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真夜中の訪問者……

世界は不平等だ。

そして、人間も。

平等を唱う言葉は全て理想だ。


よって優劣を感じた人間は争う。


故に、ここは弱肉強食の世界。

強者は生き、弱者は死ぬ。


ただそれだけだ……



皇 ハテルマ

 グッドストアと書かれた大きなポール看板が目につく。

このコンビニは、新しく都道が出来たことによって過疎化した旧道沿いにある。

駐車スペースは乗用車三台とバイクと自転車の駐輪スペースだけと少なく、車通りも少ないことも相まって、幸いなことに車は一台も駐車されていない。

しかも、ガラス張りの壁越しに外から店内を覗き見ると客が一人もいないことが分かる。


 男はそのコンビニを今夜のターゲットにすることに決めた。


「強盗だっ!! ここに金入れろ!!」


 客のいない静かな店内に、似つかわしくない荒げた声とともに入ってきたのは、黒いパーカーに黒のジャージそして黒いニット帽、片手に黒のスポーツバッグを身につけた人物。

その人物は、だらしなく髭を生やした30代ぐらいの男性だったのだが、目の下にクマがあるせいか年齢の割には十歳ぐらい老いて見える。

その男性が放った声は、深夜客のまったくいないコンビニ内に大きく響いた。


 店員はレジにいたバイトの女子大生の一人だけだったため、刃物を向けられた店員には断るという選択肢はない。

店員は言われるがまま今日の売り上げが入ったレジをあけ、強盗がレジ台に放った黒いスポーツバッグにお金を入れはじめる。


 ちょうどその時だった、コンビニの自動ドアが開き客の来店を知らせるチャイム音が、静まりかえったコンビニ内に響く。


 強盗は咄嗟に突きつけていたナイフを懐に隠し、レジ台の上に置いていた金の入ったスポーツバッグのチャックをしめ態勢を整える。

強盗は懐のナイフを体で隠しちらつかせる。そして、余計なことを言わないようにと、店員だけに聞こえるような声で脅した。

同時に右足で隠すようにしながら左足で貧乏ゆすりを始める。


 店に入ってきたのはスーツ姿で黒縁の丸眼鏡をかけ、髪は短い天然パーマで年齢は20代くらいの男性。

その眼鏡の男性はしばらく雑誌コーナーの前で漫画雑誌 週刊少年ホップを読んでいた。

その間強盗はなかなか帰ろうとしない眼鏡の男性にイライラしながらも我慢をし、店員に睨みをきかせ続けていた。

イラつく強盗とは裏腹に店員のほうは眼鏡の男性が現れたことに多少の安心感を得ていた。


 やがて眼鏡の男性は雑誌コーナーを離れて買い物カゴを持ち、店内を一周するようにぶらぶらと歩く。

そして、5分ほど経ったところでレジの方にカゴを持って向かってきた。

強盗はレジの店員に余計な真似するなと無言の圧力で脅してから、眼鏡の男性の会計をするように顎で指示を出す。


 レジの店員はなるだけ平常を装い、隣のレジへと移動し眼鏡の男性を案内する。

そしてカゴの中に入っていたものを確認すると、カップラーメンとお茶だけだった。


「向こうのお客さんは大丈夫なんですか?」

 眼鏡の男性は強盗のほうをチラッと見てからそういった。

強盗のほうはその視線に気づいたがすぐに目をそらす。


「……はい。大丈夫ですよ」

 店員はあくまでも平静を装いそう答える。


「……じゃあ。おでん貰ってもいいですか?」


 店員は強盗の顔をチラッと見る。

強盗は呆れた顔をしていたが店員の方を見て一回頷いた。


「どうぞ なにになさいますか?」


 眼鏡の男性はレジの隣に設けてあるおでんコーナーに目をやり、腕を組み少し考えたあとに答えた。


「えーとじゃあ。はんぺんと大根、それとウインナー巻きお願いします」


 店員は慣れた手つきでおでんを器にとったあと、レジをうち会計に加える。

眼鏡の男性は、店員がレジを操作している間に、ズボンのポケットから折り畳み式の黒革の財布を取り出し小銭入れをあさりはじめる。


「690円になります」

 

「700円でお願いします」

 そう言うと眼鏡の男性は財布から500円玉一枚と100円玉二枚を取り出しレジ台の上に置いた。


店員はお金を受け取るとレジを操作しお釣りを出す。


「はい、10円のお返しです」

 店員は10円とレシートを手渡すと、おでんと割り箸をレジ袋に入れると、カップラーメンとお茶も同様にしてレジ袋に入れ、それを眼鏡の男性に手渡した。

そして店員はできる限りの笑顔を作り、眼鏡の男性を見送り頭を下げた。


 眼鏡の男性はおでんの袋とカップラーメンとペットボトルのお茶が入った袋を、両手に抱えて満足そうに自動ドアへと向かう。そしてコンビニを出て雑誌コーナーの目の前を通りすぎる。


