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火ヶ丸 vs 歴戦の牛戦士 野神行武

 火ヶ丸は田んぼの田の字に分かれた工場跡内のうち、左上の部分の捜索を担当した。

そこは他の三つとは異なり、損壊が進んでおり屋根が半分ほど工場内の床に崩れ落ちていた。

そのため、工場内は月明かりで照らされ、工場内を目視出来るほどの明るさは確保されていた。

しかし、中に人を隠せるような物などは見当たらず、一角の姿はなかった。


 火ヶ丸が倒壊して崩れ落ちた屋根の下を覗き捜索していたときだった。

火ヶ丸の背中にでかいハンマーが当たったような強烈な痛みが脳まで走り体が飛ばされる。

火ヶ丸は工場の北側の壁に激突し地面に落ちていった。

大量の砂ぼこりが舞うなか火ヶ丸は立ち上がり自分を飛ばしたモノの正体を見極めようと目を凝らす。


 やがて、砂ぼこりが晴れ、火ヶ丸の目に映ったのは巨大で黒い牛の獣人(じゅうじん)

その姿はまるでギリシア神話に出てくるミノタウロスそのものだった。

筋骨隆々のその黒い体は、月が照らす明かりに照らされさらに立派なものに思えた。

両手にはセスタスと呼ばれる古代ローマの拳闘士が身に付けていたという装備をつけている。


「野神さん。やっぱりあなたは」

 火ヶ丸は見覚えのあるその姿の人物にそう声をかける。


「ああ、俺はREVOLuZの一員だ」

 野神はそういうと大きな巨体とは思えないスピードで大きな足音を立てながら向かってきた。


 火ヶ丸は歯を噛み締め、恩師を倒すということに覚悟を決める。

火ヶ丸は天高く雄叫びをあげる。

火ヶ丸は漆黒の犬へと獣人化を遂げた。


 野神は右腕を後ろへと大きく引いた後、それを突きだした。

火ヶ丸はその巨大な腕をスレスレでかわす。

火ヶ丸の視界に野神の腕が通りすぎた。

そのまま火ヶ丸は野神の脇下へと入り込み、炎を纏わせた左拳を野神の腹向けて思いきり殴る。

しかし、割れた筋肉で覆われた野神の体はダメージを受けず、火ヶ丸の火で野神の腹の牛毛が焼けただけだった。


 野神は腹から黒い煙が上がっているのを気にもとめない様子で火ヶ丸の体を片手で掴みあげると上空へと投げ飛ばした。

そして落ちてくる火ヶ丸の体を二本の角が映えた牛の頭で頭突きをした。

が、火ヶ丸は空中で体勢を整え、野神の頭に片手を当てて倒立した。

そしてそのまま当てた手のひらから炎を発射させた。

野神の頭上で小さな爆発を発生させると、火ヶ丸を野神の頭から飛び降り地面に着地した。


 野神は苦痛の表情を浮かべていたが叫び声を上げてその痛みを吹き飛ばした。

火ヶ丸はその叫び声に体をブルッと震わせる。


「野神さんなんでですか」

 

「お前にはわからないさ……」

 野神はそういうと火ヶ丸に向けて駆け出す。


 野神は大きな腕を振り連続で攻撃を繰り出す。

野神が拳を降る度に空気を切り裂くビュンという音が鳴り響く。


 火ヶ丸はそれをかわしてゆき、右左と野神の体に火を纏った拳を放ってゆく。


 野神はその拳をかわすことなく、受け続ける。

しかし、徐々にダメージが蓄積されていき野神の動きはどんどんと鈍くなってゆく。

やがて、野神の動きが停止する。

しかし、野神は最後の力を振り絞り拳を放つ。


 無惨にも火ヶ丸は顔を右に移動させ避ける。

そして右の手のひらを上に向け拳を握る。

握った拳の中から炎が溢れる。

その拳を大きく振りかぶり、野神の体を突き上げるように振るった。

すると、野神の体は火ヶ丸の拳を支点としてぐったりと折れ曲がり、爆煙(ばくえん)とともに上空へと飛ばされた。

そして大きな音を立てて地面に叩き付けられた。

すると、野神の体は徐々にミノタウロスから人間へと戻っていった。


 火ヶ丸は倒れた野神に駆け寄ると、傷だらけになった野神の体を起こした。


「野神さん、なんでREVOLuZなんかに……」


「孫のためだよ。お前らも調べたから分かってるだろ」


「そのためにREVOLuZに入ったんですか」

 火ヶ丸は昔の正義感溢れる野神を思い出してそういった。


「莫大な金が必要だった。俺の家に遺書がある、それを見てくれ。そして俺はここで殺せ」

 野神は火ヶ丸に抱き抱えられながらそう呟いた。


「野神さん、貴方はここで死なせません。日本のためにREVOLuZについて知ってる情報を聞かせて貰いますよ」

 火ヶ丸はそういうと腰から手錠を取り出し野神の腕にかけた。


 そして野神を立ち上がらせ、工場から出て工場跡内の中央を通る通りに出た。

火ヶ丸は野神に肩を貸し一緒に工場跡入口へと歩いて行く。


 ズサァッッ!!


 火ヶ丸の耳元で大きな音が鳴り響いた。

そして火ヶ丸の顔をはじめとする左半身に何かが飛散した。


 ポタッ

 

 何かが落ちる音が聞こえ、落ちたモノの正体を見た。

それは人間の右腕、自分の肩を貸した野神行武のモノだった。

火ヶ丸は嫌な予感がして、ゆっくりの左を向いた。

そこには右腕を切断されて、その場に倒れこんでいる野神の姿があった。

切断時に飛散した血がその場に大量に流れ出ていた。


「野神さん!!」


 火ヶ丸はすぐにしゃがみ右腕を失った野神に寄り添う。

そして制服の上着を脱ぎ、野神の腕の切断面から流れる大量の血を止めようと圧迫する。

しかし、流れ出る血は滝のように止まることはなかった。


「火ヶ丸……これから頑張れよ……」

 野神はそういうと最後の力を振り絞り、ゆっくりと左手を上げそれを火ヶ丸の肩に置いた。


 野神は息を止めた。



 その時、火ヶ丸の後ろに誰かが降り立つ音が微かに聞こえた。






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