂はシャトールを後にした。
「拳堂、明日篠瀬仕事が休みみたいだから動向探ってみてくれ」
「火ヶ丸さんはどうするんですか?」
「各支部の署長が本部に緊急召集されることになってな、なんか会議やるみたいで行かなきゃならん」
火ヶ丸はめんどくさそうに頭を掻きながらそういった。
翌日。
拳堂は篠瀬が住む高層マンションの近くで張り込んでいた。
昼頃になると篠瀬はサングラスに深い帽子、黒で統一された服で出てきた。
拳堂はあわてて篠瀬の後をつけていく。
篠瀬は頻りに辺りをキョロキョロとしながら都市部へと歩いていく。
大勢の人が歩く商店街の歩行者天国に入ると、するすると人を掻き分けて進んでいく。
やがて篠瀬は抜け道で立ち止まった。
そして辺りを見渡すとその抜け道へと入っていった。
拳堂はあわてて人混みを掻き分け篠瀬が入っていった抜け道へと走っていく。
その時、拳堂の体に何か壁のような固いものがぶつかり拳堂の体は吹き飛ばされる。
倒れたまま抜け道の先を覗くと既に篠瀬の姿は見えなくなっていた。
「やってしまった……」
拳堂がそう呟くと、ゴツゴツとした白く大きな右手が拳堂の元へと差し出された。
「I'm sorry. Are you okay?(すいません。大丈夫ですか?)」
拳堂は差し出された右手から顔へと辿りその声の人物の顔を見る。
その人物はセットされた金髪、金色の眉、青い瞳、ニッコリと微笑む口元を見せていた。
体つきは格闘家のようにガッチリとしていて、スーツから筋肉が分かるほどだった。
「あああ、No problem. No problem(大丈夫です)」
拳堂は慌ててそう言いながら差し出された手を握った。
すると、拳堂の体は大きな力で軽々と引き上げられた。
拳堂はその力に驚き唖然とした。
「Thank you (ありがとう)」
拳堂のその言葉を聞くと、そのアメリカ人はニッコリと微笑み、去っていった。