欠けた刀馬班、新たな一歩……。
「一角、大丈夫か」
病院のベッドで横になる一角に声をかけたのは刀馬だった。
刀馬の横には、一角と同じく入院着を着た影裏がいた。
先日の工場跡での事件。緑山率いるUCA隊員達が現れたことでREVOLuZ幹部烏間をはじめとする四名のREVOLuZメンバーは逃走した。
そして工場跡を捜索していたUCA隊員達に発見された、火ヶ丸班のメンバーや刀馬班のメンバーはUCAの救護班によって治療を受けていた。
刀馬は軽傷で、影裏も大した怪我ではなかったが、一角は腕や肋骨などを骨折しており重傷だった。
治療を受けた刀馬達は車でUCAの経営する異能者専門病院のベッドで次の日の朝を迎えた。
「刀馬さん、それよりも処分は大丈夫だったんですか?」
一角は体を起こすと刀馬にそう尋ねた。
「ああ--」
刀馬は審問会に出席するためUCA関東本部 第三棟に訪れていた。
会議室という名のドアまで女性隊員に案内され、会議室のドアが開かれた。
中は天井に大きな丸い照明が点いているのにも関わらず薄暗かった。
半円状の黒い机が並んでおり、その外側に椅子が設けられており、幾つかの空席がありながらも5人ほどの人物が座っていた。
立ち尽くす刀馬に案内してくれた女性隊員が、その席に座ってくださいと声をかける。
刀馬は失礼しますと声を出し正面にあった椅子に座った。
刀馬が着席するのを確認するとその女性隊員は深く礼をして部屋を出て扉を閉めた。
「刀馬真一。SS級隊員。本部所属刀馬班班長。間違いないね」
刀馬の真正面に座っている、眼鏡をかけた50代ほどの男は紙の資料を見ながらそういった。
その眼鏡の男が着ているのはよく見ると普通のUCAの制服ではなく、真っ黒な生地で作られた服を着ている。
その眼鏡の男性の他に座る四人も同様の服だった。
「はい。間違いないです」
「私は亘山というよろしく。今から刀馬真一に対する審問会を始める」
亘山は表情を一切変えることなくただただ言葉を出していく。
「今回の件は、君の部下だった烏間ヤイトがREVOLuZ幹部だということについてだ。もちろん警視庁からの出向を許可した上層部にも責任はあるが君の監督責任も問うこととなった」
亘山は紙の書類を次々とめくりながら声のトーンを変えることなく冷淡に話していく。
「そりゃあ酷くないすか、亘山さん」
亘山に対してそう突っ込んできたのは、刀馬から見て亘山の右側に机の上に足を置き座る、頭にヘアバンドを着けたスキンヘッドの若い男。
「棘里、うっせぇぞ。黙って聞いてろ」
スキンヘッドの棘里にそう声をかけたのは、刀馬から見て一番左側に座っていた赤髪の男。傍らには巨大な大剣が置いてある。
「あ!? やんのか赤門!!」
棘里は赤門に向けてそういい放つ。
「二人ともやめなさいよ」
その争いを止めようと間に割って入ったのは赤門と亘山の間に座っているグレーのつば付きニット帽を被った白髪の男。
への字のように閉じた目は老人特有のものだった。
「はぁ~、くだらないですね。私は帰らせて貰いますよ」
新たに声を上げたのは亘山と棘里の間に座る30代頃の長い紫の髪の女性でその紫髪の女性はそういうと立ち上がった。
「冴季夜君も落ち着いて」
白髪の男は紫髪の冴季夜をなだめるかのように声をかける。
「弌倉さん……」
冴季夜は弌倉の顔を見ると大人しく席に座った。
「赤門君と棘里君も大人しくしててね」
弌倉は二人の顔を見ながらそういった。
「っち、弌倉さんが言うなら仕方ねぇな」
棘里はそういうと椅子に座り直した。
刀馬はほとんど見たことのないUCA隊員であろう者達が争っている様子を見て困惑していた。
刀馬が唯一分かったのは、入隊式で新入隊員の個名を行った紫のロングヘアーの女性、冴季夜ウーマだけだった。
「やれやれ、続きを始めよう。刀馬真一、君には我々‥‥黒狗に異動してもらう」
亘山は机に置いた手を組みながらそういった。
「黒狗ですか?」
刀馬はまったく聞いたことのない単語に頭を悩ませる。
「ああ、今までの班長という地位から班員となる。要するに左遷だな」
「ちょっと待ってください。黒狗ってなんなんですか?」
「クロイヌはつい先日、結成が決まった凶悪異能犯罪者制圧特殊部隊ってとこだ。警察でいうところのSATのようなものだ。この部屋に居るのが今のところのメンバーだ。あと何人かはまだここに着いてないがな」
亘山のその言葉を聞くと、刀馬は部屋にいるクロイヌのメンバーの顔をじっくりと眺めた。
「この事はまだ極秘事項だ。詳しい連絡は後日する。審問会は終了だ」
「実はな、俺は班長から降ろされることになったんだよ。刀馬班は解散だ。お前らはまた新しい班に配属されることになる」
刀馬は一角と影裏に不安を与えないように、笑顔で一角と影裏にそう伝えた。
「なんでですか!? やっぱり烏間さんがREVOLuZの幹部だったからですか?」
一角は興奮気味にそういった。そして布団をはがしベッドから降りようとした。
「まあ、落ち着け。これからもお前らは俺の部下だ。短い間だったがありがとな」
刀馬はそういうと一角の両肩に両手をポンと置いた。
続いて影裏の肩にも同様に手を置いて、病室の出口の方へといった。
「がんばれ」
刀馬は後ろ向き様に手を振って出口の戸を開けて出ていった。