 強盗は会計の間もずっと貧乏揺すりを続けており、ようやくその眼鏡の男性が自動ドアを抜け店内のガラスから見えなくなると店員をまた自分のところへ呼びつけた。


 そしてナイフをまた突きつけて、残りの金を入れさせる。

強盗は安心して笑みがこぼれる。しかし、先ほどの眼鏡の男性がコンビニに戻ってこようとしていることに気づかなかった。

眼鏡の男性がコンビニに戻ってきていることに気づいた店員の手が止まる。

それを見た強盗は言った。


「さっさと金いれろ!!」


 その時レジの自動ドアがチャイムの音とともに、ふたたび開く。開いたドアの前にいたのはさっきの眼鏡の男性。


 眼鏡の男性はポカーンと口を開け、苦笑いをしながら言う。


「割り箸入ってなかったんですけど……あれ……もしかして……取り込み中ですか?」


 ドアの方からはしっかりと、ナイフ持った黒ずくめの男と、店員が怯えながら金を入れている様子が見える。

強盗はとっさにナイフを懐に隠し、金が顔を見せるスポーツバッグのチャックを閉めたがもう遅い。

強盗は蛇が蛙を睨むかのように店員を見る。店員は確かに割り箸を入れたはずだと記憶をさかのぼる。


 眼鏡の男性がどんどんこちらへ近づいてきたため手前のレジあたりについたとき、強盗はあきらめたようにナイフを眼鏡の男性のほうに向け脅した。


「強盗だ!! 死にたくなきゃ動くなよ!!」


 その言葉を聞いた眼鏡の男性は、当然ながらびっくりした様子を見せた。


「手あげとけ!!」


「あの……おでんとか、とりあえず台に置いていいですか? 袋置かないとちゃんと手あげれないので……」


 おでんの袋とカップラーメンとお茶が入った袋を両手に持ったまま手を挙げていた眼鏡の男性はそう言った。


「……その袋置いて手上げとけ」


 眼鏡の男性は手前のレジ台にさっき買ったものが入った袋を置き、

そして両手を頭上に上げる。

それを確認すると強盗は、ナイフを眼鏡の男性のほうに向けたまま、店員のほうに顔だけをもどし、金を早く入れるように指示を出した。


 眼鏡の男性は強盗が店員に気をとられている瞬間を見逃すことはなかった。

手を下ろし右の拳を握りしめ右の肘と右足そして右半身を大きく後ろに引く。


 強盗は眼鏡の男性の方から生暖かい風のようなものを感じた。

そして振り向いた強盗は眼鏡の男性の不自然な格好を見て、ナイフの切っ先をその方向に向け一歩足を踏み出した。


 レジにお金を入れていた店員は、思わず あっ という声をこぼしそうになる。

なぜなら、眼鏡の男性が振りかぶった右拳を強盗の方へ思いっきり押し出したからだ。

しかし強盗がいるのは店内奥のレジ。眼鏡の男性がいるのは手前のレジ。

2~3mほど離れているためその拳は、届くはずがなかった。


 強盗は拳が届くわけないことを悟ると眼鏡の男性にナイフを片手に向かっていく。


「空拳」


 眼鏡の男性はポツリとそう呟く。


「あはは、おまえなにいっ……」


 強盗はバカにしたような顔でそういいかけた。


 ボンッ!!


 店員はいま起こったことに信じられずに口を丸く開ける。

眼鏡の男性が右半身とともに拳大きく前に突き出した。

しかしその拳は届くはずはなく、安心した強盗が笑いながら眼鏡の男性に近づいていく。

もうダメだと思ったとき、空拳という声が聞こえ、その言葉を聞いたすぐあと。

とてつもない風とともに、何かがものすごいスピードで目の前を通りすぎ奥の空になった弁当棚まで飛びぶつかった。幸い弁当棚に商品は置いていなかったが、案の定、弁当棚は壊れていた。

そして飛んでいったのは何かと、レジ内から出て確認するとあの強盗が白い泡を口から出し失神している姿が目に入った。


 振り返ると眼鏡の男性がやってしまったと言わんばかりに苦笑いをして立っていた。


「あらら、すいません。やりすぎました……警察呼んだほうがいいですよね。自分呼びますね」


 店員はあの一見大人しそうな男性に、こんな力があるなんてと思いながら、あることがふと頭に浮かんでくる。


 それは……世界中の誰もが知っていること……。


「異能……」

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