野神行武
火ヶ丸班は野神行武の事情聴取を終わらせると、野神の事について調べることになった。
火ヶ丸は羽枦区に住む野神の娘と妻に話を聞きに、泳斗と拳堂は手分けして区議会議員に野神に関する情報を聞きに回った。
すると、野神行武には娘が一人いて、その娘が産んだ孫が重い病にかかっていたことが発覚した。
手術にはドナーと莫大な金額がかかることから行われていなかったのだが、つい先日、急遽ドナーが見つかり手術が行われていた。
土伊と羊谷はその手術を執刀した医師に詳しい事情を聞くために病院を訪れていた。
「木村先生。正直に答えてください!!」
土伊と羊谷はある医師の診察室にある椅子に座っていた。
二人の目の前にいるのは白衣を着た小太りの中年男性 木村。
「……実はーー」
木村は観念したように下唇を噛み締めながら語りだした。
ある日、木村が自宅に帰ったときのこと。
リビングに学生服を着た人物がいた。
その傍らには、二つのトランクケースが置いてあった。
その人物は木村に気づくと振り返った。
顔を見せたのは、左目に眼帯を着けた濃緑色の髪をした男。
「いいいったい、誰だ?」
木村は驚いた様子を見せそういった。
「はじめまして木村先生。私はREVOLuZの者です。貴方にお願いがあってきました」
眼帯の男はそういうと机の上に一つトランクケースを置き、それを開いた。
トランクケースの中には大量の札束が入っていた。
「これで野神行武の孫の手術をしてください。ドナーは私達のほうで用意しています」
眼帯の男はそういうと不敵な笑みを浮かばせた。
「なるほど。ありがとうございました」
土伊はそういうと立ち上がり診察室を出ていこうとした。
「待ってくれ!! この事は警察には言わないでくれ」
木村は去ろうとする土伊と羊谷の背中に向けてそういった。
「分かりました。私達は警察にはいいません」
土伊はそういうと羊谷と共に診察室のドアを開けて出ていった。
しかし、それと入れ替わりにスーツを着た二人の男が部屋に入ってきた。
「あなた達はどちらさまですか?」
「警察です。詳しい事情を聞かせてください」
そこにいたのは羽枦警察署の八村と新馬だった。
木村は驚きのあまり口を開け、そのまま膝から崩れ落ちた。
土伊と羊谷が羽枦署に戻ると既に火ヶ丸と泳斗と拳堂が戻ってきていた。
土伊と羊谷は今さっき木村から聞いてきた情報を三人に告げた。
「火ヶ丸さん達は何か分かりましたか?」
土伊は自分のデスクに座っていた三人に向けてそう尋ねた。
「ああ野神行武の奥さんに話を聞きにいったんだがな、これが家に置いてあった」
火ヶ丸はそういうとトランクケースをデスクの中心に置いた。
「奥さんに話を聞いても主人の物じゃないって言ってたから怪しいと思って借りてきた」
「もしかしたら、これ眼帯の男が木村先生に渡したトランクとおんなじ物なんじゃ……」
羊谷は先ほどそういうと証拠品としていた木村が眼帯の男から受け取ったというトランクケースを机の上に置いた。
二つのトランクケースを比べると同じものであることが分かった。
「おそらく、眼帯の男が持ってた二つのトランクケースじゃないかしら」
「それでな娘にも話を聞いてきたんだが、野神行武が娘さんの子どもの治療費を全額出してくれたって」
火ヶ丸はそういった。
「もしかしたら、木村って医師と同様に野神さんが眼帯の男からお金を貰っていたってことかもですね」
拳堂は頭を悩ませながらそういった。
「ああ……ということは。野神行武がREVOLuZのメンバーって可能性がさらに高まったってことですね」
猫のイラストがプリントされているアイマスクを着けた泳斗はそういった。
その時、火ヶ丸の電話が鳴った。
火ヶ丸はその電話に出て、電話相手と一分ほど会話をすると電話を切った。
「一角が工場跡で行方をくらませたらしい。俺達も応援に行くぞ。拳銃携帯しとけ」
火ヶ丸はそういうと席を立ち上がった。
「ちょっと待ってください。拳銃携帯って一角君を探すだけじゃないんですか?」
土伊は立ち上がり倉庫へ向かおうとする火ヶ丸にそう尋ねた。
「いや、工場跡の倉庫に一角の時計が落ちていたそうだ。その時計の録音機能から何者かが一角を襲った可能性がある」
火ヶ丸はそういうと倉庫へと入っていった。
そして中から、拳銃を五丁持ってきた。
「よし、いくぞ」